「非課税だから保険料もかからない」と思っていませんか
通勤手当、宿直手当、食事、社宅は、所得税では一定の範囲で非課税です。ただ、ひとりで給与計算をしていると、この「非課税」が頭に残り、算定基礎届の報酬月額や年度更新の賃金総額からも外してしまうことがあります。

結論:所得税・社会保険・労働保険は、3つ別々に判定する
所得税の非課税、社会保険(健康保険・厚生年金)の「報酬」、労働保険(労災保険・雇用保険)の「賃金」は、それぞれ別の条文で決まります。非課税だから保険の対象外、とはなりません。
社会保険の報酬は「労働者が、労働の対償として受けるすべてのもの」(健康保険法3条5項・厚生年金保険法3条1項3号)。労働保険の賃金は「労働の対償として事業主が労働者に支払うもの」(労働保険徴収法2条2項)です。どちらにも、所得税の非課税分を除く規定はありません。
食事や住宅を現物で支給する場合も、社会保険では国が告示する価額で報酬に入ります(健康保険法46条1項、厚生年金保険法25条)。労働保険でも食事・被服・住居の利益は賃金になり得ますが(労働保険徴収法施行規則3条)、福利厚生の食事は入りません。
非課税になる手当・給付と経費精算の扱い一覧
条文・通達・資料は2026年10月12日に原文で確認しました。
| 手当・給付 | 所得税 | 社会保険(報酬) | 労働保険(賃金) |
|---|---|---|---|
| 通勤手当・通勤定期 | 最も経済的かつ合理的な経路の運賃等で月15万円まで。マイカー等は距離別(後の表) | 全額入る | 全額入る |
| 宿直・日直手当 | 1回4,000円まで(食事付きは食事代を引く。勤務時間内の宿直などは除く) | 全額入る | 全額入る |
| 食事の支給 | 本人負担が価額の半分以上、かつ会社負担が月7,500円(税抜)以下なら課税しない | 本人負担が告示の価額の3分の2未満なら、差額が入る | 労働の対償として出す食事は入る(住込みで1日2食以上など)。賃金に当たらない福利厚生の給食は入らない |
| 社宅・寮 | 従業員から賃貸料相当額(固定資産税の課税標準額で計算)の50%以上を取れば課税しない。役員は別基準 | 告示の価額から本人負担を引いた額が入る | 社宅のない人に均衡上の住宅手当を払う場合は入る。払わない場合は入らない |
| 制服・作業服 | 職務上着る制服、勤務場所だけで着る作業服は非課税 | 業務に要するものは入らない | 入らない |
| 出張旅費・転勤の旅費(経費精算) | 通常必要な範囲は非課税 | 入らない | 入らない |
| 結婚祝金・見舞金・香典 | 社会通念上相当なら課税しない | 恩恵的なものは入らない | 入らない |
| 在宅勤務の通信費・電気代(実費精算) | 業務使用分の精算なら課税しない | 入らない | 入らない |
根拠は末尾の出典に載せています。
告示の価額は都道府県ごとに違い(住宅は令和8年10月から総面積1平方メートル当たりの額)、支店で働く人は、本社でまとめて加入していても支店の都道府県の額を使います。
「非課税なのに保険の対象」と「3つとも対象外」に分けて見る
非課税なのに、保険では対象になるもの
一覧表の上の4行(通勤、宿直、食事、社宅)です。ただし食事と社宅は、本人負担が十分なら社会保険で入りません。労働保険では、労働の対償として出す食事は入り、賃金に当たらない福利厚生の給食は入りません。社宅は均衡上の住宅手当を払う場合に入ります。
事例集の「報酬の例」と賃金早見表の「算入するもの」にも、通勤手当と宿直・日直手当が挙がっています。
マイカー・自転車通勤の非課税限度額
マイカーや自転車通勤は、片道の通勤距離で非課税の上限が決まります(所得税法施行令20条の2第2号)。
| 片道(以上〜未満) | 限度額(月) |
|---|---|
| 2km未満 | 全額課税 |
| 2〜10km | 4,200円 |
| 10〜15km | 7,300円 |
| 15〜25km | 13,500円 |
| 25〜35km | 19,700円 |
| 35〜45km | 25,900円 |
| 45〜55km | 32,300円 |
| 55〜65km | 38,700円 |
| 65〜75km | 45,700円 |
| 75〜85km | 52,700円 |
| 85〜95km | 59,600円 |
| 95km以上 | 66,400円 |
10km以上は令和7年4月1日以後、65km以上は令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当から、この額に上がりました。令和8年4月からは、片道2km以上の車通勤で勤務先や駅の近くの駐車場を使う場合、駐車場代(月5,000円まで)も足せます(国税庁の改正Q&A、タックスアンサーNo.2585)。
一方、社会保険の報酬と労働保険の賃金には、マイカー通勤でも通勤手当の全額が入ります(事例集 問13、賃金早見表)。
3つとも対象外になるもの
一覧表の下の4行(出張旅費、制服、祝金・見舞金、在宅勤務の実費精算)が該当します。
このうち出張旅費と在宅勤務の実費精算は、そもそも手当ではありません。仕事で立て替えた費用の精算なので、給与と一緒に振り込んでも給与にはなりません。表に並べたのは、保険の対象外になっているか確かめるためです。実費弁償の出張旅費まで賃金総額に入れると、労働保険料を払いすぎます。
名前が同じでも、払い方で変わるもの
在宅勤務手当でも、使わなかった分を返さなくてよい渡し切り(例:毎月5,000円)は、所得税が課税され、報酬・賃金にも入ります(国税庁FAQ問1、事例集)。
見舞金も、労働協約等に基づいて経常的に払うものは報酬に入ります。名前でなく、実費の精算か、働いたことへの対価かで決まります。
計算例:通勤手当を外すと、保険料はこれだけずれる
架空の例で比べます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基本給と通勤手当以外の手当 | 月248,000円(4〜6月とも同額。残業なし) |
| 通勤手当 | 月15,000円(電車。合理的な経路の定期代で、所得税は全額非課税) |
| 4〜6月の支払基礎日数 | 各月17日以上 |
算定基礎届(定時決定)
報酬月額は、4〜6月の報酬の総額を月数で割った額です(健康保険法41条1項)。
| 通勤手当を入れた(正しい) | 通勤手当を外した(誤り) | |
|---|---|---|
| 報酬月額 | 263,000円 | 248,000円 |
| 厚生年金の等級 | 17等級 | 16等級 |
| 標準報酬月額 | 260,000円 | 240,000円 |
| 厚生年金保険料(月・全額) | 47,580円 | 43,920円 |
| うち本人負担 | 23,790円 | 21,960円 |
金額は令和8年度の保険料額表によるもので、料率は18.3%(本人9.15%)です。260,000円×18.3%=47,580円、240,000円×18.3%=43,920円となり、端数は出ません。
差額は月3,660円(本人1,830円)です。定時決定の標準報酬月額は原則9月から翌年8月まで使います(同法41条2項、厚生年金保険法21条2項)。途中で等級が変わらなければ、12か月で43,920円(本人21,960円)の不足になります。健康保険料も少なくなります。

