「本社は千葉なんですが、店舗は東京にもあります。最低賃金は、どちらの県の額で見ればいいですか」
複数の県に店舗がある会社から、よくいただく質問です。似た質問に、次のようなものもあります。
- 千葉の店舗から東京の店舗に異動した人は、どちらの県の額か
- 給与ソフトの賃金テーブルが千葉の1本だけだが、それで足りるのか
私たちは社会保険労務士法人として、中小企業の給与計算と社会保険の手続きをお受けしています。
この記事では、最低賃金をどの県の額で見るか、その根拠と、県のずれで最低賃金を下回りやすい場面、確認の手順をまとめました。読み終えたときには、自社の全員について「どの県の額と比べるか」を判断できるはずです。
結論は、その人が働く事業場(店舗)がある県の額で見る、ということです。本社や給与ソフトのテーブルがどの県になっているかでは決まりません。派遣で働く人には、派遣先の事業場がある県の額が適用されます。
結論:働いている事業場の県で見る
地域別最低賃金は、都道府県ごとに1つずつ決まっています。どの県の額が適用されるかは、会社の本社がどこにあるかでは決まりません。
| 働き方 | 比べる最低賃金 |
|---|---|
| 千葉の本社・店舗で働く | 千葉県の額 |
| 東京の店舗で働く(本社は千葉) | 東京都の額 |
| 千葉の店舗から東京の店舗へ異動した | 異動した日からの労働は東京都の額 |
| 東京の事業場に所属し、千葉の自宅でテレワークする | 東京都の額(所属する事業場の県) |
| 派遣会社から東京の派遣先で働く | 東京都の額(派遣先の事業場の県) |
2026年度の額は、東京都が1,280円、千葉県が1,195円で、どちらも2026年10月1日に発効しています。差は85円です。
それぞれの県の額は、【2026年度】東京都の最低賃金はいくら?と【2026年度】千葉県の最低賃金はいくら?にまとめています。

どの県で見るかの根拠
最低賃金法は「地域ごと」に額を決める
最低賃金法9条1項は、地域別最低賃金を「一定の地域ごとの最低賃金」とし、全国の各地域について決めなければならないとしています。決めるのは、厚生労働大臣か都道府県労働局長です(最低賃金法10条1項)。
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません(最低賃金法4条1項)。
「都道府県内の事業場で働く労働者」に適用される
どの労働者にどの県の額が適用されるかについて、厚生労働省は次のように説明しています。
「地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます」
パート・アルバイト・嘱託といった雇用形態や呼び方は問いません。基準になるのは、働いている事業場の所在地です。
店舗は原則として1つの事業場
京都労働局の資料によると、最低賃金でいう事業場の範囲は、労働基準法と同じ考え方で決まります。場所が分かれていれば、原則として別の事業場として扱うとの説明です。
そのため、県をまたいで店舗がある会社では、店舗ごとにその県の額を見ます。
例外は、駅の小さな売店のように規模が著しく小さく、一つの事業場といえるほどの独立性がない場合です。その場合は、直近上位の組織とまとめて一つの事業場として扱うとされています。
同じ資料には、滋賀県内の小さな売店で働く人の例も載っています。所属する直近上位の支店が京都府内にあれば、適用されるのは京都府の最低賃金です。
テレワークは所属する事業場の県
厚生労働省のテレワークのQ&Aでは、働く場所にかかわらず、その労働者が属する事業場がある都道府県の最低賃金が適用されるとしています。
自宅が千葉県でも、東京の事業場に所属してテレワークをしているなら、比べるのは東京都の額です。
派遣は派遣先の事業場の県
派遣中の労働者には、派遣先の事業の事業場の所在地を含む地域について決められた地域別最低賃金の額で、最低賃金法4条を適用します(最低賃金法13条)。
派遣会社が千葉にあっても、東京の派遣先で働くなら東京都の額です。賃金を支払う派遣会社は、派遣先ごとに県の額を押さえておく必要があります。
県のずれで最低賃金を下回りやすい場面
給与ソフトで、賃金テーブルや最低賃金のチェックを県ごとに設定している会社もあります。働く店舗が変わっても、人が設定を直さない限り、テーブルは元のままです。
実際に、給与テーブルが千葉のまま東京の店舗で働いている人がいて、東京の最低賃金を下回るおそれがあったケースがありました。
県をまたぐ異動
千葉の店舗から東京の店舗へ異動した人は、異動した日からの労働について東京都の額と比べます。
辞令と住所変更は済ませても、給与ソフトのテーブルや時給は千葉のまま、ということが起こり得ます。そのままでは、千葉県の1,195円を上回っていても、東京都の1,280円には届かない時給が残ります。
給与ソフトのテーブルの県が古いまま
店舗が1つの県にしかなかった頃に作ったテーブルを、新たに進出した県の店舗にもそのまま使っているケースです。
10月の改定で千葉のテーブルを1,195円以上に直しても、その中に1,280円未満の時給が残っていれば、東京の店舗で働く人には東京都の額に足りません。同じテーブルでも、東京の店舗で働く人の時給がすべて1,280円以上なら、どちらの額も満たします。
千葉県の額とだけ比べる設定では、時給1,200円のように千葉県の1,195円以上で東京都の1,280円未満の時給は、東京都の最低賃金に足りないことを拾えません。実際にどの条件で警告が出るかは、給与ソフトの仕様と設定で確かめておくと安心です。
派遣で人を送り出す・受け入れる
自社が派遣会社として人を送り出している場合は、派遣先の事業場の県の額で見ます(最低賃金法13条)。派遣元の本社がある県の額ではありません。
派遣で人を受け入れる会社では、自社の店舗がある県の額が、その派遣労働者にも適用されます。

