昇給したら、すぐ社会保険料も変わる?
従業員10〜50人ほどで、社長や給与担当者が給与計算をしている会社から、昇給の時期によく受ける質問があります。
「4月に基本給を上げたんですけど、月額変更届って出すんですか?」
4月の給与だけでは、まだ判断できません。月額変更届(正式には被保険者報酬月額変更届)が必要かどうかは、変動月から3か月分の報酬の平均で決まります。
最近の相談でも、平均を出すと1等級しか変わらず、対象外になったケースがありました。一方、賃金の変動が給与ソフトに反映されておらず、届出が漏れかけたこともあります。

結論:3つの条件がそろったら届け出る
随時改定(月額変更届)は、次の3つの条件がすべてそろったときに行います(日本年金機構「随時改定(月額変更届)」)。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| ①固定的賃金の変動 | 昇給・降給、手当の追加や金額の変更、時給単価の変更など |
| ②2等級以上の差 | 変動月から3か月の報酬の平均で出した標準報酬月額が、今の標準報酬月額と2等級以上違う |
| ③支払基礎日数 | 変動月から3か月とも17日以上(特定適用事業所などに勤務する短時間労働者は11日以上) |
ただし、標準報酬月額の上限・下限にかかるときは、平均が一定額に届けば1等級差でも対象、固定的賃金と等級の動きが逆向きなら対象外です(後述)。
改定されるのは、変動後の報酬を初めて受けた月から数えて4か月目です。4月に支払われる給与で変動があれば、7月から新しい標準報酬月額になります。
給料から引かれる額が変わるのは、原則としてさらにその翌月の支給分からです。法律が給料から控除できると定めているのは「前月の標準報酬月額に係る保険料」だからです(健康保険法167条1項、厚生年金保険法84条1項)。4月支給で昇給した例なら、7月分の保険料が新しい額になり、多くの会社では8月に支払う給料から引きます。その月の分をその月の給料から引く扱いの会社では、7月支給分からです。
届出の期限は「速やかに」です(健康保険法施行規則26条1項、厚生年金保険法施行規則19条1項)。
法律ではどう書かれているか
根拠は健康保険法43条1項と厚生年金保険法23条1項です。
継続した3か月間(各月とも報酬支払の基礎となった日数が17日以上)に受けた報酬の総額を3で割り、今の標準報酬月額のもとになった報酬月額と比べます。「著しく高低を生じた場合」には、その翌月から改定できると定められています。
この「著しく高低」を2等級以上の差とするのが日本年金機構の基準です。
「変動月」は支払った月で数える
日本年金機構は、変動月を「変動した固定的賃金により報酬を支払った月」と説明しています。
たとえば4月から昇給しても、月末締め・翌月25日払いなら、上がった給与を初めて払うのは5月です。この場合は5〜7月の平均で判定し、該当すれば8月から改定されます。
「昇給した月」と「変動月」がずれる会社では、改定月の数え間違いに注意が必要です。
計算例で見る:該当する人、しない人
ここでは、日本年金機構の「厚生年金保険料額表(令和8年度版)」で等級を数えています。健康保険は厚生年金と等級の番号が違うため、健康保険の表でも同じように数えてください。
| 等級(厚生年金) | 標準報酬月額 | 報酬月額 |
|---|---|---|
| 17等級 | 260,000円 | 250,000円以上270,000円未満 |
| 18等級 | 280,000円 | 270,000円以上290,000円未満 |
| 19等級 | 300,000円 | 290,000円以上310,000円未満 |
例1:基本給2万円アップ、でも1等級差で非該当
今の標準報酬月額は260,000円(17等級)で、4月支払分から基本給が20,000円上がりました。
| 月 | 報酬(残業代込み) |
|---|---|
| 4月 | 285,000円 |
| 5月 | 290,000円 |
| 6月 | 292,000円 |
| 合計 | 867,000円 |
平均は867,000円÷3=289,000円で、割り切れます。270,000円以上290,000円未満に収まるため、18等級(280,000円)です。
17等級から18等級への変更で、差は1等級。昇給していても、月額変更届の対象にはなりません。
例2:役職手当3万円が付いて、2等級差で該当
同じく、今の標準報酬月額は260,000円(17等級)です。4月支払分から役職手当30,000円が新しく付きました。
| 月 | 報酬(残業代込み) |