労働保険の年度更新
一般保険料は「賃金総額×保険料率」です(労働保険徴収法11条1項)。令和8年度に同じ額を1年払った場合で比べます。
| 通勤手当を入れた(正しい) | 通勤手当を外した(誤り) | |
|---|---|---|
| 1年間の賃金 | 263,000円×12=3,156,000円 | 248,000円×12=2,976,000円 |
差は180,000円です。令和8年度の雇用保険料率(一般の事業)は13.5/1,000で、本人負担5/1,000、事業主負担8.5/1,000です。
- 雇用保険料の差:180,000円×13.5/1,000=2,430円
- うち本人分:180,000円×5/1,000=900円
- うち事業主分:180,000円×8.5/1,000=1,530円
いずれも割り切れるため、端数処理はしていません。
外していたと分かったら、何が起きるか
社会保険:さかのぼって届け直す
年金事務所に相談し、標準報酬月額を正しい等級に訂正します。徴収の時効は2年(健康保険法193条1項、厚生年金保険法92条1項)です。差額をまとめて納める場合があり、本人負担分の精算と説明も要ります。
労働保険:決定と追徴金
申告に誤りがあると、政府が保険料額を決定して通知することがあります(労働保険徴収法19条4項)。この決定で不足額を納めるときは、天災などやむを得ない理由がない限り10%の追徴金がかかります(同法19条5項・21条1項。1,000円未満の端数は切り捨ててから掛け、不足額が1,000円未満なら徴収されません。同条2項)。時効は2年です(同法41条1項)。
さかのぼる範囲は、年金事務所と労働局に確かめてください。

手当ごとに3つの欄を埋める確かめ方
手当を新設・見直すときは、次の順で3つの欄を埋めます。
- 非課税にしている手当と、現物で支給している食事・社宅を書き出す
- 一覧表に当てはめ、社会保険・雇用保険の対象欄を確認する
- 対象のはずの手当が外れていたら、直近の算定基礎届と年度更新を確かめる
年度更新の手順は労働保険の年度更新の記事にまとめています。
まとめ
- 所得税の非課税と、社会保険・労働保険の対象は別の条文で決まる
- 通勤手当・宿直手当は全額が保険の対象。食事・社宅は本人負担や支給の条件で変わる
- マイカー通勤の非課税限度額は片道の距離で決まり、令和8年4月から65km以上が上がった
- 実費弁償の出張旅費、業務用の制服、恩恵的な祝金・見舞金は、要件を満たせば3つとも対象外
- 通勤手当を外すと、例では厚生年金保険料が12か月で43,920円(等級が変わらない場合)、雇用保険料が1年で2,430円少なくなる
- 所得税法(9条1項4号・5号) https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 同法施行令(20条の2、21条2号・3号) https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
- 健康保険法 https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
- 厚生年金保険法 https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000115
- 労働保険徴収法 https://laws.e-gov.go.jp/law/344AC0000000084
- 同法施行規則 https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000008
- 所得税基本通達9-3(旅費)・9-8(制服) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/02/02.htm
- 通達9-23(見舞金) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/02/04.htm
- 通達28-1(宿日直)・28-5(祝金) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/03.htm
- 通達36-38の2(食事)・36-40〜36-47(社宅) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/04.htm
- No.2594(食事。7,500円は税抜) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2594.htm
- No.2585(マイカー通勤) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2585.htm
- No.2597(社宅) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2597.htm
- 通勤手当の改正Q&A https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026tsukin/pdf/01.pdf
- 在宅勤務FAQ(問1) https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf
- 事例集(問1・問13・在宅勤務の別紙) https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.files/jireisyu.pdf
- 現物給与価額(Q10) https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150511.html
- 保険料額表 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/ryogaku/ryogakuhyo/20200825.html
- 現物給与制度の概要 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000038571.pdf
- 賃金早見表 https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudou_hoken/hourei_seido/rouho_hayami.html
- 雇用保険料率 https://jsite.mhlw.go.jp/ehime-roudoukyoku/content/contents/002602395.pdf
