業務委託が「実は雇用」と判断されるリスク|労働者性の判断基準を社労士が解説

仕事術

この記事でわかること

  • ・「労働者性」とは何か、なぜ契約書だけでは決まらないのか
  • ・労働者性の判断で見られる6つのポイント
  • ・最近の裁判で決め手になった要素
  • ・業務委託が「雇用」と判断された場合のリスク
  • ・中小企業がいますぐチェックすべき3つのこと

「業務委託だから大丈夫」は危険な思い込み

「うちは業務委託契約だから、雇用の面倒なことは関係ない」

こう思っている経営者の方、けっこう多いんですよね。でも、契約書に「業務委託」と書いてあっても、実態が雇用なら労働者として扱われるというのが法律の世界です。

最近も東京地裁で、営業代行の業務委託が「実は労働契約だった」と認定され、約200万円のバックペイ(未払賃金)の支払いが命じられた判決がありました。

今回はこの判決を題材に、「どこからが労働者と判断されるのか」を整理します。業務委託やフリーランスに仕事をお願いしている会社は、ぜひ一度チェックしてみてください。


そもそも「労働者性」ってなに?

まず基本的なところから。

労働基準法第9条は、「労働者」を「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。

ポイントは、契約の名前ではなく「実態」で判断されるということ。業務委託契約書があっても、実態が雇用なら労働者です。逆に、雇用契約書があっても実態が独立した事業者なら労働者ではない、ということにもなり得ます。

この判断基準は、厚生労働省が示している「労働基準法研究会報告」(昭和60年)をベースに、複数の要素を総合的に見て決められます。


労働者性の判断で見られる6つのポイント

裁判所や労基署が「この人は労働者か?」を判断するとき、主に以下の6つが見られます。

1. 仕事の依頼を断れるか

会社から「この仕事やって」と言われて断れない → 労働者寄りです。本来の業務委託なら、個別の案件ごとに受けるかどうかを選べるはずです。

2. 業務の進め方に指揮命令があるか

やり方・手順・スケジュールを会社が細かく指定している → 労働者寄り。業務委託には、仕事の完成を約束する請負(民法632条)と、事務の処理を委ねる委任・準委任(民法643条・656条)があります。納品する成果物がない業務委託も成り立つので、成果物の有無だけでは雇用と切り分けられません。見るのは、仕事の進め方まで会社が具体的に指示しているかどうかです。

3. 時間的・場所的な拘束があるか

勤務時間や場所が決められている → 労働者寄り。ここは最近の裁判でも特に重視されるポイントです。「毎日9時〜18時で来てください」と言っていたら、もうほぼ雇用と同じですよね。

4. 他の人に代わりにやらせられるか(代替性)

自分の代わりに別の人を使えない → 労働者寄り。ただし、第三者に任せられる範囲は契約の種類で変わります。委任・準委任なら、復受任者を選ぶのに原則として委任者の許諾かやむを得ない事由が必要です(民法644条の2第1項)。代替性は判断要素のひとつで、再委託が禁止されているというだけで雇用と決まるわけではありません。

5. 報酬の性質

「時間に対して支払われる」性質が強い → 労働者寄り。成果物に対する対価として支払われるなら事業者寄りの評価になります。

6. 機材や経費の負担

会社が用意したPC・ツール・設備で働いている → 労働者寄り。独立した事業者なら、自分の機材で仕事をするのが自然です。


最近の裁判で何が決め手になったのか

東京地裁の令和8年2月25日判決(労働新聞 2026年3月19日付で報道)では、営業代行の業務委託契約を結んでいた男性について労働者性が認められ、契約は有期労働契約だったと判断されました。

裁判所が労働者性の理由に挙げたのは、次の2点です。

週40時間の業務従事義務

契約で1日8時間・週5日間の業務従事が義務付けられていたこと。週40時間って、普通の正社員と全く同じですよね。裁判所は「時間的拘束性の程度は強固」と判断しました。

GPS付きアプリでの報告義務

業務状況をGPS付きのアプリで報告する必要があったとのこと。場所の拘束に加えて、業務遂行に対する管理・監視が行われていたことを示しています。

契約では再委託も禁止されていた

契約では、会社の事前承諾なく他の人に仕事を任せること(再委託)も禁止されていました。ただ、報道を見る限り、判決が労働者性の理由として挙げたのは上の2点で、再委託の禁止はその理由に入っていません。

この判決で興味深いのは、働いていた側も当初は「業務委託」として訴訟を進めていたのに、途中で「実は労働契約だった」と主張を変えた点です。裁判所はこの変更を認めました。

