「つわりがひどくて、今日は出勤できません」
産休の手続きは調べていても、こうした連絡への対応までは決めていない。担当する仕事を誰に頼むか考えながら、年休で処理してよいのかも気になる。経営者としては、どちらも放っておけない話です。
妊娠中の申し出には、本人の請求に応じるもの、医師等の指導に沿って対応するものがあります。休む時間の給与や社内の連絡方法まで、すべて法律で決まっているわけではありません。
最初に聞きたいのは、仕事のどこがつらいか
申し出と対応の一覧
「休みたい」「立ち仕事がつらい」と言われたら、希望する対応と、医師・助産師から指導を受けているかを聞きます。この2つ目が分かれ目です。 指導があれば会社はそれに沿って動きます。指導がなければ、扱いは会社が決められます。健康を守るために勤務時間や作業を調整することを、法律では「母性健康管理措置」と呼びます。
| 申し出・状況 | 医師等の指導 | 法律上必要な対応 | 会社で調整・決定すること |
|---|---|---|---|
| つわりで休みたい・遅刻したい | あり | 指導を守れるよう措置(均等法13条) | 勤務の組み方、賃金の扱い |
| つわりで休みたい・遅刻したい | なし | 法律上の義務はない | 年休・欠勤・会社独自の休暇のどれで扱うか |
| 立ち仕事や作業内容を変えてほしい | あり | 指導を守れる業務に調整(均等法13条) | どう調整するか、賃金の扱い |
| 立ち仕事や作業内容を変えてほしい | なし | 法律上の義務はない | 受診を勧めるか、社内で調整するか |
| 健診のため勤務中に抜けたい | 問わない | 必要な時間を確保(均等法12条) | 申請方法、有給・無給 |
| 軽い仕事に替えてほしい | 問わない(請求が要件) | 請求に応じて転換(労基法65条3項) | 社内のどの仕事を担当してもらうか |
| 残業・休日出勤・深夜勤務を外してほしい | 問わない(請求が要件) | 請求に応じて制限(労基法66条) | 担当業務やシフトの組み替え |
| 法律で禁止された重い物を扱っている | 問わない(請求も不要) | 会社から外す(労基法64条の3) | 作業の分担、代わりの業務 |
まだ医師に相談していない場合
つわりによる欠勤で指導を受けていなければ、年休や欠勤、会社独自の休暇制度の扱いを確認します。本人が求める対応に応じて、受診時に仕事の状況を伝えてもらうと、その後の調整もしやすくなります。
通勤ラッシュの回避や休憩については、具体的な指導が確認できない段階でも、通勤事情や作業状況に応じた対応が望ましいとされています。指導の有無だけで話を終わらせず、始業時刻や休憩の取り方を相談できます。
健診の日は、中抜けで足りることもある
移動と待ち時間も含めて確保する
妊婦健診の申し出があれば、勤務中でも必要な時間を確保します。対象は診察・保健指導の時間に加え、往復と待ち時間。健診と保健指導が別の日なら、両方で1回と数えます。
頻度は次のとおりです。医師・助産師から異なる指示があれば、その指示に従います(均等法12条、同施行規則2条の4)。
| 時期 | 頻度 |
|---|---|
| 妊娠23週まで | 4週間に1回 |
| 24〜35週 | 2週間に1回 |
| 36週から出産まで | 1週間に1回 |
| 産後1年以内 | 医師等の指示による |
有給にするかは、社内ルールで決める
健診時間を有給にする法律上の義務はありません。労使で話し合い、有給・無給や申請方法を就業規則に定められます。
中抜け、遅刻、早退など、必要な時間を確保できる取り方を用意すれば、毎回一日休む必要はありません。予約が決まった時点で連絡をもらう運用も考えられます。
本人が年休を希望するのは構いませんが、会社から年休の使用を一方的に指示する扱いは認められません。厚生労働省のQ&Aでも、この点を説明しています。
つわりで休む日と、自宅療養が続くとき
年休にする前に本人の希望を聞く
欠勤の連絡を受けても、会社の判断だけで年休に振り替えることはできません。年休は本人の請求が基本です(労基法39条5項)。
年休の希望がなければ、就業規則に沿って欠勤や特別休暇として扱います。会社独自の有給休暇を設けることも可能です。朝の連絡先、事後の申請方法、給与から控除する場合の計算方法を決めておくと、本人も担当者も見通しを持てます。
なお、年休の出勤率では産前産後休業を出勤扱いにしますが、妊娠中の欠勤すべてが自動的に出勤扱いになるわけではありません(労基法39条10項)。
母健連絡カードが届く前でも
「医師から自宅療養を指示されました」と連絡があれば、その指導に沿って休業などの措置を取ります(均等法13条)。
母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)は、医師等の指導を会社に伝える書類です。カードがなくても、本人の申し出から内容が明らかなら必要な措置を取ります。
