「求人を出しても応募が来ない」。経営者の方から、繰り返し聞く話です。給与で大手に勝てない。売り手市場だから仕方がない。そう言いたくなる事情も分かります。
ただ、現場で私が感じるのは、特徴のない求人ほど応募につながらない、ということです。職場の特徴を尖らせると、応募は増える。「ここで働きたい」と思う理由が、読む人に届くからです。
「どこも同じ」に埋もれていないか
社名を隠して読んでみる
「アットホーム」「風通しがよい」「未経験歓迎」。どれも悪い言葉ではありません。でも、並べてみると会社の区別がつかない。
仕事を探す人は、いくつもの求人を見ています。自分が働く姿を想像できなければ、そのまま次へ進む。条件を比べてもらうところまで届いていない求人もあります。
採用にも、売り物の説明が要る
私は経営者として、採用はセールスと同じだと思っています。売り物は自分たちの職場です。
自社のサービスなら、誰に喜ばれるか、何が他と違うかを考えるはずです。求人でも、給与や休日に加えて、仕事の任せ方や日々の過ごし方まで伝えたい。給与を上げられるなら、その検討も続けてよいと思います。職場の魅力を伝える作業は、待遇の見直しと一緒に進められます。条件はもちろん大切です。それでも、条件の欄だけで職場の全部を説明するのは難しい。
尖らせたほうが、応募は増える
「自分に合いそう」が応募のきっかけになる
万人に好かれるように書くと、特徴が薄まります。誰も嫌がらない文章に整えたつもりが、誰の目にも留まらなくなる。求人を書くとき、ここは悩ましいところです。
仕事をどこまで任せるのか。社長とどのくらい話せるのか。休みをどう取るのか。具体的に書くほど、その働き方を求めている人が反応します。私が尖らせることを勧めるのは、応募する理由を見つけてもらえるからです。
| 特徴の薄い求人 | 特徴を尖らせた求人 | |
|---|---|---|
| 読んだ印象 | 他社との違いが分からない | 働く場面を想像できる |
| 応募への動き | 読み飛ばされやすい | 魅力を感じた人の応募が増える |
| 面接 | 職場の説明から始まる | 具体的な働き方を話せる |
合わない人が減るのは、そのあとの話
職場の実態が伝われば、合わないと感じて応募を見送る人もいるでしょう。入社後の行き違いを減らす助けにもなります。
けれど、応募が来なくて困っている経営者に、選考の手間が減ると言っても話が違う。目指すのは、今まで通り過ぎていた人に立ち止まってもらうことです。
社員に聞くと、社長の知らない良さが出てくる
「なぜ続けているんですか」
「うちは普通の会社だから」と言われることがあります。毎日いる社長には、見えにくいのでしょう。社員が気に入っているところと、社長が売りにしたいところが同じとも限りません。
長く働いている社員に、続けている理由を聞いてみます。「人間関係がいい」と言われたら、どんなときにそう感じるか、もう少し聞く。求人に使いたいのは、その先に出てくる話です。
退職した人の事情も振り返ります。ただ、辞めた理由をすべて相性の問題で片づけると、直せる問題まで見落とします。
文化は、普段の仕事に出ている
理念の文章を考えるより、日常を見たほうが材料は集まります。
- 最近の提案は、誰がどう決めたか
- 入社したばかりの社員は、誰に仕事を教わっているか
- 休みの相談をするとき、どんなやり取りがあるか
- 昼休みは一緒に過ごすのか、それぞれ自由なのか
こうしたことは、入社前には案外分かりません。社内では説明するまでもない話ほど、書く価値があります。
書いていないルールも確かめる
有給休暇の申請方法や電話の取り方など、就業規則だけでは見えない習慣も拾います。
書き出すうちに「これは何のために続けているんだろう」と思うものも出てくるはずです。採用原稿を作る作業が、働き方の見直しに広がってもよいと思います。
きれいな言葉より、働く場面を
抽象語をほどいて書く
求人に書く前に確かめたいのは、実際にそう運用しているかどうかです。下の表は、社内で集める材料の目安です。
| よく使う言葉 | 代わりに書く内容 |
|---|---|
| アットホーム | 社員同士の交流と、参加の自由 |
| 風通しがよい | 提案する相手、決まるまでの手順 |
| 成長できる | 入社後に任せる仕事と時期 |
| 未経験歓迎 | 教える担当者、練習する期間 |
| 社員を大切にする | 休みの相談方法、勤務時間の調整 |
