何年も前に作った就業規則、そのまま使っていませんか
従業員が10〜50人くらいの会社で、人事担当が専任ではなく社長やバックオフィス担当が兼務している。就業規則は会社を作ったときか、ひとつの事業場で働く従業員が常時10人以上になったタイミングで一度作ったきり、その後は特に触っていない。そんな会社、結構多いんじゃないでしょうか。ちなみに就業規則の作成・届出義務は「会社全体で10人」ではなく、「常時10人以上の労働者を使用する事業場」単位で判断します。店舗や支店が分かれている会社は、事業場ごとに数える点に注意が必要です。
普段の業務が回っている間は、就業規則を見返す機会なんてまずありません。私も約80社の顧問先と関わっていますが、「うちの就業規則、いつ作ったか覚えていない」という声は珍しくないんですよね。問題は、この状態のまま何年も放置してしまうと、いざ懲戒処分や解雇、休職からの復帰対応が必要になったときに、規則が実態と合っていなくて使い物にならないケースが出てくることです。
たとえば、5年前に社員10人で作った就業規則を、今は社員30人になった会社がそのまま使っているケース。当時は想定していなかった時差出勤やリモートワークが現場でなし崩し的に始まっていたり、賞与や手当の計算方法が実際の運用と食い違っていたりすることがよくあります。誰も悪気があって放置しているわけではなく、「日々の業務で手一杯で、規則まで手が回らない」というのが実情なんですよね。
就業規則は一度作れば終わりの書類ではありません。会社の実態と法律の両方が動き続ける以上、定期的に手を入れる前提で作るものなんです。
結論:就業規則は「作って終わり」ではなく「使うたびに直す」もの
先に結論を言うと、就業規則は最低でも年1回、できれば法改正のタイミングごとに見直すのがおすすめです。ここで一つ押さえておきたいのは、この「年1回」というのは法律で決められた見直し頻度ではなく、あくまで実務上の推奨だということです。法律は「変更したら届け出て周知しなさい」とは定めていますが、「何年ごとに見直しなさい」という頻度までは定めていません。だからこそ、放置を防ぐための目安として、自分たちで見直しのリズムを決めておく意味があります。目安としては、①最低賃金や社会保険料率の改定時期、②育児介護休業法など従業員に関わる法改正が施行されるタイミング、③昇給・賞与・手当の制度を変えたタイミング、④実際にトラブルが起きて「規則に書いていない」と気づいたタイミング、の4つで見直しをかけると抜け漏れが減ります。なお、最低賃金の発効時期は都道府県ごとに異なり、健康保険料率などの改定時期も制度や徴収方法によって違います。「毎年4月・10月」と決め打ちせず、自社に関わる改定がいつ効いてくるのかを確認しておくのが安全です。
「毎年見直すのは面倒」と感じるかもしれませんが、逆に言えば、見直しの機会を年に数回決めておけば、それ以外のタイミングで慌てて条文を作る必要がなくなります。行き当たりばったりで直すより、よほど楽なんですよね。
何年も放置した就業規則でよくある失敗
実際の相談で目にする失敗を挙げます。
- ① 有給休暇の年5日取得義務に対応していない
2019年4月施行の労働基準法39条7項で、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について年5日の時季指定義務ができたのに、古い規則には取得管理の記載がなく、運用も曖昧なまま。付与日数が10日に満たない短時間労働者は対象外だが、所定労働日数や勤続年数によっては短時間勤務の人も年10日以上付与されて対象になるため、「パートは関係ない」と決めつけると取りこぼす - ② 副業・兼業の扱いが「原則禁止」のまま
数年前のモデル就業規則をもとに作った規則が「許可なく副業してはならない」の一文だけで止まっていて、実際には黙認している状態とズレている - ③ ハラスメントの相談窓口を定めて周知していない
中小企業も義務化されたのは、相談窓口を設けて労働者に周知することであって、就業規則にその窓口を書くこと自体が法律で決まっているわけではない。とはいえ規則に窓口や対応の流れを書いておけば周知の一手段になるのに、その記載も運用の実態もないままで、相談があったときに社内のどこで受けるかが決まっていない - ④ 賃金体系を変えたのに規則の別表を直していない
賃金規程の手当項目や等級表を現場の運用に合わせて変えたのに、就業規則本体や賃金規程の記載が古いままで、給与明細と規則の整合性が取れない - ⑤ 休職・復職のルールが実態に合っていない
休職期間の通算や復職判定の基準が曖昧なまま何年も経ち、実際にメンタル不調で休職者が出たときに判断材料がない
こうした休職まわりの見直しポイントは休職規定の見直し|中小企業が押さえるべき5つのポイントでも詳しく整理しています。共通しているのは、規則を作った当時のルールが、今の会社の実態や法律から取り残されていることです。
見直すべきタイミングの判断軸
「うちはまだ大丈夫か、そろそろ見直すべきか」を判断する軸を整理しました。
| チェック項目 | 見直しが必要なサイン | 放置した場合のリスク |
|---|---|---|
| 作成・変更からの経過年数 | 3年以上、条文を一度も直していない | 法改正への対応漏れが積み重なる |
| 従業員数の変化 | 作成時より人数が増減している | 意見聴取の対象や適用範囲がズレる |
| 賃金・手当の運用変更 | 昇給・手当・評価制度を変えた | 規則と実際の給与計算が食い違う |
| 働き方の変化 | 副業・在宅勤務・時差出勤を黙認している | 明文化されていない運用が労使トラブルの火種になる |
| 過去のトラブル経験 | 懲戒や退職対応で「規則に書いていない」場面があった | 同じ場面で再び対応に迷う |
厚生労働省が公開しているモデル就業規則をそのまま使っている会社は、そもそも自社の実態に合わせた見直しが一度もされていない可能性があります。モデル就業規則をそのまま使うと危険?落とし穴を解説もあわせて確認してみてください。
