所定労働時間を変えたら固定残業代も要見直し

仕事術

所定労働時間を変えたのに、固定残業代の額はそのまま…という会社へ

週休2日から完全週休2日制に変えた。始業・終業時刻を見直して、1日の所定労働時間を短くした。

そんな制度変更、最近やっていませんか。

就業規則の所定労働時間の欄だけ書き換えて、固定残業代の金額や対象時間数はそのまま据え置き。人事担当がひとりで、制度変更の実務まで手が回っていない会社によくあるパターンです。

でもこれ、実は結構危ういんですよね。月額賃金を据え置いたまま所定労働時間だけ短くすると、1時間あたりの賃金は上がります(月額賃金も一緒に変える場合は、その組み合わせしだいで単価が変わらないこともあります)。

金額を据え置いたままだと、固定残業代がカバーしている「時間数」が、知らないうちにズレてしまうんです。

結論:所定労働時間を変えたら、固定残業代を再計算する

先に結論からいきます。

所定労働時間を変更したときは、固定残業代の金額・対象時間数を計算し直し、いま何時間分をカバーしているのかを確かめてください。 所定労働時間を変えただけで、直ちに未払いが生じるわけではありません。ただし据え置いたままだと、変更後の実際の残業に対して法律上必要になる割増賃金と、支払っている固定残業代との間に差額が生まれることがあります。差額が出たぶんは追加で支払う必要があるので、早めに突き合わせておくのが安全です。

固定残業代は、ざっくり言えば「1時間あたりの賃金×割増率×対象時間数」で決まります。ただし割増率は一律ではありません。法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超える時間外労働は1.25倍以上、1か月60時間を超える時間外労働の部分は1.5倍以上(2023年4月から中小企業にも適用)、法定休日の労働は1.35倍以上、深夜(22時〜翌5時)が重なればさらに0.25倍以上を上乗せします。反対に、所定労働時間は超えても法定労働時間の枠内に収まる残業は、法律上は割増不要(1.0倍)です。ですから、その固定残業代が「どの種類の残業を何時間分カバーするのか」を先に決め、種類ごとの割増率で計算する必要があります。

そのうえで基礎になる1時間あたりの賃金は、固定残業代そのものを含めない「所定内労働の対価となる月額賃金」を、「1か月平均所定労働時間」で割って求めます。月額賃金を据え置いたまま所定労働時間を変えれば、この分母が変わり、単価そのものが動いてしまうわけです。

なぜ所定労働時間の変更で固定残業代がズレるのか

仕組みを整理します。固定残業代の計算の土台になる「1時間あたりの賃金」は、次の式で求めます。

1時間あたりの賃金=所定内労働の対価となる月額賃金÷1か月平均所定労働時間

1か月平均所定労働時間=年間所定労働日数×1日の所定労働時間÷12か月

年間所定労働日数は「その年の暦日数-年間所定休日日数」で求めます。ここで注意したいのが暦日数です。通常の年は365日ですが、うるう年は366日になります。式を機械的に「365日」で固定して計算すると、うるう年には分母がわずかに小さく算定され、1時間あたりの賃金が実態より低く出て、割増賃金の不足につながるおそれがあります。正確には、対象となる年の暦日数、あるいはカレンダーから数えた年間所定労働日数を使って計算してください。

ここでいう「所定内労働の対価となる月額賃金」には、固定残業代そのものは含めません。固定残業代を単価の計算に混ぜると、残業代で残業代を計算する堂々巡りになり、単価も対象時間数も狂います。

分子から除ける手当も限られています。割増賃金の基礎から外せるのは、労働基準法37条5項・労働基準法施行規則21条で定められた家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金だけです。しかも家族手当・通勤手当は「名称」ではなく「支給基準」で判断します。扶養家族の人数や通勤距離に応じて支給していれば除けますが、全員に一律で定額を配っている場合は、名前が家族手当・通勤手当でも基礎に算入しなければなりません。この線引きを誤ると、単価が低く出て、固定残業代の対象時間数を過大に見積もってしまいます。

たとえば、1日の所定労働時間を8時間から7.5時間に短縮したとします。年間所定休日日数が同じなら、1か月平均所定労働時間は減ります。分母が減るので、1時間あたりの賃金は上がります。

固定残業代の金額を変えずに据え置くと、割高になった1時間あたりの賃金で計算し直したとき、カバーできる残業時間数は以前より少なくなります。就業規則や雇用契約書に「固定残業代◯円は月◯時間分」と明示している場合、その時間数の表記自体が実態と食い違ってしまいます。そのまま放置すると、変更後の実際の残業に対して法律上必要な割増賃金に固定残業代が届かなくなり、その差額が固定残業代が「未払い」と言われる典型パターンにつながっていきます。

逆に、完全週休2日制の導入などで所定休日が増えるケースでも同じことが起きます。年間所定休日日数が増えれば1か月平均所定労働時間は減り、1時間あたりの賃金は上がるからです。所定労働時間・所定休日のどちらが変わっても、固定残業代の再計算は避けて通れません。

