「あの社員、どうやって辞めさせたらいい?」
従業員10〜50人ほどで、人事の専任がいない会社の社長や管理職から、こういう相談をよく受けます。
「仕事ができない」「何度言っても遅刻が直らない」「周りと揉めてばかりいる」。だから辞めてもらいたいけれど、どう進めたらいいのか分からない。
実際のところ、うまいこと辞めさせる、いい方法は、なかなかありません。あるのは、本人が合意する退職勧奨か、法律の要件が厳しい解雇だけです。結局は、ちゃんと話して、本人に納得してもらうことが大事なんです。
| 方法 | 中身 | 決めるのは |
|---|---|---|
| 退職勧奨 | 会社が「辞めてはどうか」と勧め、本人が納得して応じる | 本人(合意) |
| 解雇 | 会社が一方的に労働契約を終わらせる | 会社 |
ここで扱うのは、期間の定めのない雇用で、問題行動や能力不足を理由に、会社が辞めてもらいたいと考えている場面です。定年や契約期間の満了は別の話です。
辞めてもらいたいと思うこと自体は、いいんです。ただ、退職勧奨も解雇も、会社が「辞めてほしい」と思うだけでは進みません。どこでつまずくのか、退職勧奨から順に見ていきます。

退職勧奨:本人が納得して応じることが前提
しつこく勧めれば強要になる
退職勧奨は、本人が納得して辞めることが前提です。辞めるかどうかを会社が決めるものではありません。
本人が断っているのに何度も呼び出したり、長時間説得を続けたりする。大勢で囲んで話をしたり、その場で署名を迫ったりする。そこまでいくと、退職を勧めるというより、強要していると受け取られかねません。
退職を勧めるときは、次の点を守ります。
- 本人が断ったら、しつこく繰り返さない
- 長時間の説得や、大勢で囲むような面談をしない
- 退職の条件(退職日・有給休暇の消化・退職金の扱いなど)は書面で示し、持ち帰って考える時間をとる
- その場で署名や退職届を迫らない
- 合意したら、退職日や条件を退職合意書などの書面で確かめる
下関商業高校事件
下関商業高校事件(最高裁第一小法廷 昭和55年7月10日判決、昭和52(オ)405)は、市立高校の教員に対する退職勧奨が争われた事案です。この退職勧奨を違法とした高等裁判所の判断を、最高裁が上告棄却で維持しました(多数意見は理由を詳しく述べておらず、2名の裁判官の反対意見があります)。何回、何年を超えたら違法になる、という基準を示した判決ではありません。
公務員の事案ですが、勧め方を間違えれば違法になり得るという点は、民間でも同じように考えておいたほうが安全です。
本人が納得せず、話し合いが決裂した。あるいは、本人が「辞めるよう強要された」と訴えている。そうなったら、その先は弁護士の領域です。
解雇:法律の要件が厳しい
労働契約法16条の「2つの要件」
解雇について定めているのが、労働契約法16条です。
> 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。(労働契約法16条)
会社が「辞めさせる」と決めただけでは、解雇は認められません。問われるのは、次の2つです。
- 客観的に合理的な理由があるか
- 社会通念上相当といえるか
この両方が必要です。どちらか一方でも欠ければ、解雇は無効になります。
解雇予告と予告手当
解雇には、手続きのルールもあります。労働基準法20条1項では、解雇するなら少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を払うよう定めています。
予告と手当を組み合わせることもでき、平均賃金を払った日数分だけ予告の日数を短くできます(同条2項)。
20条1項ただし書が定める例外は、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合」と「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」です。能力不足や遅刻があるというだけで、この例外に当たるわけではありません。
このただし書で予告も手当もなしに解雇するには、行政官庁(所轄の労働基準監督署長)の認定を受けなければなりません(労働基準法20条3項・19条2項、労働基準法施行規則7条)。これとは別に、21条には解雇予告の規定が適用されない場合があります。
