「社員を辞めさせたいんだけど、何かいい方法ないかな?」
先日、あるクライアントからこんな相談を受けました。
「社員に辞めてもらいたいんだけど、何かいい方法ないかな?」
社労士事務所を経営していると、こういう相談を受けることがあります。
会社にもいろいろな事情があります。勤務態度に問題があったり、何度指導しても改善しなかったりして、経営者が本当に困っているケースもあります。だから、辞めてもらいたいと考えること自体がおかしいとは思いません。
ただ、その相談を聞いたとき、僕はこう考えました。
いや、そもそも他人を自分の思いどおりに動かす方法なんて、ないだろう。
会社が辞めてほしいと思っていても、本人が辞めたいと思っているとは限りません。むしろ、何があっても辞めたくないと思っているかもしれない。
会社に不満はあっても、今の給料が必要だから辞められない。自分には何も問題がないと思っている。会社の考えに納得できず、かえって辞めたくなくなることだってあるでしょう。
会社がどうしてほしいかと、本人がどうしたいかは、まったく別の話なんですよね。
もちろん、雇用契約には法律やルールがあります。会社として取れる対応もありますし、本人の意思だけですべてが決まるわけではありません。
でも、相手の気持ちや考え方を、こちらの都合で自由に変えることはできません。考えてみれば、当たり前の話です。
この相談をきっかけに、改めて気づいたことがあります。
僕たちは、仕事でもプライベートでも、驚くほど頻繁に他人を自分の思いどおりに動かそうとしている。そして、思いどおりに動いてくれないと、腹を立てている。

他人が思いどおりに動かないと、僕たちは腹を立てる
受ける相談は、退職の話だけではありません。
「社員が言うことを聞かない」
「もっと自分で考えて動いてほしい」
「何度注意しても同じ失敗をする」
「上司が自分の意見を理解してくれない」
「同僚が全然協力してくれない」
こういう相談を本当によく受けます。
会社の外でも同じです。家族にもっと協力してほしい。子どもに勉強してほしい。友人に自分の気持ちをわかってほしい。お客さんに商品を買ってほしい。
内容は違っても、突き詰めると同じ話です。
他人を自分の思いどおりに動かしたい。
そして、思いどおりに動いてくれないと、イライラします。
「なんでわからないんだ」「なんで言ったとおりにやらないんだ」「普通、こうするでしょ」
ときには怒ったり、相手を責めたり、失望したりする。
でも、そもそも他人が自分の思いどおりに動くはずなんてないんです。相手には相手の考えがあるし、価値観も事情もあります。
自分が正しいと思っていることを、相手も正しいと思っているとは限りません。自分が大切にしていることだって、相手にとってはそれほど大切ではないかもしれない。
そんなことは、頭では誰でもわかっているはずです。それなのに、いざ自分のことになると、相手が期待どおりに動くのを当然のように考えてしまう。
他人に勝手に期待して、勝手に失望して、勝手にイライラしている。人間って、こういう矛盾を平気で抱えています。
もちろん、約束を破られたり、仕事上の義務を果たしてもらえなかったりすれば、問題として対応する必要があります。相手に非があることだって、当然あります。
ただ、相手に問題があることと、相手を思いどおりに動かせることは別です。
どれだけこちらが正しくても、相手が納得するとは限らない。強くお願いしたからといって、そのとおりに動いてくれるとも限らない。
イライラしているときほど、この当たり前のことが頭から抜けてしまいます。
(イライラしたときの気持ちの扱い方は、以前人にイラっとしたときの対処法という記事にも書きました。)
まず、はっきり伝えなければ何も始まらない
ここで、最初の退職相談に戻ります。
社員に辞めてもらいたいと思っている。でも、本人にはなかなかその話ができない。
できれば本人から「辞めます」と言ってほしい。こちらからはっきり言わなくても、何となく察してほしい。
そう考える経営者もいると思います。
