12月の賞与の支給日が近づいてきました。金額は決まったものの、給与計算のほかに何をすればよかったか、はっきり思い出せない。去年は誰がどう処理したのか、引き継ぎの記録も見当たらない。
毎月の給与と違い、賞与を支給するのは年に数回。前回の処理から間が空くと、届出の期限や保険料の計算方法も忘れがちです。
私たちは社会保険労務士法人として、中小企業の給与計算や社会保険の手続きをお受けしています。賞与の手続きも、法令と日本年金機構の案内に沿って進めています。
賞与を払った会社に必要なのは、賞与支払届の提出、社会保険料の控除、源泉所得税の徴収の3つです。賞与支払届は、賞与を支払った日から5日以内に出します。
この記事では、届出の出し方と保険料の計算を、作業の流れに沿って説明します。育休中や退職する社員への支給など、迷いやすい3つの場面も取り上げました。自社の支給日程と照らし合わせ、誰が何を担当するかを決める際にお使いいただければと思います。最後には、社内で手続きを続けるか、外部に任せるかを考える目安も載せています。
賞与を払った会社がやること
賞与の支給に伴う作業は、次の3つです。
| やること | 何をするか | 根拠・出典 |
|---|---|---|
| 賞与支払届 | 支給した賞与の額を、年金事務所などへ届け出る | 健康保険法施行規則27条1項、厚生年金保険法施行規則19条の5第1項 |
| 社会保険料の控除 | 賞与から健康保険・厚生年金保険の保険料を計算し、本人負担分を控除する | 健康保険法45条1項、厚生年金保険法24条の4第1項 |
| 源泉所得税 | 賞与から源泉所得税を計算し、徴収する | 国税庁タックスアンサーNo.2523 |
この記事で扱う社会保険は、健康保険と厚生年金保険です。
雇用保険の被保険者に払う賞与には、雇用保険料もかかります。労働保険徴収法2条2項の「賃金」には賞与が含まれ、同法31条1項により、被保険者も保険料の一部を負担するためです。雇用保険料の計算は、この記事では扱いません。
そもそも何が「賞与」なのか
社会保険では、支給するお金の名前だけで賞与かどうかを判断しません。健康保険法3条6項と厚生年金保険法3条1項4号は、賞与を次のように定めています。
> 賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受ける全てのもののうち、三月を超える期間ごとに受けるもの
「ボーナス」「決算手当」「寸志」など、呼び方にかかわらず、労働の対償として3か月を超える期間ごとに受けるものが賞与にあたります。
日本年金機構の案内では、年3回以下の支給が賞与です。年4回以上支給するものは、原則として標準報酬月額の対象となり、毎月の保険料の計算に入ります。ただし、支給回数の数え方には決まりがあるため、詳しくは後ほど取り上げます。
結婚祝金など、労働の対償にあたらないものは対象に含まれません。
3つは同じ日にまとめて起きる
3つの作業は、いずれも賞与の支給日を起点に進みます。
支給日に向けて保険料と源泉所得税を計算し、賞与から差し引きます。支給後は、支給日から5日以内に賞与支払届を提出します。社会保険料の額が決まらなければ、給与計算で手取り額を確定できません。
届出までの期間も短いので、計算する人と届出を出す人、それぞれが作業する日を支給前に決めておくと、あわてずに済みます。
賞与の金額や支給基準の決め方は、賞与の決め方で取り上げています。

賞与支払届の出し方と期限
期限は支給日から5日以内
賞与支払届の提出期限について、健康保険法施行規則27条1項と厚生年金保険法施行規則19条の5第1項は「賞与を支払った日から五日以内」と定めています。期限の数え方に迷ったときは、提出先の年金事務所に確認すると確実です。
協会けんぽに加入している会社も、年金機構に1枚提出すれば足ります。厚生年金保険法施行規則19条の5第1項の後段で、健康保険の届出を併記することが認められているためです。
提出先と出し方
協会けんぽに加入している会社の提出先は、事務センターまたは管轄の年金事務所です。
健康保険組合に加入している会社は、厚生年金保険の分を日本年金機構へ、健康保険の分を加入先の健康保険組合へ出します。健康保険法施行規則27条1項も、提出先を「機構又は健康保険組合」としています。組合への提出方法は、加入先の案内で確かめます。
日本年金機構の「従業員に賞与を支給したときの手続き」では、次の4つの提出方法を案内しています。
- 電子申請
- 電子媒体(CD・DVD)
- 郵送
- 窓口への持参
出典:日本年金機構「従業員に賞与を支給したときの手続き」(2026年10月6日更新)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20141203.html
届出用紙は、賞与支払予定月の前月に会社へ送られてきます。被保険者の氏名などが印字されているので、支給月が近づいたら、届いているか確認しておくと安心です。
賞与を払わなかったときは「不支給報告書」
賞与の支払予定月に支給しなかった場合は、「賞与不支給報告書」を出します。今回は支給を見送った、というときも報告が必要です。
翌月までに届出がない会社には、翌々月に催告状が届きます。
社会保険料の計算
保険料の基になるのは標準賞与額
賞与の保険料は、標準賞与額に保険料率を掛けて計算します。標準賞与額とは、実際の賞与額から1,000円未満を切り捨てた額です(健康保険法45条1項、厚生年金保険法24条の4第1項)。