つまり、双方が「業務委託です」と認識していても、裁判所は実態を見て判断するということです。お互いの認識は関係ないんですよね。


「業務委託のつもりだったのに…」が起きる理由

実はこのパターン、珍しくないんです。

業務委託にしたい理由って、だいたいこんな感じじゃないですか。

  • ・社会保険料の負担を減らしたい
  • ・雇用のリスク(解雇規制など)を避けたい
  • ・人件費を「外注費」として計上したい

気持ちはわかります。でも、契約の形式だけ変えて、中身は雇用と同じにしていると、いつか問題になります。


「労働者」と判断された場合のリスク

業務委託のつもりだった人が労働者と認定されると、以下のリスクが一気に発生します。

リスク内容
未払残業代の請求時間管理されていた場合、過去分の割増賃金が発生。最大3年分の遡及
社会保険の遡及加入過去2年分の保険料を会社が負担する可能性
解雇規制の適用契約解除が「不当解雇」に。バックペイの支払いも
有給休暇の付与義務6ヶ月継続勤務し全労働日の8割以上出勤していれば原則10日の有給が発生していたことに(所定日数の少ない人は比例付与)
労災保険の適用業務中のケガが労災扱いになる

今回の裁判では、約200万円(201万8000円)のバックペイの支払いが命じられています。これだけでもかなりの金額ですが、残業代や社会保険料の遡及が加われば、さらに膨らむ可能性があります。


中小企業がいますぐチェックすべき3つのこと

「うちも業務委託でお願いしている人がいるけど、大丈夫かな…」と思った方、以下を確認してみてください。

チェック1:勤務時間を指定していないか

「月曜〜金曜、9時〜18時で来てください」と言っていたら、それはもう時間的拘束です。業務委託なら、いつ仕事をするかは本人が決めるのが本来の形です。

チェック2:業務の進め方を細かく指示していないか

「このマニュアル通りにやって」「毎日報告して」「このツールを使って」となっていたら、指揮命令関係がある可能性が高い。業務委託は「何を納品するか」を決めて、やり方は任せるのが基本です。

チェック3:報酬が「月額固定」になっていないか

毎月同じ金額を払っていても、それだけで給与と決まるわけではありません。民法648条2項は、期間を決めて報酬を払う委任をはっきり想定しています。見るのは、報酬が働いた時間に対応しているか、欠勤や遅刻で減額されるか。そこに指揮命令や時間・場所の拘束を重ねて、労働者性を判断します。今回の裁判の報酬も月額25万円(のち20万円)の定額でしたが、判決が労働者性の理由として挙げたのは、時間的拘束とGPS付きアプリでの報告でした。


フリーランス保護法(2024年11月施行)も忘れずに

2024年11月に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス保護法)も押さえておきましょう。

この法律では、フリーランスに業務を委託したら、直ちに書面またはメールなどの電磁的方法で取引条件を明示することが義務づけられました(法3条1項)。電磁的方法で明示した場合でも、相手から書面を求められたら遅滞なく交付します(同条2項)。報酬の支払期日のほうは、従業員を使用する事業者や役員が2人以上いる法人など「特定業務委託事業者」に当たる場合に、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で定め、その期日までに支払う、という義務です(法2条6項・4条1項)。他社から受けた仕事を再委託したときは、元委託の支払期日から30日以内という別枠になります(法4条3項)。

ただし注意点。フリーランス保護法を守っていれば労働者性の問題がクリアになるわけではありません。あくまで別の論点です。

  • ・フリーランス保護法 → 取引条件の適正化(書面交付・支払期限など)
  • ・労働者性の判断 → 働き方の実態で決まる(指揮命令・拘束性など)

両方ともちゃんと対応が必要です。


業務委託をやめて「社員」にするなら、管理の仕組みが必要

ここまで読んで「やっぱり業務委託はリスクがあるな、正社員として雇おう」と思った方もいるかもしれません。

その判断、正しいと思います。曖昧なまま業務委託を続けるよりも、きちんと雇用契約にしたほうがお互いにとって安全です。

ただ、社員として雇うとなると、当然ながら管理業務がドッと増えます。

  • ・社会保険・雇用保険の加入手続き
  • ・給与計算(残業代・社会保険料の控除)
  • ・雇用契約書・労働条件通知書の作成
  • ・就業規則の整備
  • ・36協定の届出
  • ・入退社のたびに届出手続き
  • ・有給休暇の管理
  • ・年末調整

人事の専任担当がいない中小企業にとって、これを全部自分でやるのはけっこう大変なんですよね。


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まとめ

  • ・契約書の名前ではなく「実態」で労働者かどうかが決まる
  • ・時間的拘束・指揮命令・報酬の性質が特に重視される
  • ・双方が「業務委託」と認識していても、裁判所は実態で判断する
  • ・労働者と判断されると、未払賃金・社保遡及・解雇規制など一気にリスクが顕在化する
  • ・業務委託を見直す場合、「勤務時間の指定」「細かい指示」「月額固定報酬」の3つをチェック
  • ・正社員に切り替えるなら、人事労務の管理体制も一緒に整えよう

業務委託って、正しく使えば会社にとってもフリーランスにとってもいい仕組みです。でも「名前だけ業務委託で中身は雇用」は、双方にとってリスクでしかありません。

「うちは大丈夫かな?」と少しでも思ったら、契約書と実態を照らし合わせてみてください。それだけでリスクがぐっと下がりますよ。

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