気持ちはわかります。退職の話なんて、誰だって言いにくいものです。相手がどう反応するかわからないし、トラブルになるかもしれない。
でも、そんなの無理ですよね。
こちらが何を考えているのか、伝えなければ相手にはわかりません。
会社が本人をどう評価しているのか。何に困っているのか。何を改善してほしいのか。今後どうしていきたいと考えているのか。
その話をしないまま、本人から望みどおりの答えが出てくるのを待っていても、なかなか進みません。
退職の話に限りません。社員にもっと頑張ってほしいと思っているとします。
「もっと主体的に動いてほしい」
「もっと責任感を持ってほしい」
「もっと周りを見て行動してほしい」
でも、本人はそんなことを期待されていると理解しているのでしょうか。
仮に伝えていたとしても、「主体的に動く」とは具体的にどういうことなのか。何を、いつまでに、どの程度できるようになってほしいのか。そこまで伝わっているかは、確かめてみないとわかりません。
こちらは何度も伝えたつもりでも、相手は何を求められているのかわかっていないかもしれない。「普通はわかるでしょ」と思っても、その「普通」が人によって違うんです。
だから、まずは自分が何を望んでいるのかを、具体的に、はっきり伝える。
相手に期待していること。困っていること。改善してほしいこと。会社として譲れないこと。ときには、耳の痛いことも伝えなければならないでしょう。
相手を尊重するというのは、言いにくいことを言わないという意味ではありません。
ただし、退職については、会社の希望を伝えることと、本人に退職を強要することは違います。会社の考えを説明し、本人の意思を確認しながら、適切に進める必要があります。会社から退職を勧められても、それに応じるかどうかを決めるのは、あくまで本人です。
伝えたからといって、相手が動くわけでもない
自分の考えをはっきり伝えた。何をしてほしいのかも説明した。相手にも理解してもらえた。
では、それで相手は思いどおりに動いてくれるのでしょうか。
そうとは限りません。
退職してほしいと伝えても、本人は辞めたくないかもしれない。もっと頑張ってほしいと伝えても、今のままで十分だと思っているかもしれない。
仕事のやり方を変えてほしいと言われても、本人にすれば、今のやり方が正しいという考えもあるでしょう。
伝わることと、納得することは違います。そして、納得することと、実際に行動することも違います。
こちらの話を理解したうえで、違う判断をすることもある。必要性には納得していても、なかなか行動を変えられないこともある。
逆に、十分に納得していなくても、仕事上必要だからと行動を変えることもあるでしょう。人間はそんなに単純ではありません。
じゃあ、人はどういうときに行動を変えるのか。
人が行動を変える理由は、前向きなものばかりではない
よく「人は自分で変わりたいと思ったときに変わる」と言われます。
確かに、そういう面はあると思います。もっと仕事ができるようになりたい。給料を上げたい。周りから認められたい。そういう気持ちがあれば、人は自分から努力するかもしれません。
ただ、僕は、行動が変わる理由は前向きな気持ちだけではないと思っています。
このままでは評価が下がってしまう。
今のやり方では、周りに迷惑をかけ続けてしまう。
この仕事は自分には向いていない。
この会社にいても、自分の望むことは実現できない。
そう感じて、行動を変えることもあります。
会社に期待していたけれど、失望した。このまま働き続けても仕方がないと感じた。だから転職することにした。そういう人だっています。
自分にメリットがあるから動くこともあれば、損を避けるために動くこともある。相手の説明に納得して変わることもあれば、必要なルールだと理解して従うこともある。
今の状況に見切りをつけて、別の道を選ぶ人もいます。「夢や未来を見せれば人は変わる」という話でもないんですよね。
退職の話で考えてみます。
会社が「辞めてほしい」と伝えたところで、本人がすぐに退職を決めるとは限りません。まだこの会社でやりたいことがあると思っているかもしれないし、生活のために働き続けたいのかもしれない。