上の表を実際に回すコツは、見直しの担当者と時期をあらかじめカレンダーに固定してしまうことです。「気づいたときにやる」では、忙しい時期には必ず後回しになります。決算月の前後や、最低賃金・社会保険料率の改定が反映される時期など、毎年めぐってくるタイミングに「就業規則チェック」の予定を入れておくだけで、放置期間がぐっと短くなります。改定時期は年度や制度によって前後するので、自社に関わるものがいつ効いてくるのかは、その都度確認しておくと安心です。
就業規則の変更には手続きがある(労基法89条・90条・106条)
見直しをかけるときに忘れがちなのが、変更の手続きです。労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成・変更したら遅滞なく所轄の労働基準監督署に届け出る義務があります。変更届を出すだけで安心してはいけません。
労働基準法第90条は、変更にあたって労働者の過半数で組織する労働組合、それがなければ労働者の過半数を代表する者から意見を聴取し、意見書として添付することを求めています。過半数代表者から反対意見が出た場合でも、意見を聴いたという事実があれば届出自体は有効です。目的は「賛成を取り付けること」ではなく「意見を聴いたことを記録すること」だと理解しておくと手続きに迷いません。
ただし、ここで区別しておきたい大切な点があります。89条・90条・106条の手続きは、あくまで行政上の届出・意見聴取・周知に関する義務であって、これを踏んだことと、変更後の内容が既存の従業員を法的に拘束することとは別問題だということです。とくに賃金や手当の引き下げのように、労働者に不利益となる方向へ労働条件を変える場合は注意がいります。労働契約法第9条は、労働者と合意することなく就業規則を変更して労働条件を不利益に変更することは、原則としてできないと定めています。届出をして反対意見を添付し周知したというだけでは、それだけで不利益変更が有効になるわけではありません。
例外を定めているのが労働契約法第10条です。変更後の就業規則を労働者に周知し、かつ、変更内容が合理的であると認められる場合に限って、就業規則による労働条件の変更が認められるとしています。合理性は、労働者が受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合などとの交渉の状況といった事情を総合的に見て判断されます。つまり不利益変更を考えるときは、労基署への届出と周知だけで済ませず、まずは一人ひとりから個別の同意を得ておく、それが難しければ変更の合理性を説明できる材料をそろえておくことが欠かせません。私法上の効力(従業員を拘束するか)と行政上の手続き(届出をしたか)は、分けて押さえておいてください。
そして労働基準法第106条により、届出をした後は変更内容を従業員に周知する義務があります。休憩室に掲示する、社内のクラウドで常時閲覧できるようにするなど、方法はいくつかありますが、「作って引き出しにしまったまま」では周知したことになりません。なお、2026年時点では労働時間法制の大きな改正論議が続いており、法定休日の特定義務化などが検討されています。今後の国会審議の動向によっては、就業規則の休日規定にも影響が及ぶ可能性があるため、法改正のニュースは継続してチェックしておく必要があります。
オマカセロウムくんなら、変化のたびに規則を更新します
私たちが提供している「オマカセロウムくん」では、法改正や貴社の制度変更のタイミングに合わせて、就業規則の見直しを継続的にご案内しています。作って終わりにせず、変化が起きるたびに条文を直していく前提の運用です。担当者が一人で「今回の改正は自社の規則に影響するのか」を都度調べる必要がなくなります。
日々の給与計算や勤怠管理と就業規則の記載がズレていないかを継続的にチェックしたい場合は、freee人事労務のようなクラウドシステムで運用ルールを一元管理する方法もあります。実際に使う立場から本音で書いたfreee人事労務があれば社労士はいらないのかも参考にしてみてください。
具体的には、①現行の就業規則と実際の運用(勤怠・賃金・休暇の取り扱い)を条文ごとに突き合わせる、②ズレている箇所と法改正で追加が必要な箇所を洗い出す、③労働者代表からの意見聴取と労基署への届出、④従業員への周知、という4ステップを毎年のルーティンにしてしまう。この型さえあれば、担当者が変わっても同じ品質で見直しを続けられます。
まとめ:就業規則は年1回、法改正のたびに見直す
何年も前に作った就業規則をそのまま使い続けると、実態や法律とズレていることに気づかないまま、いざというときに使い物にならないリスクがあります。
- 見直し頻度に法律の定めはないが、実務上は最低でも年1回、法改正のタイミングごとに見直すのがおすすめ
- 作成・届出義務は「会社全体で10人」ではなく「常時10人以上の労働者を使用する事業場」単位で判断する
- 年10日以上の年休が付与される労働者への年5日取得義務や副業規定、ハラスメント相談窓口の設置・周知など、後から整備すべき項目は多い(相談窓口は設けて周知することが義務で、就業規則への記載自体が義務なわけではない)
- 変更には労働基準法89条(届出)・90条(意見聴取)・106条(周知)の手続きが必要。ただしこれは行政上の手続きであり、賃金引き下げなど不利益な変更を既存の従業員に及ぼすには、労働契約法9条・10条により原則として個別の合意が必要(例外的に、周知したうえで変更に合理性が認められる場合に限られる)
- 賃金体系や働き方の運用を変えたら、そのつど規則本体も直す
就業規則は、トラブルが起きてから読み返す書類ではなく、トラブルを未然に防ぐために普段から手入れしておく書類です。
業種・従業員数・今の人事労務の回し方や困りごとを教えてもらえれば、合いそうな見直し方を一緒に考えます。無理な営業はしませんので、気軽にどうぞ。LINEで相談するなら手軽にその場でやり取りできますし、LINEを使わない方はお問い合わせフォームからでも構いません。