|---|---|
| 4月 | 300,000円 |
| 5月 | 305,000円 |
| 6月 | 310,000円 |
| 合計 | 915,000円 |
平均は915,000円÷3=305,000円で、割り切れます。290,000円以上310,000円未満に収まるため、19等級(300,000円)です。
17等級から19等級へ、差は2等級あります。固定的な手当の追加という変動があり、日数の条件も満たしていれば該当します。月額変更届を出し、7月から300,000円に改定されます。

よくある失敗4つ
1. 昇給月の給与1か月分だけで判断する
4月の給与明細だけを見て、「上がったから届出が必要」と判断してしまうケースです。
判定には変動月から3か月の平均を使います。例1のように、平均を出すと1等級差に収まることもあります。
2. 残業代が増えただけで届け出る
残業手当は非固定的賃金です。残業が増えて給与が上がっても、固定的賃金が変わっていなければ①の条件を満たしません。
日本年金機構は、固定的賃金を「支給額や支給率が決まっているもの」と説明しています。変動の例として挙げられているのは、昇給・降給、日給から月給への変更、日給や時間給の基礎単価の変更、歩合率の変更、住宅手当・役付手当などの固定的な手当の追加や支給額の変更です。
ただし、2等級の差を数えるときは、残業代も含めた報酬の平均で比べます。①の変動の有無は固定的賃金で確認し、②の等級差は報酬全体で確認するため、残業代の扱いを混同しやすい箇所です。
3. 固定的賃金は上がったのに、平均が下がって届け出る
次は架空の例です。今の標準報酬月額は300,000円(19等級)。4月支払分から基本給が10,000円上がりましたが、繁忙期が終わり、残業代が大きく減りました。
| 月 | 報酬(残業代込み) |
|---|---|
| 4月 | 268,000円 |
| 5月 | 262,000円 |
| 6月 | 270,000円 |
| 合計 | 800,000円 |
平均は800,000円÷3=266,666.66…円で、届書に書く平均額は1円未満を切り捨てて266,666円です(日本年金機構の記入例)。250,000円以上270,000円未満の17等級(260,000円)に入ります。
19等級から17等級へ2等級下がっていますが、随時改定の対象にはなりません。
日本年金機構の留意事項では、固定的賃金が上がっても、非固定的賃金の減少によって平均が従前より下がり、2等級以上の差が生じた場合は対象にならないとされています。反対に、固定的賃金が下がり、残業代が増えて平均が上がった場合も対象外です。
等級差を確認するときは、固定的賃金の変動と、等級の動きが同じ向きかどうかを必ず確かめてください。
4. 給与ソフトに頼りきって、変動を見落とす
給与ソフトで月額変更の候補を拾っていても、時給単価の変更や手当の追加が「固定的賃金の変動」として登録されていなければ、候補に上がってきません。冒頭で触れた、届出が漏れかけた相談もこのケースでした。
給与担当者が昇給や労働条件の変更を出した月を別にメモしておき、3か月後にソフトの候補と突き合わせれば、届出の漏れをかなり防げます。
迷いやすい境目
3か月のうち1か月でも日数が足りなければ非該当
時給のパートさん(短時間労働者ではない人)の時給が、4月支払分から上がったとします。支払基礎日数は4月18日、5月16日、6月19日でした。
5月が17日に届かないので、③の条件を満たさず非該当です。支払基礎日数は給与計算の対象となる日数で、日給制や時給制なら出勤日数(有給休暇の日も含む)、月給制や週給制なら暦日数です。月給制で欠勤控除をするなら、規程で決めた日数から欠勤日数を引きます(日本年金機構の算定基礎届ガイドブック)。
特定適用事業所や任意特定適用事業所などで加入している短時間労働者の基準は11日以上です。特定適用事業所は、短時間労働者を除く厚生年金保険の被保険者が、1年のうち6か月以上51人以上になると見込まれる企業等の適用事業所です。法人は全事業所の合計で数えます(日本年金機構)。加入基準の全体は、社会保険の全体像を理解するにまとめています。
上限・下限をまたぐときは1等級差でも該当
標準報酬月額の上限または下限にわたる等級変更では、報酬の平均が一定額に届いた場合に限り、1等級差でも随時改定の対象になります。
厚生年金では、31等級(620,000円)の人の報酬の平均が665,000円以上になると、32等級(650,000円)に改定されます。32等級の範囲に入っても、665,000円未満なら対象外です。健康保険は上限・下限の等級が違うので、別に確かめます。
