固定残業代を払っているのに「未払い」と言われる理由

仕事術

固定残業代を払っているのに、なぜ「未払い」と言われるのか

従業員20〜30人くらいの会社で、「うちは固定残業代を払っているから残業代の心配はない」と思い込んでいる社長、実は結構いらっしゃいます。

給与明細にも「固定残業代 3万円」ときちんと記載していて、本人にも説明したつもり。それなのに、退職した社員から「残業代が未払いだ」と言われて、驚くケースが後を絶ちません。

これ、珍しい話じゃないんですよね。固定残業代は「払っていれば安心」な制度ではなく、「決まった条件を満たして初めて有効になる」制度です。とくに通常の賃金と割増賃金を区別できない書き方をしていると、払っている分がまるごと基本給として扱われ、そこに残業代を上乗せで請求される、という一番痛いパターンに陥ります。

今回は、固定残業代がなぜ「払っているのに未払い」になるのか、その仕組みと、今すぐ見直すべきポイントを整理します。

結論:通常の賃金と割増部分を「判別できること」と「差額精算」が肝

先に結論からいきます。

固定残業代をめぐって押さえるべきポイントは3つあります。①基本給と固定残業代部分を金額として区別でき、通常の賃金と割増賃金を判別できること(判別可能性)、②実際の割増賃金が固定残業代の額を上回った月は、その差額をきちんと精算していること、③その固定残業代が何時間分の残業に相当するかを明示しておくこと。裁判で固定残業代が有効かどうかを分けるのは主に①と②で、③の時間数の明示は求人の際に法律上求められるほか、①の判別可能性を裏づける材料としても重要です。

逆に言うと、「基本給に残業代を含む」というあいまいな書き方で、通常の賃金部分と割増賃金部分を区別できない状態だと、その固定残業代は割増賃金の支払いとして認められません。こうなると、払っていた分は残業の対価とみなされず、基本給に組み込んで残業代を計算し直されるため、二重払いに近い状態が起きます。一方、区別はできているが金額が実際の割増賃金に足りないというだけなら、不足する差額を支払えば足り、固定残業代の仕組みそのものが無効になるわけではありません。この2つは分けて考える必要があります。

そもそも固定残業代とは?有効になる仕組みを整理する

固定残業代(みなし残業代)は、あらかじめ一定時間分の時間外労働の割増賃金を、定額で支払う仕組みです。導入自体は違法ではありません。ただし、労働基準法37条が定める割増賃金(時間外・深夜は25%以上、法定休日は35%以上、月60時間を超える時間外は50%以上。この60時間超の割増率は2023年4月1日から中小企業にも適用されています)を下回ってはいけない、という大原則があります。35%以上の割増が必要なのは、週1日(または4週4日)の法定休日に働かせた場合です。会社が独自に決めた休日(所定休日)の労働は、時間外労働として扱われるなど、割増の考え方が変わる点に注意してください。

最高裁判例でも、固定残業代が有効と認められるには「通常の労働時間の賃金にあたる部分と、割増賃金にあたる部分とを判別できること」(判別可能性)が繰り返し求められてきました。加えて、実際に発生した割増賃金がその固定残業代の額を上回った月は、その差額を別途支払う義務があります。固定した時間数を超えて残業した月はもちろん、深夜労働や法定休日労働の割増が固定残業代に含まれていない場合は、固定した時間の範囲内でも別途支払いが必要になることがあります。この差額精算を怠っている会社が、実務ではかなり多い印象です。

通常の賃金と割増賃金を判別できるようにするには、就業規則や賃金規程、または労働条件通知書・雇用契約書のいずれかで、固定残業代の金額・対象時間数・超過分の扱いを明確にしておくことが欠かせません(常時10人以上の事業場では、賃金の決定・計算・支払方法が就業規則の絶対的必要記載事項です。労働基準法89条)。募集・求人の段階でも、固定残業代の金額と何時間分かの明示が求められます。ここが曖昧な会社は、36協定の労働者代表選出の不備と同じように、「手続きは踏んでいるつもりだったのに、書面の詰めが甘くて無効になる」典型パターンにはまりやすいところです。