予告をしたり、手当を払ったりしても、それで解雇が有効になるわけではありません。 20条は手続きのルールで、解雇そのものが有効かどうかは16条で判断されます。さらに、業務上のけがや病気で療養のため休んでいる期間とその後30日間など、法律で解雇が禁じられている期間もあります(労働基準法19条1項)。
試用期間中でも同じ
「試用期間中なら辞めさせられるでしょ?」という相談もよく受けます。
でも、試用期間中だからといって、自由に辞めさせられるわけではありません。三菱樹脂事件(最高裁大法廷 昭和48年12月12日判決、昭和43(オ)932)を見てみます。最高裁は、試用期間の満了で本採用を拒否することを「留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり」と述べています。
そのうえで、留保解約権の行使は「客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」としました。通常の解雇より広い範囲で認められる余地はあるものの、会社の判断だけで自由に辞めさせていいわけではないんです。
また、試用期間中の者でも、14日を超えて引き続き使用されると、20条の解雇予告の規定が適用されます(労働基準法21条ただし書・4号)。最初の14日間なら自由に解雇できる、という意味ではありません。
試用期間の決め方については、部署で違う試用期間、統一と昇給の注意点でも書いています。
解雇を考える前に確かめること
| 確かめること | 見るもの |
|---|---|
| 今回の事実が就業規則の解雇事由に当たるか | 解雇事由の条文と、当たると判断する根拠の資料。懲戒解雇を考えるなら、懲戒の事由・処分の種類・定めた手続きも確かめる |
| 問題行動を具体的に伝えたか | 面談記録・指導の記録 |
| 改善の機会を与えたか | 面談の回数・期間・本人の反応 |
| 予告または予告手当の準備はあるか | 労働基準法20条の手続き |
| 法律で解雇が禁じられている期間ではないか | 労働基準法19条1項(原則として、業務上のけがや病気で療養のため休業する期間とその後30日間、産前産後の女性が同法65条により休業する期間とその後30日間) |
就業規則に書かれた事由に当たっても、それだけで解雇が有効になるわけではありません。
就業規則の解雇・懲戒の規定に不安があるなら、厚生労働省のモデル就業規則で懲戒・解雇トラブルは防げる?も参考にしてください。
「辞めて」ではなく「ここが問題です、直してください」とはっきり言う
ここまで見てきたように、退職勧奨も解雇も、会社の思いだけでは進められません。
辞めてもらいたいと思うのは構いません。ただ、最初から「どうやって辞めさせるか」で動き出すと、揉める火種になりやすいんです。
直接「辞めて」と言いにくいから、配置転換で外したり、給料を下げたりして、自分から辞めるように仕向ける。私は、こうした方法を勧めません。
自主退職になっても、後から「追い込まれて辞めさせられた」と主張されるおそれがあります。そのときのリスクのほうが大きいと、私は考えています。
本来、問題社員への対応は、「辞める・辞めない」から始める話ではないんですよね。
では、会社はどんな姿勢で本人に向き合えばいいのか。
「もう辞めさせたい」「面倒くさい」ではなく、「あなたのここが問題です。直してください」とはっきり言う。 この姿勢が大事です。
私は、会社の基本姿勢は「辞めてください」ではなく「直してください」だと考えています。遠回しに匂わせたり、黙って我慢したりせず、はっきり言う。理由は3つあります。
会社が困っているのは、問題が直らないこと
会社が本当に困っているのは、その人がいることではなく、問題が直らないことのはずです。遅刻やミス、周りとのトラブルが直れば、辞めてもらう理由もなくなることが多いはずです。
人を雇って給料を払っているのは、仕事をしてもらうためです。辞めてもらうためではありません。
「直して」なら、本人が自分の行動に目を向けられる
「辞めてください」と言われると、人は身構えがちです。自分の何が問題だったのかを考える前に、どう身を守るかを考え始めてしまうこともあります。
「あなたのこれは問題です。直してください」と言われれば、本人は自分の行動に目を向けられます。そうなれば、何を直せばいいのか、直すうえで何に困っているのかを、本人と一緒に話せます。
直らなかったときも、本人が納得して選べる
何が問題で、何を求められていて、どこが変わっていないのか。それを繰り返し伝えられてきた人なら、「このままここにいても、お互いのためにならない」と自分で考えられます。