千葉のテーブルのまま東京で働くと、いくら足りないか
2026年度の額で、千葉のテーブルのまま東京の店舗で働いた場合を計算します。
【時給の人】
千葉のテーブルで時給1,200円の人は、千葉県の1,195円を上回っています。東京の店舗で働くなら、比べるのは東京都の1,280円です。
1,280円 − 1,200円 = 80円が、1時間あたりの不足です。月に80時間働くなら、80円 × 80時間 = 6,400円が1か月の不足額となります。
【月給の人】
月給は、時間あたりの額に直して比べます(最低賃金法施行規則2条1項3号)。月によって所定労働時間が違う会社では、1年間の月平均所定労働時間で割る計算です。
月給200,000円(残業代・通勤手当などの最低賃金の計算に入れない賃金を除いた額)、月平均所定労働時間160時間の人を例にします。時間額は、200,000円 ÷ 160時間 = 1,250円です。
千葉県の1,195円は上回りますが、東京都の1,280円には30円足りません。30円 × 160時間 = 4,800円が、1か月の不足額です。
どちらの計算も割り切れるため、端数処理はしていません。時間額に端数が出たときも、丸めずにそのまま最低賃金額と比べます。
最低賃金の計算に入れない賃金(残業代・深夜の割増分など)の扱いは、最低賃金が上がったら固定残業代や処遇改善はどうなる?で取り上げています。
県のずれを確かめる手順
全員について、次の順に確かめます。
- 従業員の一覧に「判断に使う事業場」と「適用する県」の列を作る。住所の県ではなく事業場の県を入れる。通常は所属する店舗、テレワークは所属する事業場、独立性のない小さな売店などはまとめて扱う上位の拠点、派遣は派遣先の事業場で見る
- 同じ一覧に、給与ソフトで設定している賃金テーブル(または最低賃金チェック)の県を並べる
- 2つの県が違う人を優先して確かめる。異動・テレワークの人は重点的に見る。県が合っている人も、額や発効日の更新漏れがないかを見る
- 一覧の「適用する県」の最低賃金額と、時給(月給なら時間額に直した額)を比べる
- 下回っている人がいれば、いつから下回っていたか(異動日・改定の発効日)を確かめ、差額を計算する
- 適用する県の額を下回る賃金を直し、給与ソフトの最低賃金チェックの設定も確かめる。テーブルは県ごとに持っても、全部の県の額を満たす共通のテーブルにしてもよい
- 異動の手続きに「適用する県・賃金額・給与ソフトの設定を確かめ、必要なら直す」を加え、次の異動から漏れないようにする
派遣会社では、派遣中の人について、一覧の「判断に使う事業場」に派遣先の事業場を、「適用する県」にその所在地の県を入れます。
発効日は、県ごとに違う年もあります。2026年度については、【2026年度】最低賃金はいくら?47都道府県の一覧と発効日で確認できます。
発効日前後に確かめる項目は、2026年最低賃金 発効日前後の実務6つにまとめました。
テーブルを県ごとに持つか、高い方にそろえるか
県をまたいで店舗がある会社には、大きく2つのやり方があります。
| 県ごとにテーブルを持つ | 高い方の県にそろえる | |
|---|---|---|
| 人件費 | 各県の最低賃金に近い時給にしている場合、そろえるより抑えられることがある | 低い方の県でも高い方の水準になるため、今の時給によっては賃金が増える |
| 異動のとき | 適用する県が変わる場合はテーブルの切り替えが要る。漏れると下回るおそれがある | 切り替えなくても最低賃金は下回らない |
| 毎年の改定 | 県ごとに額と発効日を確かめて直す | 全部の県の額と発効日を確かめ、どの時点でもいちばん高い額以上になるよう直す |
| 合う会社 | 県をまたぐ異動が少ない | 異動が多い、店舗が近い |
2026年度の千葉県と東京都の差は85円です。千葉の店舗の時給を1,195円にする場合と、東京都に合わせて1,280円にする場合を比べると、月80時間働くパートの人で1人あたり月6,800円(85円 × 80時間)の差になります。実際の差は、今の時給とそろえる額によって変わります。
県ごとにテーブルを持つ場合は、異動のときに適用する県を確かめ、必要なら設定を切り替える手順を、異動の手続きに組み込んでおく必要があります。担当者の注意だけに頼っていると、切り替えが漏れても気づけません。
県をまたぐ異動が多い会社では、最低賃金に近い時給帯だけでも、高い方の県にそろえる方法もあります。県の差による金額と、異動の頻度を並べて検討してはどうでしょうか。

最低賃金を下回っていたときの扱い
最低賃金額に達しない賃金を定めた労働契約は、その部分が無効になり、最低賃金と同じ定めをしたものとみなされます(最低賃金法4条2項)。合意して決めた時給でも、下回っている部分は最低賃金額に置き換わります。
下回っていた期間の差額は、異動日や改定の発効日までさかのぼって計算し、支払う必要があります。
地域別最低賃金額以上の賃金を支払わなかった場合は、50万円以下の罰金の対象です(最低賃金法40条)。法人の従業者が業務に関して違反したときは、行為者のほか法人にも罰金刑が科されます(最低賃金法42条)。
県をまたいで店舗を持つ会社では、異動のときに「この人に適用する県の額が変わるか」を確かめることになります。従業員の一覧に適用する県と、そう判断した理由を残しておけば、次の改定のときにも同じ表を使って確認できます。