昇給差額をさかのぼって払ったとき
さかのぼって昇給し、差額をまとめて払った場合は、差額を支給した月が変動月です。差額を差し引いた3か月の平均で、2等級以上の差があるかを確認します(日本年金機構)。

自社で判定するときの手順
毎月やること:変動のメモを残す
辞令、時給の改定、手当の新設や金額の変更などで固定的賃金が変わったら、誰の何が、何月支払分から変わったかを一行で残します。
試用期間明けの昇給など、人によって時期が違う変更は記録から漏れやすいものです。
昇給の時期の決め方は、部署で違う試用期間、統一と昇給の注意点で書きました。
3か月後にやること:3つの条件を順に当てる
- 固定的賃金は本当に変わったか(残業代だけの増減ではないか)
- 3か月とも支払基礎日数は足りているか
- 3か月の報酬の平均を出し、標準報酬月額表で等級を数えて2等級以上の差があるか(上限・下限にかかるときは1等級差でも対象になる金額か)
- 固定的賃金の変動の向きと、等級の動いた向きが同じか
4つとも「はい」なら、月額変更届を出します。
定時決定との関係
毎年9月には、4〜6月の報酬をもとに標準報酬月額が見直されます(定時決定)。
日本年金機構は、定時決定の算定月以後に2等級以上の大きな変動があった場合も、月額変更届の提出が必要だとしています。定時決定があるから随時改定は要らない、とはなりません。
反対に、7〜9月のいずれかの月から随時改定される人は、その年の定時決定の対象になりません(健康保険法41条3項、厚生年金保険法21条3項)。
昇給と繁忙期が毎年重なる会社
定期昇給と、業務の性質による残業代の大きな変動が毎年重なる場合は、本人の同意を得て、年間平均で改定するよう申し立てられることがあります。
この年間平均は、1年分の報酬を12で割るのではありません。変動月から3か月の固定的賃金の平均に、変動月の前9か月と以後3か月の非固定的賃金の平均を足して出します。年間平均と3か月平均の等級に2等級以上の差が例年見込まれること、今の等級と年間平均の等級に1等級以上の差があることなどが要件です(日本年金機構)。
まとめ
- 月額変更届は、変動月から3か月の報酬の平均で判定する。昇給した月だけでは判断できない
- 条件は、固定的賃金の変動・2等級以上の差・3か月とも支払基礎日数17日以上(特定適用事業所などの短時間労働者は11日以上)の3つ
- 変動月は「変わった固定的賃金で初めて給与を払った月」。改定はそこから4か月目。給料から引く額が変わるのは、多くの会社でその翌月の支給分から
- 残業代だけの増減は対象外。ただし、2等級の差は残業代も含めた報酬で数える
- 固定的賃金が上がっても平均が下がったなど、向きが逆なら対象外
- 健康保険法 https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
- 厚生年金保険法 https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000115
- 健康保険法施行規則 https://laws.e-gov.go.jp/law/215M10000008036
- 厚生年金保険法施行規則 https://laws.e-gov.go.jp/law/329M50000100037
- 日本年金機構 随時改定(月額変更届) https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-02.html
- 日本年金機構 算定基礎届の記入・提出ガイドブック https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.files/santei.guide.book.pdf
- 日本年金機構 年間平均による随時改定の手続きについて https://www.nenkin.go.jp/shinsei/kounen/tekiyo/hoshu/20180910.files/B15.pdf
- 日本年金機構 月額変更届(記入例) https://www.nenkin.go.jp/shinsei/kounen/tekiyo/hoshu/20141224.files/20160928.pdf
- 日本年金機構 保険料額表(令和8年度版を参照) https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/ryogaku/ryogakuhyo/20200825.html
