4月から、長く働いてくれているパートの1人を正社員にしようと決めた。契約社員のうち何人かも、新年度に合わせて正社員にする予定がある。キャリアアップ助成金を使えると聞いたけれど、何から始めればよいのか。自分で申請するか、社労士に頼むかも決めきれていない。
そんなときに気になるのは、今から準備して間に合うかどうかだと思います。辞令を出す日や改定後の賃金は決まっていても、助成金の準備は後回しになりがちです。
私たちは社会保険労務士法人として、中小企業の給与計算や社会保険の手続き、助成金の申請をお受けしています。
この助成金は、正社員にしてから準備を始めても間に合いません。転換の前日までにキャリアアップ計画を提出し、転換の制度を就業規則に定めておく必要があります。
4月の転換に向けて何を済ませておくのか。その準備を押さえながら、自分で申請する場合、社労士にその都度頼む場合、顧問の社労士に頼む場合の手間や見落としのリスクを比べます。依頼先の選び方や、私たちに頼む場合の料金も、申請の進め方を考える材料になればと思います。
4月に正社員化するなら、準備は今から
厚生労働省のリーフレット「キャリアアップ助成金 正社員化コース」(令和8年4月8日版)では、受給の条件として次の3つを挙げています。このほかにも、対象になる労働者や事業主の条件があります。制度全体の解説は別の記事に譲り、ここでは4月の転換に向けた準備を見ていきます。
この記事は、令和8年度(2026年度)の厚生労働省の資料をもとにしています。2027年4月の転換に当てはまる要件や様式は、令和9年度の資料が出た時点で、あらためて確認が必要です。
| 条件 | 内容 | いつまでに |
|---|---|---|
| キャリアアップ計画 | 正規雇用労働者に転換する前日までに、キャリアアップ計画を作成して提出していること | 転換の前日まで |
| 制度の規則化 | 正規雇用労働者に転換する制度を、就業規則などに規定していること | 転換の前 |
| 正社員転換後の賃金 | 転換後6か月間の賃金を、転換前6か月間の賃金より3%以上増額させていること | 転換後6か月の賃金を払うまで |
キャリアアップ計画に記載するのは、今後の大まかな取り組みです。厚生労働省のキャリアアップ助成金のページでも、労働組合等の意見を聴いて作成した計画などを、各コースの実施日の前日までに提出する必要があると案内されています。
令和8年度の案内のとおりなら、4月1日に転換する場合、計画の提出は遅くとも3月31日までです。提出先は管轄の労働局長です(厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」パンフレット(令和8年4月8日版))。就業規則に転換の規定がなければ、転換前に改定も済ませておきます。
準備から申請までは、次の順で進みます。
- キャリアアップ計画の作成・提出
- 就業規則等の改定(転換規定がない場合等)
- 就業規則等に基づく正社員転換
- 正社員転換後6か月分の賃金の支払い
- 支給申請(6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内)
転換してから計画を出しても、「前日まで」という条件は満たせません。正社員への転換を先に進めてしまうと、あとから準備をやり直すことはできないのです。
ここに挙げた要件や流れは、リーフレットに基づいています。詳しい内容は、厚生労働省の次のページに掲載されています。
出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金 正社員化コース」(令和8年4月8日版)
https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001687990.pdf
出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」パンフレット(令和8年4月8日版)
https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001687992.pdf
出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
私たちのキャリアアップ助成金 正社員化コース【2026年度版】にも、制度の解説をまとめています。

