賞与の決め方、根拠を説明できますか

仕事術

賞与の額、去年の数字を「調整」して出していませんか

従業員10〜50人くらいで、人事担当が専任ではなく、社長や総務の方が他の仕事の合間に賞与を決めている会社。

毎年、前年の額に少し手を加えて出している。なぜその額なのか、社員に聞かれたらうまく答えられない。

そんな心当たりのある方に向けて、この記事を書いています。

賞与の金額の根拠に悩む中小企業経営者のイメージ

結論:賞与は「原資」と「配分」を先に言葉にしておく

先に結論を言います。賞与でもめる会社に共通しているのは、金額そのものより「説明できないこと」なんですよね。

賞与は、①会社として今年いくら払えるか(原資)、②それを誰にどう配るか(配分の基準)。この2つを先に言葉にしておけば、もめる場面はかなり減ります。

感謝の気持ちだけで額を決めていると、毎年その場しのぎになってしまいます。景気がいい年は出しやすいですが、悪い年に説明が立たなくなるんです。

賞与の決め方で、中小企業がよく陥る失敗

顧問先を見ていて、実際によく出会う失敗を挙げます。

  • 前年額の「調整」で終わっている:去年の額に数千円足す・引くだけで、なぜその増減なのか誰も説明できない
  • 社長の主観だけで額が決まる:印象や好き嫌いに近い基準になっていて、評価の軸が社員に見えていない
  • 正社員とパート・契約社員で差があるが、理由を説明できない:同じような仕事をしているのに、賞与の有無や算定方法だけ違う
  • 業績が悪化した年に、説明なく減額する:前触れがないまま額が下がり、不満が一気に噴出する
  • 賞与を給与の後払いのように使ってしまう:本来は毎月の給与で払うべき部分を賞与に混ぜて、実態がわかりにくくなる

こうした失敗の多くは、社長の判断力の問題ではありません。原資の考え方と配分の基準が、最初から言葉になっていないだけなんです。

賞与の額をどう決めるか。判断すべき2つの軸

賞与の仕組みを整えるときは、次の2つの軸で考えると分かりやすくなります。

何を決めるか中小企業でよく使う基準
原資(会社としていくら払うか)賞与に回す金額の総枠営業利益の一定割合、月数×基本給、前年比の業績連動
配分(個人にどう反映するか)誰にいくら配るか出勤状況、目標達成度、上司評価、勤続年数

本格的な人事評価制度がなくても構いません。欠勤の有無、担当業務の達成度、上司の評価コメント。この3つくらいでも、「なんとなく」より格段に説明しやすくなります。

大事なのは、配分の基準を賞与を出す前に決めておくことです。結果を見てから基準を作ると、後付けの正当化に見えてしまいます。

たとえば従業員20人くらいの会社なら、「営業利益の5%を原資にする」「原資を出勤率8割以上・目標達成度・上司評価の3点で配分する」くらいのシンプルな決め方でも十分に説明力が出ます。細かく作り込むより、まず言葉にして社員に伝えることが先です。

法律面で押さえておくべき3点

賞与の決め方には、感覚だけでなく法律上のルールも関わってきます。

まず、労働基準法89条4号です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、賞与のような臨時の賃金を支給する場合、その定めを就業規則に記載しておくことが求められています。「賞与あり」と一言書くだけでは足りません。厚生労働省のモデル就業規則も、賞与を定める場合には、支給対象時期(いつの期間の働きに対して支払うか)、算定基準、査定期間、支払方法などを明確にしておく必要があるとしています。単に「支払い時期」を書けばよいわけではなく、これらをあわせて記載しておくことが必要です。10人未満の会社に就業規則の作成義務はありませんが、賞与のルールを文書にしておく効用は変わりません。

次に、パートタイム・有期雇用労働法8条(中小企業には2021年4月1日から適用)は、正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差を禁止しています。ここで押さえたいのは、待遇差が不合理かどうかは「職務内容や責任の違い」だけで決まるわけではない点です。その賞与が何のために支払われるのか(賞与の性質・目的)に照らして、職務内容、配置変更の範囲、その他の事情を総合的に考慮して判断されます。賞与の有無や算定方法に差をつけるなら、賞与の目的を踏まえたうえで、その差の理由を職務内容や責任の違いなど複数の観点から説明できる状態にしておくことが前提になります。

