台風で休業したら休業手当は必要?8つのケースで判断

仕事術

台風で休んだ日の給料はどうなる?

私たちの顧問先から、「台風で何日か店を閉めた。この間の給料はどうすればいい?」という相談が寄せられています。

台風のたびに聞かれる質問ですが、答えは「休んだ理由による」です。浸水で物理的に営業できなかったのか。会社が安全のために休みを決めたのか。それとも、社員が来られなかったのか。同じ台風による休みでも、事情によって結論は大きく変わります。

よくある場面を8つの想定ケースに分けて、休業手当が必要かどうかを見ていきます。いずれも、実務で相談の多い状況をもとにした架空の例です。

台風で休業した店舗と休業手当

分かれ目は「不可抗力かどうか」

休業手当のルール(労働基準法26条)

労働基準法26条は、次のように定めています。

> 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。
>(労働基準法 第26条/e-Gov法令検索)

会社側の事情で休ませた場合に支払う、平均賃金の60%以上の手当が休業手当です。正社員だけでなく、パート・アルバイトにも同じように当てはまります。平均賃金の計算方法は、労働基準法12条に定めがあります。なお、60%は法律上の最低ラインです。就業規則や雇用契約でそれ以上を払うと決めている会社は、その定めに従います。

天災などの「不可抗力」なら払わなくていい

天災事変などの不可抗力による休業は「使用者の責に帰すべき事由」に当たらず、休業手当の支払義務はないとされています。

ただし、台風による休業がすべて不可抗力に当たるわけではありません。厚生労働省は、不可抗力といえるには次の2つを両方満たす必要があるとしています。

  • ① その原因が事業の外部より発生した事故であること
  • ② 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること

(厚生労働省「令和元年台風第15号による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A」令和元年9月18日 A1-4)

休業手当の「会社側の事情」は広く取られる

ノース・ウエスト航空事件(最高裁第二小法廷 昭和62年7月17日判決)では、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営上・管理上の障害も含むと判断されました。

「会社に落ち度がない」という理由だけで、支払いが不要になるとは限りません。不可抗力に当たるかを考えるときは、本当に休業を避ける手段がなかったかまで確かめる必要があります。

会社が被害を受けたケース

ケース1:工場が浸水して操業できない(製造業・想定)

【状況】台風の大雨で工場が床上浸水。機械が水をかぶり、復旧まで3日間操業できなかった。

【結論】原則として休業手当は不要です。

厚生労働省のQ&Aでは、台風による水害等で事業場の施設・設備が直接的な被害を受けて休業させる場合について、「休業の原因が事業主の関与の範囲外のもの」としています。2つの要件に当たると考えられるため、原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないという扱いです(同Q&A A1-4)。

ただし、機械が直った後も、受注が減ったことを理由に休ませ続けた日は扱いが変わります。復旧後の休業は会社の経営判断によるものなので、休業手当が必要です。

ケース2:店は無事だが、停電で営業できない(飲食店・想定)

【状況】店舗に被害はないが、地域一帯が停電。冷蔵庫もレジも使えず、2日間閉店した。

【結論】停電していた時間の休業は、不可抗力に当たりやすいと考えられます。

台風による停電については、厚労省のQ&Aに直接の答えがありません。ここでは2要件に照らして考えます。電力会社の設備が被災したことによる停電は、会社の外部で生じたもので、店側の努力では避けられません。

参考になるのが、東日本大震災の際の計画停電に関する通達です。計画停電の時間帯の停電を理由とする休業は、原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないとされました。一方、停電の時間帯以外の休業は、原則として該当するとも記されています(厚生労働省「計画停電が実施される場合の労働基準法第26条の取扱いについて」平成23年3月15日 基監発0315第1号)。

電気が戻った後も、特に理由がないまま休ませた日は、休業手当が必要と判断されやすくなります。 停電中と復旧後を区別できるよう、電気が戻った時刻は記録しておきましょう。

会社は無事でも動けないケース

ケース3:取引先や道路が被災して、材料が届かない(食品加工・想定)

【状況】自社の工場は無事。ただ、仕入れ先が被災し、道路も寸断されて原材料が入らない。1週間ラインを止めた。

【結論】原則として休業手当が必要です。ただし例外があります。

厚労省のQ&Aでは、施設・設備が直接的な被害を受けていない場合は、原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当するとされています。そのうえで、2つの要件を満たす場合は例外的に該当しないとし、判断材料として次の5つを挙げています(同Q&A A1-5)。

  • 取引先への依存の程度
  • 輸送経路の状況
  • 他の代替手段の可能性
  • 災害発生からの期間
  • 使用者としての休業回避のための具体的努力

「別の仕入れ先を当たった」「迂回ルートを探した」など、休業を避けるために実際に何をしたかが問われます。後から経緯を説明できるよう、問い合わせのメールや、検討した内容の記録を残しておきましょう。

会社の判断で休みにしたケース

台風前日の休業判断

ケース4:前日に「明日は安全のため休み」と決めた(小売店・想定)

【状況】台風接近の予報を見て、前日の夕方に「明日は休業」と決定。結果、当日の被害は小さく、出勤も営業もできた。

【結論】休業手当が必要と判断されやすいケースです。

このケースも、厚労省のQ&Aに直接の答えはありません。ただ、ケース3で触れたように、厚労省は施設が被害を受けていない休業について、原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業としています。出勤も営業もできる状況で会社が休みを決めた場合、会社の判断が休業の原因だと見られやすくなります。