現場でよくある失敗4つ

  • 就業規則の所定労働時間欄だけ改定し、賃金規程の固定残業代の記載を直していない:条文同士が矛盾したまま残ってしまう
  • 給与計算ソフトの設定を変更し忘れる:自動計算のツールを使っていても、所定労働時間のマスタ設定を直さないと、旧い数値のまま計算され続ける
  • 一部社員だけ所定労働時間が変わったのに、固定残業代の単価を全社一律で使い回している:時短勤務者や、パートから正社員に登用した社員で特に起きやすい
  • 変更のタイミングで変更後の労働条件を書面に残していない:労働基準法15条は労働契約を結ぶときの明示義務を定めた規定で、変更時の再交付そのものを直接義務づけているわけではない。ただし所定労働時間は労働条件の重要事項なので、変更合意書や労働条件通知書を交付し直し、新しい所定労働時間・固定残業代の内容を書面で残しておくと、後々の「言った・言わない」を防げる

いずれも「制度は変えたが、書類とシステムへの反映が追いついていない」という共通点があります。所定労働時間の変更は、就業規則・賃金規程・雇用契約書・給与計算システムの4か所を同時に見直す前提で進めるのが安全です。

選び方・判断軸:再計算の手順とタイミング

所定労働時間を変更するときは、次の順番で進めるのがおすすめです。

手順やること見落としがちな点
1. 変更内容の確定1日の所定労働時間・年間所定休日日数の新旧を明確にする部署・雇用形態ごとに違う場合は個別に整理する
2. 単価の再計算1時間あたりの賃金・固定残業代の対象時間数を計算し直す端数処理(四捨五入・切上げ・切捨て)の方式を先に決めておく
3. 書面の更新就業規則・賃金規程・雇用契約書・労働条件通知書を改定する常時10人以上の事業場は労働基準法89条により就業規則の届出も必要
4. 不利益変更の確認固定残業代の実質的な引き下げにならないか確認する労働者に不利益な変更は、原則として個別同意か就業規則変更の合理性が必要
5. システム反映給与計算ソフトの設定を新しい数値に更新する反映漏れがあると、書類上は正しくても計算結果だけ古いまま残る

特に4番目は見落とされがちです。所定労働時間の短縮に合わせて固定残業代の金額まで下げてしまうと、実質的な賃金引き下げにあたる可能性があります。労働契約法9条・10条の考え方に沿って、不利益変更にあたらないか、あたる場合は同意を取るか合理的な手続きを踏んでいるかを、変更前に確認しておく必要があります。

オマカセロウムくんなら、制度変更のたびの計算漏れを防げます

私たちが提供している「オマカセロウムくん」は、給与計算・社会保険手続きに加えて、就業規則や賃金規程の整備まで含めて外部の人事部として引き受けるサービスです。

所定労働時間の変更でいちばん怖いのは、就業規則だけ直して満足してしまい、賃金規程・雇用契約書・給与計算システムへの反映が後回しになることです。オマカセロウムくんでは、制度変更のたびに関連する書面と給与計算の設定を一括で洗い出し、反映漏れがないかを確認する運用を組んでいます。

何年も見直していない就業規則が実態とズレていく理由でも書きましたが、就業規則は一度作って終わりではなく、制度変更のたびにメンテナンスが必要なものです。

実務ツールとしては、freee人事労務のように所定労働時間の設定を一元管理できるクラウド給与計算システムを使うと、設定内容に応じて1時間あたりの賃金を再計算でき、固定残業代の設定が実態と合っているかを確認しやすくなります。ただし所定労働時間などを変更したときは、マスタを直せばそれで終わりというわけではありません。1時間あたりの賃金の再計算を実行したり、固定残業代の設定内容を見直したりする操作が別途必要になるので、「マスタさえ直せば固定残業代まで自動で連動する」と過信しないほうが安全です。freee人事労務があれば社労士はいらないのか、実際に使う立場から本音で書いた記事もあわせて読んでみてください。

まとめ:所定労働時間の変更は「4点セット」で見直す

月額賃金を据え置いたまま所定労働時間を変えると、固定残業代の基礎になる1時間あたりの賃金が変わります(月額賃金も同時に変える場合は、その組み合わせで単価が動かないこともあります)。

  • 所定労働時間・所定休日のどちらが変わっても、1時間あたりの賃金と固定残業代の対象時間数は計算し直す
  • 1か月平均所定労働時間は「年間所定労働日数×1日の所定労働時間÷12か月」で求める。年間所定労働日数の基礎になる暦日数は、うるう年は366日になるので、365日で固定せず対象年の日数で計算する
  • 給与計算ソフトを使っていても、所定労働時間などを変えたら1時間あたりの賃金の再計算と固定残業代の設定確認を忘れない。マスタを直せば自動で連動する、と過信しない
  • 単価の基礎は「所定内労働の対価となる月額賃金」で計算し、固定残業代そのものは含めない。家族手当・通勤手当は名称ではなく支給基準で除外できるか判断する
  • 割増率は一律1.25倍ではない。時間外・法定休日・深夜・月60時間超で率が違うので、固定残業代がどの残業を何時間分カバーするのかを先に決めて計算する
  • 見直すべきは、就業規則・賃金規程・雇用契約書(労働条件通知書)・給与計算システムの4か所。労働基準法15条は締結時の明示義務だが、変更内容も書面に残しておくと後のトラブルを防げる
  • 固定残業代の金額を実質的に引き下げる変更は、不利益変更にあたらないか事前に確認する
  • 一部社員だけ所定労働時間が変わるケース(時短勤務・雇用形態変更など)は、全社一律の単価を使い回さない
  • 所定労働時間を変えただけで直ちに未払いになるわけではない。ただし変更後の実際の残業に対する法定の割増賃金との差額が出れば、その分は追加で支払う

制度変更をきっかけに、まずは就業規則と給与明細の固定残業代の金額・時間数が、いまの所定労働時間と整合しているか確認してみてください。

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