自分で申請するか、社労士に頼むかの比較
自分で申請する場合と社労士に頼む場合では、社内で担う作業の量や、見落としを防ぐための確認体制が変わります。すでに顧問の社労士がいる会社なら、顧問先に頼む方法もあります。
| 自分で申請する | 社労士に頼む(その都度) | 顧問の社労士に頼む | |
|---|---|---|---|
| 手間 | 計画の作成、就業規則の改定、賃金の比較、申請書類の作成まで、すべて社内で進める | 申請書類の作成や提出を任せられる。会社は必要な資料を揃える | 顧問契約の範囲でスケジュール管理や書類の案内を受けられる |
| 期間の管理 | 転換の前日、転換後6か月、申請の2か月を社内で管理する | 依頼した範囲の期限を一緒に確認できる | 転換前から期限を見てもらえる |
| 見落としのリスク | 3つの条件や期限を、自分で確認しながら進める。確認する人が1人だと、抜けに気づきにくい | 依頼が転換の直前だと、計画の提出や就業規則の改定に間に合わない場合がある | 契約の内容によって異なる。助成金を扱う顧問かどうかを先に確認する |
| 費用 | 報酬は発生しない。社内の作業時間がかかる | 着手金と成功報酬、成功報酬のみなど、事務所によって料金の仕組みが異なる | 顧問料に加えて、成功報酬がかかる場合などがある |
| 就業規則の改定 | 自分で条文を作る | 就業規則の改定も扱う事務所と、扱わない事務所がある | 顧問の社労士なら、日ごろから就業規則を見ている場合がある |
| 計画の作成 | 厚生労働省の様式で、自分で作成・提出する | 作成を任せられる場合がある | 同左 |
支給申請書の提出先は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局です。ハローワークを通じて提出できる場合もあります(厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」パンフレット(令和8年4月8日版))。どの方法を選んでも、申請するのは会社で、提出先も変わりません。
社労士に頼む場合も、計画の提出期限は転換の前日までです。依頼を考えているなら、計画の作成や就業規則の改定を誰が担当するのか、転換前に話をしておく必要があります。
自分でやる場合に手間がかかるところ
自分で申請すれば報酬はかかりませんが、次の4つの作業を社内で担うことになります。
キャリアアップ計画の作成
キャリアアップ計画は、正社員に転換する前に、会社として作成・提出しておくものです。労働組合等の意見を聴く必要もあり、書類に記入するだけで準備が終わるわけではありません。
4月1日に転換するなら、提出期限は3月31日。3月に入ってから動き始めると、年度末の忙しい時期に準備が重なります。
就業規則の転換規定
正社員への転換制度は、就業規則などに規定しておく必要があります。規定がない会社は、転換前に就業規則を改定します。
その際にあわせて確認したいのが、転換する人に適用される制度です。リーフレットでは、正規雇用労働者は、同一の事業所内の正規雇用労働者に適用される就業規則が適用されている労働者で、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が転換時点で適用されている者に限る、とされています。
正社員になった人に、賞与または退職金の制度と、昇給の制度が適用されていなければ、この条件を満たしません。転換規定を設けるだけで済ませず、転換後にどの制度が適用されるかまで、就業規則と照らし合わせておきたいところです。
6か月の賃金の比較
転換後6か月間の賃金は、転換前6か月間の賃金より3%以上増額させている必要があります。
比べるのは、給与明細の総支給額ではありません。厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」パンフレット(令和8年4月8日版)では、比べる賃金を「基本給および定額で支給されている諸手当を含む賃金の総額」とし、原則として所定労働時間1時間当たりの賃金で比べるとしています。転換の前後で所定労働時間が変わらず、どちらも月給なら、6か月間の賃金の総額で比べます。
実費弁償的な手当や、毎月の状況によって変わる手当は含めません。また、転換後の6か月に含める定額の手当は、決め方と計算方法が就業規則または労働協約に書かれているものに限られます。
転換前に直前6か月分の賃金台帳と転換後の給与案を並べ、この決まりに沿って3%以上の増額になるかを試算しておきます。
2か月の申請期間の管理
支給申請の期限は、転換後6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内です。
申請するのは、転換から半年以上たってからです。その間に担当者が変わることも考えられるので、いつまでに何を提出するのか、引き継げるように記録を残しておきます。
自分で準備から申請まで進める際には、次のような見落としに気をつけたいところです。
| 起きやすい失敗 | 確かめること |
|---|---|
| 転換してから計画を出そうとして、間に合わない | 計画は転換の前日までに提出する |
| 就業規則に転換の制度がないまま転換する | 転換制度を就業規則などに規定しておく |
| 転換後の賃金が、3%以上増えていない | 基本給と定額の手当で、転換前後の賃金を試算しておく |
| 賞与または退職金、昇給の制度が適用されていない | 転換時点で、どちらも適用されているかを確かめる |
| 申請の2か月を過ぎる | 6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内 |

頼む先の選び方
助成金の申請を頼む先は、社労士か社労士法人です。
社会保険労務士法27条は、社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者が、他人の求めに応じて報酬を得て、申請書類の作成などの事務を業として行うことを禁じています。ただし、他の法律に別段の定めがある場合と、政令で定める業務に付随して行う場合は除かれます。
報酬を払って申請書類の作成や提出の代行を頼むなら、まず相手が社労士か社労士法人かを確認しておきます。
出典:社会保険労務士法27条(e-Gov法令検索、2026年10月29日取得)
https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC1000000089
依頼先を比べるときは、次の3点も聞いておくと判断しやすくなります。
- 費用はどう決まるか:着手金と成功報酬、顧問料と成功報酬、成功報酬のみなど、事務所によって料金の仕組みが異なります。何にいくらかかるのか、見積もりで確認します。
- どこまで料金に含まれるか:キャリアアップ計画の作成、就業規則の改定、賃金の比較、申請書類の作成と提出のうち、どこまで任せられるかを確かめます。会社が担当する作業も分かれば、準備に取りかかりやすくなります。
- 準備が間に合う時期に頼めるか:計画の提出は転換の前日までです。転換の直前に依頼しても間に合わない場合があるため、早い段階から相談できるかも聞いておきたいところです。
料金は事務所ごとに異なります。他の事務所の相場を示せる出典がないため、ここでは金額を挙げず、料金の仕組みを比べています。
労務ニュースに頼む場合
私たち社会保険労務士法人 労務ニュースでは、「オマカセ助成金申請」として助成金の申請をお受けしています。
| 項目 | 料金(税別) |
|---|---|
| 助成金顧問 | 月額20,000円 |
| 助成金申請の成功報酬 | 支給決定額の20% |
出典:労務ニュース 料金ページ
https://roumunews.jp/ryokin.html
助成金顧問では、利用できる助成金を探すところから申請に向けた準備まで、次の内容を扱います。
- 利用できる可能性がある助成金の情報提供
- 対象になるかどうかの簡易診断
- 活用に関する相談
- 申請スケジュールの管理
- 必要書類の案内
- 制度変更や新しい助成金に関する情報提供
- 申請前の労務管理状況の確認
顧問料がかかるのは、契約している月の分だけです。申請までの期間や、就業規則の改定などを別に頼む場合の費用は、見積もりの際に確かめられます。
4月の転換のように、申請より先に計画の提出や就業規則の改定が必要な場合は、準備の段階から一緒にスケジュールを確認できることが助けになると考えています。詳しい内容は、オマカセ助成金申請のページに載せています。
御社で使える助成金があるかを知りたい方には、会社の状況について選択式の質問に答える無料診断もあります。
4月に転換する予定の人数や、就業規則に転換規定があるかどうかを伺えれば、何から準備を始めるか、一緒に考えられます。

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