そこまで伝えてきたからこそ、退職を勧められたときも、本人が納得して選びやすくなります。それでも、応じるか断るかを自由に決めるのは本人です。
解雇は本人の同意がなくてもできますが、法律の要件が厳しく、特に揉めやすい。だからこそ、辞めてもらうにしても、本人に納得して選んでもらうのがいちばんだと、私は思っています。
その出発点が、「あなたのここが問題です。直してください」とはっきり伝えることです。退職を勧めるとしても、応じるかどうかは本人が納得して選びます。

直してもらいたい、とちゃんと伝える
エピソードを挙げて伝える
最初にやるのは、何が問題なのかを本人に伝えることです。これは直属の上司、つまり管理職が担います。ただし、ハラスメントや不正の疑い、上司本人との対立など、上司が直接伝えられる状況でない場合は別です。
「ちゃんとして」「やる気を出して」では、何を直せばいいのかが伝わりにくいんです。いつ、どの場面で、何が起きたのか、具体的なエピソードを挙げて話します。会社や上司がその出来事をどう受け止めているかも伝えます。
問題行動への指導の進め方は、問題行動をとる社員への指導・対応についてでも書いています。
上長を入れて面談し、評価をすり合わせる
一対一で注意するだけでなく、上長を入れた面談の場も設けます。
ここで確かめるのは、本人の自己評価と会社の評価が、どこで食い違っているかです。本人は「ちゃんとやっている」と思っていることが多いんですよね。そのズレを、面談のたびに一つずつ埋めていきます。
記録を残す
面談のたびに、日付・伝えたこと・本人の反応・次に何を改善するかを記録しておきます。
記録を残すのは、本人を追い詰めるためではありません。会社が改善の機会を何度も示したという事実を残すためです。この積み重ねがなければ、16条の「合理的な理由」と「相当性」を説明するのは難しくなります。
直す気があるのかを確かめる
伝えても、面談を重ねても変わらない。そのときは、これまで伝えてきた問題のうち、何が改善されていないのかを、具体的な事実を挙げて示します。
そのうえで、「これまで伝えてきた○○が、今も直っていません。このままの状態を、会社として続けるわけにはいきません」と伝え、直す気があるのかを本人に確かめます。
直そうとしているのに追いつかないのか、それとも、そもそも直す気がないのか。この2つは分けて考えます。直そうとしているなら、何に困っているのかを聞き、伝え方や支え方を見直す余地があります。
中には、直す気がないという人もいます。そこがはっきりしたら、次の段階へ話を進めます。
直らないのに放置しない、黙認しない
揉めやすいのは、本人に何も言わず、我慢を続けてしまうケースです。
使えないと思っているのに、本人には伝えていない。そのまま何年も、場合によっては10年、20年たってから「もう辞めさせたい」と言い出す。
本人からすれば、何も言われてこなかったのに、ある日いきなり「辞めてくれ」です。これでは納得しにくいですし、解雇を考えても、合理的な理由や相当性を説明するのは難しくなります。
私は、黙っているのは、今のままでいいと伝えているのと同じだと思っています。
だから、直らないなら放置しない。黙認しない。
直す気がない、あるいは伝え続けても直らないなら、他の職場のほうが合うかもしれない、と率直に勧める。これが退職勧奨です。最後に選ぶのは本人です。
ただし、退職勧奨を断ったこと自体は、解雇の理由になりません。解雇できるかどうかは、もとの問題の中身と、これまでの指導の経過を踏まえ、16条の要件を満たすかで判断します。満たさなければ、雇用は続きます。
それでも、直してほしいと伝え続けてきた会社と、何年も黙ってきた会社とでは、話の通り方が違ってくると、私は思っています。
まとめ
- うまいこと辞めさせる、いい方法は、なかなかない。あるのは退職勧奨(合意)と解雇(一方的)だけ。ちゃんと話して納得してもらうことが大事
- 退職勧奨は本人の納得が前提。しつこく繰り返せば、強要と受け取られかねない
- 解雇は労働契約法16条の2つの要件がそろわなければ無効。予告をしたり手当を払ったりしても、それだけで有効になるわけではない
- 会社の基本姿勢は「辞めて」ではなく「あなたのここが問題です。直してください」とはっきり言うこと。退職勧奨に応じるかどうかは本人が納得して選ぶ
- 直してもらいたい、とちゃんと伝える
- 直らないのに放置しない、黙認しない