協会けんぽの健康保険料率は、都道府県ごとに異なります。この記事には具体的な料率を載せていないため、計算の際は、加入している保険者の最新の料率を確認します。
健康保険の計算では、掛ける料率が1つとは限りません。健康保険法156条1項は、標準賞与額に掛ける率を、一般保険料率に子ども・子育て支援金率を合わせた率と定めています。40歳以上65歳未満の介護保険第2号被保険者には、さらに介護保険料率も掛かります。
子ども・子育て支援金は、令和8年4月分の保険料から加わったもので、賞与にもかかります(協会けんぽ・こども家庭庁の案内)。事業主だけが負担する「子ども・子育て拠出金」とは別のものです。
計算は、次の順に進めます。
- 賞与の額から、1,000円未満を切り捨てて標準賞与額を出す
- 標準賞与額に、その人に当てはまる率(健康保険は子ども・子育て支援金率を含めた率、介護保険第2号被保険者は介護保険料率も)と厚生年金保険料率を掛ける
- 保険料の半分を本人負担分とする(健康保険法161条1項、厚生年金保険法82条1項)
健康保険組合に加入している会社では、組合の規約で会社の負担割合が増やされている場合があります(健康保険法162条)。本人負担の割合は、組合の案内で確かめます。
たとえば、賞与が352,800円なら、標準賞与額は352,000円です。1,000円未満にあたる800円を切り捨てるので、実際に払う賞与額とは差が出ます。
ここで説明した端数処理は、標準賞与額を出す際の1,000円未満の切り捨てです。料率を掛けたあとの保険料に生じる端数の処理は、この記事では扱っていません。給与計算の取り決めや、加入先の案内で確認する必要があります。
上限がある
標準賞与額には、上限があります。
| 保険 | 上限 | 数え方 |
|---|---|---|
| 健康保険 | 年度(4月1日から翌年3月31日)の累計で573万円 | 年度の中で払った賞与の標準賞与額を足していく |
| 厚生年金保険 | 1か月で150万円 | 同じ月に2回以上払ったときは、その月の合計で届け出て、合算した額に上限を当てる |
厚生年金保険で同じ月の支給分を合算する扱いは、日本年金機構の案内に示されています。同じ月に2回に分けて払った場合も、上限を適用するのは2回分を足した額です。
条文は、e-Gov法令検索で2026年10月29日に確認しました。取得した版の改正施行日は2026年10月1日です。上限額は改正されることがあるため、実際に計算する時点で、日本年金機構の案内もあわせて確かめます。
源泉所得税は別の計算
源泉所得税と社会保険料では、計算の仕組みが異なります。
国税庁のタックスアンサーNo.2523(令和8年4月1日現在法令等)では、原則として「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使います。
扶養控除等申告書を出している人に使うのは「甲欄」です。前月の給与から社会保険料などを差し引いた額と、扶養親族等の数をもとに税率を決めます。申告書を出していない人には「乙欄」を使います。
決まった税率を「賞与の額から社会保険料などを引いた額」に掛け、1円未満を切り捨てます。
ただし、次の場合は別の計算が必要です。
- 社会保険料などを差し引いた賞与の額が、社会保険料などを差し引いた前月の給与の10倍を超えるとき
- 前月に給与がないとき
どちらも月額表を使います。詳しい計算式は、国税庁のページに掲載されています。
出典:国税庁タックスアンサーNo.2523「賞与に対する源泉徴収」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2523.htm
賞与から差し引く社会保険料などの額が決まってから、源泉所得税を計算します。

迷いやすい場面
育休中や退職する社員に賞与を払うとき、年4回以上支給するときは、通常と扱いが変わります。
育休中の社員に賞与を払うとき
育児休業中の社員に支給する賞与は、保険料が免除される場合があります。ただし、育休に入っていれば自動的に免除されるわけではありません。
根拠となる条文は、健康保険法159条1項と厚生年金保険法81条の2第1項です。賞与の保険料が免除されるのは、育児休業等の期間が「一月を超える」場合に限られます。
条文の括弧書きでは、育児休業等の期間が1か月以下の人について、免除を「標準報酬月額に係る保険料に限る」としています。1か月以下の育休では、毎月の保険料が免除されても、賞与の保険料は免除されません。
日本年金機構の案内では、次の2点が示されています。
- 賞与月の末日を含む連続した1か月を超える育休が要件になる
- 1か月を超えるかどうかは、土日も含めた暦日で数える
この扱いの対象は、令和4年10月1日以降に開始した育休です。
出典:日本年金機構「令和4年10月分以降の育児休業等期間中の保険料免除の取扱い」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2022/202210/100302.html
処理の際は、育休の日数を暦日で数え、賞与月の末日を含む連続した期間が1か月を超えているかを確かめます。毎月の保険料を免除している人でも、育休が1か月以下なら、賞与の保険料は差し引く必要があります。
免除を受けるには、会社からの申出も必要です。条文では「事業主が…申出をしたときは」と定められています。