現場でよくある失敗5つ

固定残業代の運用で、実際によく見る失敗を挙げます。

  • 「基本給に残業代含む」とだけ書いている:金額も時間数も分からず、判別可能性が満たせない
  • 何時間分かを決めていない・共有していない:本人に説明した記憶が「口頭のみ」で、書面に残っていない
  • 超過分の差額を一度も精算したことがない:固定残業代を超える残業が発生しても、「込みだから」で済ませてしまう
  • 昇給・異動で基本給や役割が変わっても、固定残業代の時間数を見直していない:数年前の設定のまま放置している
  • 管理職だから残業代は関係ないと思い込んでいる:管理監督者に該当するかどうかは役職名でなく実態で判断され、深夜割増は管理監督者にも適用されます

こうした失敗の共通点は、「導入したときは正しかったつもりが、その後の運用でズレていく」ことです。固定残業代は一度決めて終わりではなく、継続的なメンテナンスが必要な制度だと考えておいた方がいいです。

選び方・判断軸:自社の固定残業代、どこを見直すべきか

見直しの優先順位をつけるなら、次の3つを順番にチェックするのがおすすめです。

チェック項目危険信号すぐやること
就業規則・雇用契約書の記載金額・時間数が書かれていない賃金規程に金額と対象時間数を明記
実際の残業時間との差固定分を超える残業が常態化勤怠データと突き合わせ、差額精算を運用に組み込む
見直しのタイミング導入以来、一度も改定していない昇給・異動のたびに時間数を再計算する運用にする

特に2つ目は要注意です。固定残業代の時間数を「月20時間分」と決めていても、実際の残業が毎月30時間発生しているなら、その10時間分は未払いのままたまっていきます。勤怠管理が紙のタイムカードや自己申告だけだと、この差分に誰も気づけないまま何年も過ぎてしまうことが珍しくありません。

オマカセロウムくんなら、固定残業代の「決めっぱなし」を防げます

私たちが提供している「オマカセロウムくん」は、給与計算・社会保険手続きに加えて、就業規則や賃金規程の整備まで含めて外部の人事部として引き受けるサービスです。

固定残業代でいちばん怖いのは、導入時は正しく設計していても、昇給や勤怠実態の変化に規程がついていかず、いつの間にか無効な状態になっていることです。オマカセロウムくんでは、勤怠データと固定残業代の時間数を定期的に突き合わせ、差額精算が必要になっていないかを確認する運用を組みます。

実務ツールとしては、freee人事労務のように勤怠と給与計算が連動するクラウドシステムを使うと、固定残業代を超えた分が自動で可視化されるので、「気づかず放置」を防ぎやすくなります。freee人事労務があれば社労士はいらないのか、実際に使う立場から本音で書いた記事もあわせて読んでみてください。給与計算そのものを外に出す選択肢としては、給与計算アウトソーシングの費用相場と選び方も参考になります。

まとめ:固定残業代は「払っているから安心」ではない

固定残業代は、条件を満たして初めて有効になる制度です。

  • 押さえるべきは、①通常の賃金と割増賃金を判別できること、②固定額が実際の割増賃金に不足したら差額を精算すること、③何時間分かを明示しておくこと
  • 通常の賃金と割増賃金を判別できない書き方だと、固定残業代が割増賃金の支払いと認められず、基本給に組み込んで再計算される。金額が法定の割増(時間外・深夜25%以上、法定休日35%以上、月60時間超50%以上)に不足しているだけなら、その差額を支払えば足りる
  • 就業規則・賃金規程の記載(労働基準法89条)と、勤怠実態との定期的な突き合わせが欠かせない
  • 昇給・異動のたびに時間数を見直さないと、数年後に差額請求という形でまとめて跳ね返ってくる

まずは、就業規則と給与明細の記載を見比べて、金額と時間数がきちんと書かれているかを確認するところから始めてみてください。

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