一方で、会社の考えを聞いて、自分の適性や今後の働き方を考え直し、別の仕事を選ぶ人もいるでしょう。
誤解のないように書いておくと、本人を失望させたり、不利益を与えたりして、退職に追い込んでいいという話ではありません。
人が何を理由に、どんな選択をするかは、その人自身の考えと判断によるということです。
こちらがどれだけ説明しても、相手の頭の中で何が起きるのか、どんな感情が生まれるのかまではわかりません。何に納得して、何に納得しないのか。最終的にどう判断するのか。そこまでこちらで決めることはできません。
もちろん、仕事であれば、本人の気持ちにかかわらず守るべきルールや、果たすべき役割があります。会社として必要な指示を出したり、問題があれば指導したりすることも当然必要です。
それでも、本人がどう受け止め、どう行動するかまで完全にコントロールできるわけではない。自分の考えを伝えた後も、相手は相手の考えで判断します。
それでも、僕たちは他人の協力なしには何もできない
ここまで読むと、「他人は変えられないんだから、諦めるしかない」という話に聞こえるかもしれません。
僕は、そうは思っていません。
僕たちは、他人の協力なしには、ほとんど何も実現できません。社員に働いてもらわなければ、会社は回らない。お客さんに買ってもらわなければ、売上も立ちません。
新しい事業を始めるにも、仕事を進めるにも、上司や同僚、取引先の協力が要ります。家族や友人の協力があって、初めてできることもたくさんあります。
考えてみると、とても矛盾した状況です。
他人を思いどおりに動かすことはできない。でも、他人に動いてもらわないと、自分の望むことは実現できない。
じゃあ、どうするのか。
「他人は変えられない。だから仕方がない」と言って、何もしないわけにもいきません。
相手が動くかどうかは決められなくても、協力してもらえるように働きかけることはできます。
説明する。お願いする。相手の話を聞く。条件を調整する。相手にとってもメリットのある方法を考える。
うまくいかなければ、別の方法を試す。他人をコントロールできなくても、自分にできることは残っています。
そもそも、相手はあなたに協力したいと思っているか
ここで、僕がとても大切だと思っていることがあります。
そもそも相手は、あなたに協力したいと思っているのか。
経営者が社員に「もっと会社のために頑張ってほしい」と思っているとします。でも、その社員は、なぜ会社のために頑張ろうと思うのでしょうか。
頑張っても評価されない。意見を言っても聞いてもらえない。困っているときに助けてもらえない。自分のことを理解しようともしてくれない。
そんな関係だったら、会社のために頑張りたいとは、なかなか思えないですよね。
これは社員に限った話ではありません。僕たちだって、自分を大切にしてくれる人には協力したいと思います。困っているときに助けてくれた人が困っていたら、今度は自分が何かしたいと思うものです。
反対に、普段は自分の都合ばかり押しつけてくる人からお願いされても、あまり協力したいとは思いません。
それなのに、誰かにお願いするときは、自分が何をしてほしいかばかり考えてしまいがちです。
自分は、相手の役に立てているだろうか。
相手が困っているときに、助けているだろうか。
相手が大切にしていることを、理解しようとしているだろうか。
こういうことは、意外と考えていない気がします。相手に協力してほしいなら、まず自分が相手に協力することも考えたいところです。
ただし、何かしてあげたからといって、必ず見返りがあるわけではありません。「これだけやってあげたんだから、言うことを聞くべきだ」と要求するのも違います。信頼関係は取引ではありません。
それでも、普段から相手の役に立とうとしている人と、そうでない人では、お願いされたときの気持ちは違うと思います。
人を動かすことばかり考えていると、自分が相手からどう見えているのかには、なかなか目が向きません。
あなたのお願いは、相手のためにもなっているか
もう一つ考えたいのは、自分のお願いが、相手にとってどんな意味を持っているかです。