もちろん、社員の安全を考えて休みにする判断そのものは正しいものです。その判断とは別に、休みにした日の給料をどう扱うかを考えます。

私は、休業手当(あるいは全額)を払う前提で休みを決めることをおすすめします。60%は労働基準法上の最低ラインで、休業の理由が会社側の事情と言える場合は、民法536条2項により賃金の全額を請求される余地もあります。在宅でできる仕事があれば、休業にせず在宅勤務へ切り替える方法もあります。

社員が来られなかったケース

ケース5:電車が止まって社員が出勤できなかった(事務所・想定)

【状況】会社は通常どおり営業。ただ、計画運休で一部の社員が出勤できなかった。

【結論】休業ではなく「欠勤」の扱いになり、休業手当の問題にはなりません。

会社が休ませたわけではないため、労働基準法26条の対象にはなりません。厚労省のQ&Aでは、労働契約や就業規則等に、労働者が出勤できなかった場合の賃金の定めがあればそれに従うとされています。

また、定めがない場合でも、労使でよく話し合い、労働者の不利益をできる限り回避するよう努力することが大切と記されています(同Q&A A9-2)。有給の特別休暇を設けている会社なら、その利用も選択肢です。

ケース6:会社が「有給で処理しておいた」(介護事業所・想定)

【状況】会社は営業していたが、台風で出勤できなかった社員の欠勤日を、会社が本人に確認せずに年次有給休暇として処理した。

【結論】できません。

年次有給休暇は、使用者が労働者の請求する時季に与えなければならないもので、使用者に命じられて取得するものではないとされています(労働基準法39条5項本文、同Q&A A8-1)。労使協定による計画的付与(39条6項)もありますが、会社が一方的に取得を命じられる仕組みではありません。

ケース5のように会社は営業していて、本人が出勤できなかった日なら、本人が「有給を使いたい」と申し出て使うのは問題ありません。会社で処理する前に、本人の希望を確認してください。

一方、会社が休業にした日は、そもそも働く日ではなくなっています。その日に後から有給を充てるのではなく、ケース1〜4の考え方で休業手当が要るかどうかを判断してください。

休業が長引いたとき・派遣社員がいるとき

ケース7:派遣先が休業して、派遣社員が働けない(物流倉庫・想定)

【状況】派遣先の倉庫が被災して休業。派遣社員も働けなくなった。

【結論】休業手当が必要かどうかは、派遣元の会社について判断されます。

派遣先が不可抗力で操業できなくても、それだけで派遣元の支払義務がなくなるとは限りません。派遣元が、その派遣社員を他の職場に派遣できる可能性なども含めて判断されるとされています(同Q&A A2-1)。

派遣を受け入れている会社は、派遣元と早めに話をしておくと、その後の対応を進めやすくなります。

ケース8:復旧に時間がかかり、休業が長引いた(製造業・想定)

【状況】ケース3の会社で、仕入れ先の復旧が長引き、休業が1か月近くに及んだ。

【結論】雇用調整助成金の対象になる可能性があります。 休業手当が要るかどうかは、長引いてもケース3と同じ考え方で判断します。

厚労省のQ&Aでは、施設が被害を受けたこと自体は「経済上の理由」にならず対象外とされています。ただし、自然災害の長期化や復旧に時間がかかる場合で、交通手段の途絶などで原材料の入手や製品の出荷が難しくなり、事業活動を縮小した場合は対象となる可能性があるとしています(同Q&A A1-3)。

過去の災害では、災害救助法の適用地域にある事業所が災害で事業を休止し、一時的に離職した人は、再雇用が予定されていても雇用保険の基本手当を受けられる特別措置も取られています(同Q&A A1-1)。

今回の台風25号で特例が出ているかどうかは、この記事を書いた時点(令和8年9月29日)では確認できていません。利用できるかどうかは、最寄りの労働局かハローワークに確認してください。

休業手当と雇用調整助成金の相談

まとめ:台風の前に決めておくこと

ケース休業手当根拠
1 工場が浸水原則不要厚労省Q&A A1-4
2 停電で営業できない停電中は不要に傾く/復旧後は原則必要2要件、平成23年 基監発0315第1号
3 取引先・道路の被災原則必要(例外あり)厚労省Q&A A1-5
4 前日に会社判断で休業必要な側に傾く厚労省Q&A A1-5の考え方
5 社員が来られない休業ではなく欠勤厚労省Q&A A9-2
6 欠勤日を会社が有給で処理不可(本人の申し出があれば可)労基法39条5項、Q&A A8-1
7 派遣先が休業派遣元で判断厚労省Q&A A2-1
8 休業が長期化雇調金の対象になり得る厚労省Q&A A1-3

台風は毎年来ます。休業が必要になってから慌てないよう、休みにする基準や賃金の扱いを先に決めておくと、社員も会社も判断に迷わずに済みます。

  • 休業にする基準(警報・計画運休・避難指示など、何が出たら休みにするか)
  • 休業した日の賃金(全額か、平均賃金の60%以上の休業手当か。民法536条2項との関係も含めて定めておく)
  • 出勤できなかった日の扱い(欠勤か、特別休暇か)
  • 在宅勤務に切り替えられる仕事の範囲
  • 休業を避けるためにやったことの記録(代替の仕入れ先、復旧時刻など)

就業規則に定めておけば、次の台風では、その規則に沿って対応できます。今回、判断に困った点があれば、落ち着いた今のうちに見直しておきましょう。

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