この記事でわかること
- ・最低賃金の「目安制度」とは何か、なぜ今見直しが必要なのか
- ・発効時期のバラつき・ランク制度・EU基準という3つの論点
- ・中小企業が今のうちにやっておくべき具体的な対策
2026年3月、中央最低賃金審議会が「目安制度の在り方に関する全員協議会」を開催し、最低賃金の目安制度の見直しに正式に着手しました。
「最低賃金が上がる」というニュース自体はもう毎年のことなんですが、今回はちょっと違います。金額の話じゃなくて、制度そのものを変えようとしているんですよね。
「なんだ、制度の話か」と思うかもしれませんが、これ、中小企業の経営に直結する話です。今回は、この見直しで何が変わりそうなのか、そして企業として何を準備しておけばいいのか、わかりやすく解説していきます。

最低賃金の「目安制度」って何?ざっくり解説
まず前提として、最低賃金は都道府県ごとに決まるものです。じゃあ47都道府県がバラバラに決めているかというと、そうではなくて、中央最低賃金審議会が「このくらい上げましょう」という目安額を示して、それをベースに各地方の審議会が最終決定する仕組みになっています。
この「目安をどうやって示すか」のルールが目安制度です。
具体的にいうと、都道府県を経済状況に応じてランク分けして、ランクごとに目安額を出します。2023年の見直しで、それまでの4ランク(A〜D)が3ランク(A〜C)に変更されました。1978年にこの制度が始まって以来、ランク数が変わったのは初めてのことでした。
この目安制度はおおむね5年ごとに見直すことになっていて、今回がまさにそのタイミング。令和8年度の目安審議(今年の夏)までに一定の方向性を整理して、令和9年度中に最終的な取りまとめを目指すスケジュールです。
今回の見直しで何が変わる?3つの論点
全員協議会で議論されるテーマは大きく3つあります。
- 発効時期の統一:都道府県ごとに最大6ヶ月も差が出ている問題への対応
- ランク区分のあり方:3ランクのままでいいのか、区分方法は適切か
- EU指令の取扱い:「賃金中央値の60%」という国際基準を日本にも適用するか
どれも「最低賃金がいくら上がるか」以上に、制度の根っこに関わる話です。順番に見ていきましょう。
論点①:発効時期のバラつき問題(最大6ヶ月の差)
これ、私がいちばん注目している論点です。
最低賃金が改定されると、通常は10月1日前後から新しい金額が適用されます。ところが2025年度は、過去最大の引き上げ幅(全国加重平均84円アップ)だったこともあって、企業側に準備期間を確保する目的で発効日が大きくバラけました。
具体的にはこんな状況です。
| 発効時期 | 都道府県数 |
|---|---|
| 10月 | 20都道府県 |
| 11月 | 13府県 |
| 12月 | 8県 |
| 翌年1月 | 4県 |
| 翌年3月 | 2県 |
東京は10月3日に発効したのに、秋田は翌年3月31日。同じ年度の改定なのに、約6ヶ月も差がある。これ、マジで問題なんですよね。
何が問題かというと、発効が遅い地域の労働者は、その分だけ低い賃金で働き続けることになります。地域間格差の是正を目指しているはずなのに、発効日の差で逆に格差が広がってしまう。本末転倒です。
今回の見直しでは、この発効時期を全国的に揃える方向で議論が進む見込みです。

論点②:ランク制度のあり方
現在のランク制度は、2023年に4区分から3区分(A・B・C)に変更されたばかりです。
| ランク | 都道府県数 | 主な地域 |
|---|---|---|
| A | 6都府県 | 東京、大阪、愛知など |
| B | 28道府県 | 北海道、福岡、広島など |
| C | 13県 | 秋田、鳥取、沖縄など |
この区分が今のままでいいのか、というのが2つ目の論点です。
全員協議会では、近隣県との過度な競争意識や、最下位争いを背景とした「目安を大幅に上回る引き上げ」への対応も議論されます。
どういうことかというと、例えばCランクの県同士で「うちが最下位になりたくない」という心理が働いて、目安よりもかなり高い額を設定するケースが出てきている。気持ちはわかるんですが、無理な引き上げは地域経済に負担をかける可能性もあります。
ランク制度の見直しは、こうした過熱競争をどう制御するかという課題とセットで議論されることになります。
論点③:EU指令の「賃金中央値の60%」は日本に来るのか
3つ目が、ちょっとスケールの大きい話。
EU(欧州連合)には2022年に成立した「適正な最低賃金に関する指令」があって、そこでは法定最低賃金の水準の目安として「賃金の中央値の60%」または「平均値の50%」といった基準を掲げています。
これはあくまでEU加盟国向けのルールなので、日本に直接適用されるわけではありません。ただ、政府の「新しい資本主義実現会議」でもこのEU基準が参考として取り上げられていて、日本の最低賃金を決める際の一つの物差しになる可能性があります。
ちなみに、連合(日本労働組合総連合会)は2035年までにフルタイム労働者の賃金中央値の60%にあたる時給1,600〜1,900円を目標に掲げています。今の全国平均が1,055円ですから、まだまだ道のりは長いですが、方向性としては「もっと上げる」で一致しているのは間違いありません。
中小企業が今のうちにやっておくべきこと
「制度の見直しなんて、決まってから対応すればいいじゃないか」と思うかもしれません。でも、私の経験上、決まってから慌てる企業がめちゃくちゃ多いんですよね。
今のうちにやっておきたいことを整理しておきます。
✅賃金テーブルの棚卸し
まず最優先がこれ。自社の賃金テーブルで最低賃金ギリギリの社員がいないかチェックしてください。
2026年度の改定では全国平均1,200円前後になる可能性が高いと言われています。パート・アルバイトだけでなく、正社員の月給を時給換算したときに最低賃金を下回らないかも確認が必要です。
✅発効時期の統一に備える
もし発効時期が全国一律10月に統一されたら、準備期間が短くなる地域が出てきます。今まで12月や1月に発効していた地域は、2〜3ヶ月前倒しになるわけです。
「夏に決まって秋に施行」のサイクルに対応できるよう、給与計算の変更フローを事前に整備しておくことをおすすめします。
✅助成金の活用を検討する
最低賃金の引き上げに対応するための助成金も用意されています。
- 業務改善助成金:事業場内の最低賃金を30円以上引き上げ、生産性向上のための設備投資を行った場合に費用の一部を助成
- 賃上げ促進税制:一定の賃上げを実施した企業に対する税制優遇
特に業務改善助成金は、「どうせ上げるなら、助成金をもらいながら設備も更新する」という使い方ができるので、非常に使い勝手がいい制度です。

まとめ:「知らなかった」では済まない時代に
今回の記事のポイントを整理します。
- ・中央最低賃金審議会が目安制度の見直しに着手(2026年3月〜)
- ・議論のテーマは発効時期の統一・ランク制度・EU基準の3つ
- ・今夏の目安審議までに方向性を整理し、2027年度中に最終取りまとめの予定
- ・2026年度の最低賃金は全国平均1,200円前後が見込まれる
- ・中小企業は賃金テーブルの棚卸し・発効時期統一への準備・助成金活用を今から
最低賃金の引き上げは、もはや「毎年恒例のイベント」ではなく、制度の根本から変わろうとしている段階です。金額だけ見ていると、制度変更に対応できなくなるかもしれません。
今のうちから情報をキャッチして、先手を打っていきましょう。
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