社員にもっと成長してほしいと思っているとします。でも、本人は成長したいと思っているのでしょうか。
給料を上げたいのかもしれない。責任のある仕事を任されたいのかもしれない。周りから認められたいのかもしれない。
逆に、今の給料で十分だから、仕事よりもプライベートを大切にしたいと思っているかもしれません。
人によって、望んでいることは違います。そこを知らないまま「もっと成長しろ」「もっと頑張れ」と言っても、なかなか動いてもらえません。
本人が給料を上げたいのであれば、どういう仕事ができるようになれば評価が上がるのかを伝えられます。仕事ができるようになりたいのであれば、成長の機会をつくれます。
負担を減らしたいのであれば、業務改善が本人にとっても会社にとってもプラスになるかもしれません。
相手の望みと、自分の望みを重ねるということです。
会社は、社員にもっと成果を出してほしい。社員は、もっと給料を上げたい。だったら、成果が評価や報酬につながる仕組みを考える。
会社は、業務改善をしてほしい。社員は、もっと楽に仕事をしたい。その場合は、業務改善で社員の負担も減るようにする。
もちろん、こんなにきれいに望みが一致することばかりではありません。会社としてお願いしなければならない仕事の中には、本人がやりたくないこともあるでしょう。
それでも、相手の望みを知っていれば、お願いの仕方や、協力してもらうための条件を考えられます。
相手をうまく言いくるめようとしても、こういう関係はつくれません。相手の望みを叶えることが、自分の望みを叶えることにもつながるなら、お互いにとっていいと思うんです。
そのためには、まず相手が何を望んでいるのかを知る必要があります。自分が何をしてほしいかばかり考えていると、そこが見えなくなってしまいます。

言うべきことは言う。でも、正しさだけでは状況は変わらない
ときには、相手にとって嫌なことも伝える
相手を理解する、相手の望みを知る、相手の役に立つ。ここまでは、そういう話をしてきました。
ただ、相手が喜ぶことだけをしていればいいわけではありません。仕事をしていれば、耳の痛いことを伝えなければならない場面もあります。
社員の仕事ぶりに問題があるとします。本人は一生懸命やっているつもりかもしれない。でも、会社が求めている水準には届いていない。
そのとき、本人が傷つくかもしれないからと何も伝えないのは、違うと思います。
何ができていないのか。どの水準まで改善してほしいのか。今のままでは何が問題なのか。
人格を否定したり、感情的に怒鳴ったりせずに、伝えることはできます。嫌われたくないという気持ちから、必要なことまで曖昧にしてしまうのは困ります。
そして、伝えた結果、相手がどう感じるかは、やはり相手次第です。
納得して改善しようと思うかもしれない。不満を持つかもしれない。自分には向いていないと考えたり、別の働き方を選ぼうと思ったりすることもあるでしょう。
こちらにできるのは、必要なことを適切に伝え、相手の考えを聞き、必要な対応を取ることです。相手の気持ちを尊重しながら、伝えるべきことを伝える。その両方が必要です。
言いにくいことを避け続けた結果、お互いに困ってしまうこともあると思います。
正しいことを言えば、相手が動くわけではない
社員が仕事上のルールを守っていなかったとします。
会社としては、当然改善してもらう必要があります。注意もするでしょう。でも、注意したからといって、必ず改善するとは限りません。
ルールの必要性を理解していないのかもしれない。何をどう改善すればいいのか、わかっていないのかもしれない。納得できないことがあるのかもしれない。
理解はしているけれど、本人の姿勢や能力、あるいは職場の環境の問題で実行できていない場合もあります。
理由によって、必要な対応は変わります。
それなのに、僕たちはつい「何回言ったらわかるんだ」と考えてしまう。何回言っても変わらないのであれば、同じ説明を繰り返すだけではうまくいかない可能性が高いと思います。
伝え方を変えてみる。本人が何に困っているのかを確かめる。具体的な行動を一緒に決める。仕事の仕組みを見直す。