期間や避けるべき作業が不明なら、本人から主治医等に確認してもらいます。医療機関名・医師名が記入されたカードは診断書に代わる証明書類なので、重ねて診断書を求める必要があるかも検討したいところです。
無給で休むなら傷病手当金を確認する
休業を有給にする義務はありません。無給になる場合は、健康保険の傷病手当金を確認します(健保法99条)。主な要件は次の4つです。
- 業務外の病気やけがの療養である
- 仕事に就けない状態である
- 連続する3日間を含め、4日以上仕事に就けない
- 休んだ期間の給与が支払われていない
最初の3日間には年休や公休日も含まれます。給与が手当金より少なければ差額支給です。
1日分は、原則として支給開始月以前の直近の継続した12か月間の標準報酬月額の平均を30で割り、その3分の2。支給期間は通算1年6か月です。加入期間が短い場合などは、協会けんぽの案内で個別に確認できます。
仕事を替える、残業を外す
軽い仕事をどう用意するか
「軽易業務への転換」は、体の負担が少ない別の仕事に替えることです。妊娠中の本人から請求があれば対応します(労基法65条3項)。
具体的な仕事は社内の業務から検討します。すでにデスクワークで、さらに軽い仕事が見当たらない場合もあります。そのときは本人を通じて主治医等の判断を求めたり、産業医などに相談したりして、本人と対応を話し合います。
立ち仕事の制限など医師等の指導がある場合には、その指導を守れる業務に調整します(均等法13条)。
残業を減らしたいと言われたら
妊娠中と産後1年を経過しない社員から請求があれば、次の制限を守ります。36協定があっても同じです(労基法66条)。
- 変形労働時間制でも、1週40時間・1日8時間を超えて働かせない
- 時間外・休日労働をさせない
- 深夜業をさせない
会社では、制限に沿って担当業務やシフトを組み直せます。残業等をしなければ、その実績に応じた賃金・割増賃金は発生しません。固定手当などの扱いは賃金規程を確認します。
重い物を持つ仕事は会社から外す
重量物や有害ガスなど、健康に危険を及ぼす「危険有害業務」は、妊娠中の本人の請求を待たず外します。
満18歳以上の重量物の基準は、継続作業20kg以上、断続作業30kg以上です(労基法64条の3、女性労働基準規則2条1項1号)。本人が大丈夫と言っても、この業務には就かせられません。
医師等の指導に基づく負担軽減では、厚生労働省は継続作業6〜8kg・断続作業10kg以上を重量物の目安にしています。法律の禁止基準より軽くても、指導に応じた調整が必要です。
給与と評価は分けて考える
欠勤分の控除と、妊娠を理由にした減点
妊娠や出産などを理由に解雇・降格などの不利な扱いをすることを「不利益取扱い」といい、禁止されています(均等法9条3項)。
働かなかった時間の給与や賞与の扱いには、会社が規程で決められる部分があります。ただし、妊娠を理由に余分な減点を加えることはできません。厚生労働省のQ&Aは、同じ期間を私傷病で休んだ社員より不利に評価する扱いを違反としています。
妊娠による欠勤や仕事の能率低下も保護の対象です(同施行規則2条の2第9号)。評価に反映する場合は、具体的な基準と影響を確認します。
決めた内容は本人にも渡しておく
申し出の日付・内容、医師等の指導、会社の措置と本人の回答を残します。措置は速やかに本人へ明示し、書面にしておくことが望まれます。
本人が読む書面には、勤務時間、担当する仕事、適用期間、給与の扱いをまとめると確認しやすくなります。体調や指導が変わったときの連絡先も添えられます。
申請の窓口を人事にまとめるか、上司を通すかは会社で決められます。ただ、急な欠勤の日に書類をそろえるのは難しいものです。当日の連絡と後日の手続きを分けておくと、現場の引き継ぎも進めやすくなります。
産休に入るときは、別の手続きもある
産前は請求、産後は原則休業
産前休業は、出産予定日の6週間前、多胎妊娠なら14週間前から、本人の請求により取得します(労基法65条1項)。
産後8週間は請求の有無にかかわらず就業禁止です。ただし、産後6週間を経過し、本人が請求した場合は、医師が支障ないと認めた業務に限り就業できます(同条2項)。出産が予定日より遅れても、産後の期間は短くなりません。
解雇の制限と保険料の手続き
産前産後休業中とその後30日間は、原則として解雇が禁止されています(労基法19条)。また、妊娠中・出産後1年を経過しない女性の解雇は、妊娠・出産等が理由でないと会社が証明しない限り無効です(均等法9条4項)。
産前産後休業中の健康保険・厚生年金保険料は、会社の申出により本人・会社の両負担分が免除されます。手続きは日本年金機構の案内で確認できます。
産休より前の自宅療養期間には、この免除はありません。無給の期間に本人負担分をどう支払ってもらうかは、休業時に話し合っておきたい事項です。
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