3つ目に、配分の基準として出勤率や欠勤日数を使う場合の注意点です。労働基準法附則136条は、年次有給休暇を取った労働者に対して賃金の減額その他不利益な取り扱いをしないよう定めています。出勤率や欠勤で賞与を算定するなら、有給休暇で休んだ日を欠勤扱いにして減額する設計は避け、出勤したものとして扱っておくほうが安全です。

賞与を支払う義務があるのか、不支給や減額が許されるのかは、一律には決まりません。就業規則や労働契約、これまでの労使慣行などによって従業員に賞与の請求権が生じているか、また不支給・減額の条件がどう定められているかによって判断されます(賞与不払いは不法行為にならない?最高裁判決を社労士が解説でも触れました)。まずは自社の就業規則・労働契約・慣行のなかで、賞与がどこまで約束された制度になっているのかを確認することが出発点です。そのうえで、支給額や不支給・減額の判断に説明できる根拠を備えておけば、争いになったときに会社の立場を守りやすくなります。

社員から「なぜ自分だけ少ないのか」と聞かれて答えられない状態は、労務トラブルの入り口になりやすいんですよね。基準を先に文書にしておけば、聞かれたときにその場で説明できます。

賞与の仕組みづくりは、評価制度と同時に考えるとうまくいく

配分の基準を作ろうとすると、結局「何を評価するのか」という人事評価制度の話に行き着きます。

賞与だけを切り離して整えようとすると、翌年また同じ悩みに戻ってしまうんですよね。人事評価制度の作り方|3つの柱で失敗しない設計術賃金制度の設計|給与は投資、賞与は分配という考え方でも書きましたが、賞与は評価制度と一体で考えたほうが、結局は近道です。

私たちの「オマカセロウムくん」では、就業規則への賞与規定の落とし込みから、評価と配分の基準づくりまで、社労士として法的なリスクを見ながら一緒に整えています。

ゼロから評価制度を作るのが大変な会社には、まず賞与の配分ルールだけを先に決めて、評価制度は翌年以降に段階的に整えるという進め方もおすすめしています。全部を一度に完成させなくても構いません。

まとめ:賞与は「決め方」を先に言葉にしておく

  • 賞与でもめる会社に共通しているのは、金額そのものより「説明できないこと」
  • よくある失敗は、前年額の調整で終わる・社長の主観だけで決まる・非正規との差の説明ができない・業績悪化時に前触れなく減額する・給与の後払いのように使ってしまう
  • 判断軸は「原資」(いくら払えるか)と「配分」(誰にどう配るか)の2つ。評価制度がなくても、出勤状況・達成度・上司評価の3点で説明力は上がる
  • 常時10人以上の事業場では、労働基準法89条4号により、賞与を出すなら支給対象時期・算定基準・査定期間・支払方法などを就業規則に記載する必要がある(「支払い時期」だけでは足りない)
  • パートタイム・有期雇用労働法8条の待遇差の判断は、賞与の性質・目的に照らし、職務内容や責任の違いなど(職務内容・配置変更の範囲・その他の事情)を総合的に考慮する。差をつけるなら賞与の目的を踏まえて理由を説明できる状態にしておく
  • 出勤率や欠勤で配分するなら、年次有給休暇の取得日を欠勤扱いにして減額しない(労働基準法附則136条)
  • 賞与の支給義務や不支給・減額の可否は、就業規則・労働契約・労使慣行で賞与請求権が生じているか、不支給・減額の条件がどう定められているかで決まる。まず自社のルールを確認し、そのうえで判断の根拠を説明できるようにしておく
  • 賞与の配分ルールは、人事評価制度と一体で考えると、翌年以降の悩みが減る

賞与の額を、今年も「なんとなく」で出すか、根拠を持って出すか。一度、原資と配分の考え方を整理してみてもらえたらと思います。

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