どこに原因があるのかによって、試すことも違ってきます。それでも改善しないのであれば、会社として必要な対応を考えなければなりません。
正しいことを言うのと、実際に状況を変えるのは、別の話です。
僕たちが本当にやりたいのは、状況をよくすることのはずです。相手に自分の正しさを認めさせようとするうちに、そちらを忘れてしまうことがあります。
「あの人が悪い」で終わっても、自分の望みは叶わない
社員が全然仕事をしてくれないとします。
注意しても変わらない。何度説明しても、同じ失敗を繰り返す。
そんな状況なら、経営者が腹を立てるのもわかります。実際に、社員の側に問題があることもあるでしょう。
ただ、相手が悪いと証明できたら、それで問題は解決するのでしょうか。
「あの社員はやる気がない」「能力が足りない」「あの社員が悪い」。
そういう結論になっても、それだけで会社の仕事が回るようにはなりません。
原因を明らかにすることは大切です。責任の所在をはっきりさせなければならない場面もあります。でも、誰が悪いかを決めることと、問題を解決することは別です。
自分が本当に望んでいるのは何なのか。
社員がちゃんと仕事をしてくれることなのか。業務が滞りなく回ることなのか。社員に成長してもらうことなのか。あるいは、今の体制そのものを変えることなのか。
そこを考えないまま相手への不満を口にしていても、前には進みません。
相手に問題があるとしても、「じゃあ、自分はどうするか」は残ります。
本人と話し合うのか。具体的な改善目標を決めるのか。教育するのか。仕事のやり方を変えるのか。役割を見直すのか。別の人に任せるのか。必要なルールに従って、会社として対応するのか。
選択肢はいろいろあります。何をやってもうまくいかないこともあるでしょう。それでも、自分の望む状態に近づくために、まだできることがあるかもしれません。
「自分次第」は、全部自分の責任という意味ではない
ここまで書くと、「結局、全部自分が悪いということか」と感じる人もいるかもしれません。
そういう話ではありません。
相手に問題があることはあります。どれだけ努力しても、協力してもらえないこともあります。
丁寧に説明しても納得してもらえないし、相手のために動いても何も返ってこない。そんなことだってあるでしょう。
そもそも、他人を思いどおりに動かすことはできないんですから、自分の努力だけではどうにもならないことがあります。
自分が頑張れば必ず相手が変わる、と考える必要はありません。相手が変わらないのは自分の努力が足りないからだと、全部を背負い込まなくていい。際限なく我慢したり、努力し続けたりする必要もないんです。
大切なのは、自分の責任かどうかと、自分に何ができるかを分けて考えることです。
雨が降ってきたとします。
雨が降るのは、自分の責任ではありません。でも、濡れたくないのであれば、傘を差すなり、屋根のある場所に移るなり、自分で何かをする必要があります。
雨に腹を立て続けても、雨は止みません。
人との関係も、これに近いところがあります。相手がどうするかは自分では決められなくても、その相手とどう関わるかは、自分で決められます。
協力してくれないなら、協力してもらう方法を考える。それでも難しければ、協力してもらえないことを前提に、別の方法を考える。
関わり方を変える。役割を変える。場合によっては、距離を置く。
相手が変わらないと受け入れた後にも、こうした選択肢があります。相手が変わらないという現実を踏まえて、自分の次の行動を自分で決めることはできるんです。
自分の望みを叶えたいのは、結局、自分
僕は、ここが一番大切だと思っています。
会社をよくしたい。社員にもっと頑張ってほしい。もっと協力してほしい。もっと成長してほしい。
それを望んでいるのは、誰でしょうか。
まずは、自分ですよね。
もちろん、実現すれば社員やお客さんのためにもなるかもしれません。でも、少なくとも自分が実現したいと思っていることです。だったら、そのために自分が動く必要があります。
社員が協力してくれないから。上司が理解してくれないから。お客さんがわかってくれないから。