退職する社員に賞与を払うとき
退職する社員の賞与は、退職日によって扱いが分かれます。
日本年金機構の案内では、資格喪失月に払った賞与は保険料の対象外です。資格を失う日は、退職日の翌日です(健康保険法36条、厚生年金保険法14条)。
次の表は、入社した月より後の月に退職する場合の基本的な扱いです。入社した月にそのまま退職する場合は、日本年金機構の案内に別の扱いが示されています。
| 退職の日 | 資格喪失日 | その月に払った賞与 |
|---|---|---|
| 月の途中 | 同じ月の中の日 | 保険料はかからない |
| 月末 | 翌月1日 | 保険料がかかる |
月末に退職する人は、資格喪失日が翌月1日なので、退職した月はまだ被保険者です。その月に払った賞与には保険料がかかります。一方、月の途中で退職する人は資格喪失日も同じ月にあるため、その月の賞与には、厚生年金保険・健康保険ともに保険料がかかりません。
「退職するから保険料は引かない」と考えると、月末退職の人の控除を誤ってしまいます。退職予定の有無だけでは判断できないので、退職日と資格喪失日を確認します。
健康保険では、保険料がかからない場合も確認が必要です。喪失日の前日までに払った賞与は標準賞与額として決定され、年度の累計に入ります。この扱いも、日本年金機構の案内に記載されています。
年4回以上払うとき
賞与にあたるのは、3か月を超える期間ごとに受けるものです。日本年金機構の案内では、年3回以下の支給を賞与としています。
ただ、年4回以上の支給にあたるかどうかは、その年に払った回数だけでは決まりません。厚生労働省の通知「健康保険法及び厚生年金保険法における賞与に係る報酬の取扱いについて」(昭和53年6月20日保険発第72号・庁保険発第9号。平成30年7月30日の一部改正後)は、次のように定めています。
- 7月1日現在で、給与規程などの諸規定により年4回以上の支給が客観的に定められているか、7月1日前の1年間に4回以上支給されているときに、その賞与は報酬(毎月の保険料の計算に入るもの)になる
- 支給回数は、名称が違っても同じ性質のものごとに数える。例外的に分割して払ったものは1回とし、その年に限り払ったことが明らかな賞与は数えない
- 7月2日以降に支給回数を変えても、次の定時決定(7月・8月・9月の随時改定を含む)による標準報酬月額が適用されるまで、扱いは変わらない
出典:厚生労働省保険局保険課長・年金局事業管理課長通知「『健康保険法及び厚生年金保険法における賞与に係る報酬の取扱いについて』の一部改正について」(平成30年7月30日 保保発0730第1号・年管管発0730第1号、日本年金機構サイト掲載)
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2018/20181023.files/01.pdf
「今年は4回目だから賞与支払届は要らない」と、その場で決めることはできません。迷う場合は、規程と前年7月からの支給実績を用意して、年金事務所に確かめるのがよいと思います。
昇給や手当の変更で毎月の保険料が変わる場面は、昇給したら社会保険料はいつから上がる?で説明しています。手当によって保険料の扱いが変わる点は、非課税の手当でも社会保険料はかかる?にまとめました。
賞与まわりで起きやすい3つの失敗
実際の処理では、こうした間違いにも気をつけたいところです。
| 起きやすい失敗 | 確かめること |
|---|---|
| 不支給報告書を出し忘れる | 賞与の支払予定月に払わなかったら、不支給報告書を出す |
| 月末に退職した人の賞与の保険料を引かない | 月末退職なら資格喪失日は翌月1日。その月の賞与には保険料がかかる |
| 1か月以下の育休で、賞与の保険料を免除にする | 賞与の保険料が免除になるのは、1か月を超える育休だけ |
自社でやるか、任せるかの判断軸
ここまでの手続きは、手順に沿って進めれば自社でも対応できます。社内で続けるか、外部に任せるか。考える際には、支給の頻度、社員の状況、担当者の体制という3つの点から、今の作業を振り返ってみるとよいと思います。
判断軸1:賞与の支給が年に何回あるか
賞与が年に1〜2回なら、手続きも年に1〜2回です。作業の間隔が空くぶん、前回のやり方を思い出すところから始めることもあります。
社内で続けるなら、処理したときに手順を残しておくと、次回はその記録を見ながら進められます。担当者が変わった際の引き継ぎにも使えます。
判断軸2:例外の場面が出るか
育休中の社員や、月末前後に退職する社員がいる場合は、それぞれの扱いを確かめる必要があります。
条文や日本年金機構の案内を見ながら1人ずつ判断する作業を、社内でどこまで担えるか。調べる時間を取れるかどうかも、検討の材料です。
判断軸3:担当者が休んだときに回るか
賞与支払届の提出期限は5日以内です。担当者が休んでいる間も期限に間に合うように処理できるか、考えておきたいところです。代わりに処理できる人がいなければ、手順書を整えて引き継げるようにするか、外部に任せる方法を検討します。
外部に任せる場合は、給与計算とあわせて依頼する方法もあります。費用の目安や依頼できる範囲は、給与計算アウトソーシングとは?で解説しています。

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