良く見せようとしすぎない
繁忙期の残業、建物の使いにくさ、教育体制の足りないところ。応募してほしいと思うほど、書くのをためらいます。
それでも、入社後の生活や仕事に関わることは伝えておきたい。残業なら実際の時期と時間を確認し、教育なら誰に質問できるのかまで書く。読み手は、その情報も含めて働けるかを考えています。
募集と面接で外せないこと
募集時の明示事項を確認する
職業安定法5条の3第1項は、募集を行う者に、業務内容、賃金、労働時間その他の労働条件の明示を義務づけています。具体的な事項は、同条4項を受けた同施行規則4条の2第3項に定められています。
令和5年厚生労働省令第89号による改正は、令和6年4月1日施行。募集時の明示事項に、次の3つが加わりました。
| 追加された明示事項 | 根拠 |
|---|---|
| 従事すべき業務の内容の変更の範囲 | 職安則4条の2第3項1号 |
| 就業の場所の変更の範囲 | 同項3号 |
| 有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限がある場合はその上限を含む) | 同項2号の3 |
面接で確かめるのは、本人と仕事のこと
職業安定法5条の5第1項は、求職者等の個人情報の収集・保管・使用を「その業務の目的の達成に必要な範囲内」と定めています。平成11年労働省告示第141号の指針第五では、次の情報は原則として収集してはならないとされています。
- 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 思想及び信条
- 労働組合への加入状況
厚生労働省の「公正な採用選考の基本」は、基本的人権の尊重と、応募者の適性・能力に基づく選考を示しています。同省が挙げる就職差別につながるおそれのある14事項には、本籍・出生地、家族の職業や収入、住宅の状況、生活環境、宗教、支持政党、人生観、尊敬する人物、購読新聞などが含まれます。
職場との相性を知りたいときも、家族の事情には踏み込まず、「前の職場では、どんな仕事の進め方がやりやすかったですか」と聞く。仕事に即した話から確かめます。
求人票と、契約時の書面を揃える
休み方や残業について打ち出す内容は、労働条件にも関わります。労働基準法施行規則5条1項は、契約時の明示事項を定めています。1号の3は就業の場所・従事すべき業務とその変更の範囲。1号の2は有期労働契約の更新基準で、上限があればその上限も含みます。
求人票、労働条件通知書、就業規則を見比べ、約束が食い違っていないか確認します。
聞いた言葉を、求人へ持っていく
求人票だけで終わらせない
- 求人票:職場の特徴を、目に留まる位置に書く
- 面接:求人に書いた働き方を、具体的に話す
- 職場見学:書いた場面を実際に見てもらう
- 自社サイト:社員の言葉を採用ページに載せる
今週は、社員に聞くところから
| 時期 | やること |
|---|---|
| 今週 | 長く働く社員に、続けている理由を聞く |
| 今週 | 募集時の明示事項が揃っているか確認する |
| 3か月 | 暗黙のルールを書き出し、見直す |
| 3か月 | 求人票・面接・自社サイトの説明を揃える |
社員の話で気になった言葉は、すぐに整えず、そのまま書き留めておきます。経営者が考えた宣伝文句より、働いている本人のひと言のほうが、次に来る人に届くことがあります。
参照した一次情報
- e-Gov法令検索「職業安定法」5条の3・5条の5
- e-Gov法令検索「職業安定法施行規則」4条の2
- e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」5条
- 厚生労働省「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」
- 厚生労働省「公正な採用選考の基本」/「採用選考時に配慮すべき事項」
- 厚生労働省「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者等がその責務等に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号)」第五
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