そういう理由で望みが実現しないこともあるでしょう。
でも、そこで止まってしまったら、自分のやりたいことが実現するかどうかを、他人に預けていることになります。
僕は、それはもったいないと思うんです。
他人を変えたい。でも、自分は変わりたくない
考えてみると、僕たちはずいぶん都合のいいことを考えています。
他人には変わってほしい。もっと頑張ってほしい。もっと理解してほしい。もっと協力してほしい。
でも、自分は今のままでいたい。考え方も、伝え方も、行動も、変えたくない。
他人を変えたい。でも、自分は変わりたくない。
これでは、なかなかうまくいきません。
自分が変われば必ず相手が変わる、というわけではありません。それでも、伝え方を変えたら、相手の受け取り方が変わることはあるかもしれない。
相手の話を聞くようになれば、今まで気づかなかった考えがわかるかもしれない。相手の役に立つことを考えるようになれば、相手も協力したいと思ってくれるかもしれません。
他人を直接変えることはできなくても、変わるきっかけをつくることはできます。自分の伝え方や行動なら、試せることはたくさんあります。

結局、僕たちにできること
最初の相談に戻ります。
「社員を辞めさせたいんだけど、何かいい方法ないかな?」
この相談への僕の答えは、やっぱり「相手を思いどおりに動かす方法はない」です。
そのうえで、できることはあります。
なぜ辞めてほしいのか。何が問題なのか。会社として本当に実現したいことは何なのか。まずは、そこを整理する。
そして、次の順番で進めることになると思います。
- 自分の考えを、はっきり伝える。 察してもらうのを待たない。会社がどう評価していて、何に困っていて、何を求めているのかを、具体的に言葉にする
- 相手がどう考えているのかを聞く。 本人は何を望んでいるのか、会社の話をどう受け止めたのかを確かめる
- 相手が判断するための情報や条件を整える。 改善してほしいなら、何をどこまでできればいいのかを示す。今後について考えてもらうなら、そのために必要な材料を出す
- それでも、相手がどう判断するかは決められない。 伝えたとおりに動くとは限らないことを、最初から前提にしておく
- その結果を踏まえて、自分が次にどうするかを考える。 指導を続けるのか、役割を変えるのか、会社として必要な対応を取るのか
退職については、会社の考えを伝えることと、退職を強要することは違います。辞めるかどうかを決めるのは本人であり、その自由を尊重する必要があります。
話し合ってみたら問題が改善して、辞めてもらう必要がなくなるかもしれない。お互いの考えがわかって、別の役割で力を発揮してもらえるかもしれない。
本人が、自分で別の道を選ぶこともあるでしょう。
簡単には解決しないこともあります。それでも、相手を思いどおりに動かす方法を探し続けるより、今の状況をどうすればよくできるかを考える方が、ずっと前に進めます。
これは、退職の相談に限った話ではありません。
社員にもっと頑張ってほしい。上司に理解してほしい。同僚に協力してほしい。お客さんに買ってほしい。家族にわかってほしい。
僕たちは毎日、他人にいろいろなことを望んでいます。その望みを叶えるには他人の協力が要るのに、思いどおりに動いてもらえるわけではありません。
だからこそ、自分が何を望んでいるのかをはっきり伝える。相手の考えを聞く。相手の望みを知る。相手の役に立つ。必要なら厳しいことも伝える。相手が判断できるだけの材料を整える。
それでも相手が動かないなら、また別の方法を考える。僕たちにできるのは、そういうことなんだと思います。
相手がどうするかは、相手次第。そのうえで、自分がどうするかは、自分次第。
他人を思いどおりに動かす方法なんてない。でも、他人に協力してもらうために、自分にできることはたくさんある。
それを考えて、動き続けること。
社労士事務所でたくさんの経営者の悩みを聞いてきた僕が、今たどり着いている結論です。
社員との関係や伝え方で迷っていることがあれば、話を聞かせてください。
