部署で違う試用期間、統一と昇給の注意点

仕事術

部署によって試用期間の長さがバラバラな会社へ

営業は3か月、工場は6か月、パートは1か月。採用してきた経緯はバラバラでも、気づけば部署ごとに試用期間の長さが違う会社。

人事担当がひとりで、入社の都度「この部署は前からこうだから」で運用してきた会社に、心当たりはないでしょうか。

新しく人事を任された方が就業規則を見返して、「これ、統一していいのか」「昇給のタイミングまでズレていて説明がつかない」と困っているケースをよく見ます。

そんな会社に向けて、この記事を書いています。

部署ごとに試用期間の長さが違う会社の人事担当者のイメージ

結論:統一はできる。ただし「目的」を決めてからにする

先に結論を言います。部署ごとに違う試用期間を統一することは可能です。試用期間の長さは労働基準法に規定がなく、会社が就業規則や雇用契約で任意に定められるものだからです。

ただ、いきなり全部署を同じ日数に揃えるのはおすすめしません。統一する目的を先に決める必要があります。

コスト管理を優先するのか、社員間の公平感を優先するのか、部署ごとの業務特性による差を残すのか。目的があいまいなまま数字だけ揃えると、あとで「なぜこの日数になったのか」を説明できなくなるんですよね。

なぜ部署ごとに試用期間が違ってしまうのか

そもそも、なぜバラバラになるのか。背景を整理すると、たいてい理由は同じです。

現場ごとに採用を担当してきた人が違い、それぞれが自分の感覚で試用期間を決めてきたケース。中途採用と新卒採用で運用を分けたまま、統一を忘れているケースもあります。

M&Aや事業譲渡で複数の会社の就業規則が混ざったまま、放置されているケースも見かけます。

どのケースも、誰かが意図的に差別しようとしたわけではありません。ただ、日数がバラバラなまま何年も経つと、説明できる根拠はどんどん薄くなっていきます。何年も更新していない就業規則が、いざという時に効かない理由でも書きましたが、就業規則は作った時点から実態とのズレが始まるものなんですよね。

試用期間の法的な位置づけを、まず押さえる

統一を検討する前に、試用期間そのものの法的な扱いを確認しておきます。

試用期間中の労働契約は、判例上「解約権留保付労働契約」と位置づけられています(最高裁大法廷判決・昭和48年12月12日、三菱樹脂事件)。本採用を拒否することは通常の解雇より広い範囲で認められますが、無制限ではありません。

客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められなければ、労働契約法16条の解雇権濫用法理により無効になります。

労働基準法21条では、試用期間中の労働者について、雇入れの日から14日を超えて引き続き使用されるに至った場合、解雇予告(同法20条)の規定が適用されると定めています。入社14日以内であれば、この解雇予告(30日前の予告、または30日分以上の平均賃金の支払い)が不要になる余地があります。ただし、これは予告の手続きが省けるという意味にとどまり、解雇そのものが自由になるわけではありません。14日以内であっても、解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められ、それを欠けば解雇権の濫用として無効になり得ます。

ここで誤解しやすいのが、14日を超えたあとの扱いです。労働基準法21条によって通常どおりに戻るのは、あくまで解雇予告(20条)の手続だけです。14日を超えても、解雇そのものが通常の解雇と同じ枠組みで自由に判断できるようになるわけではありません。試用期間中の本採用拒否は、14日を経過した後も解約権留保付労働契約における留保解約権の行使として判断されます。通常の解雇より広い範囲が認められ得る一方で、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠けば、留保解約権の濫用として無効になります。つまり「14日を超えれば通常の解雇と同じ」になるのは予告の手続の部分だけで、本採用を拒否できるかどうかの判断そのものは、試用期間ならではの枠組みで見られ続けると理解しておくのが正確です。

試用期間の長さそのものに法律上の上限はありませんが、合理的な範囲を超える長期の試用期間は、公序良俗に反して無効と判断される可能性があります。実務上は3か月から6か月程度に収める会社が多い印象です。

部署ごとにバラバラなまま放置すると起きる失敗

顧問先を見ていて、実際によく出会う失敗を挙げます。

  • 就業規則と個別契約が食い違っている:試用期間そのものは労働基準法89条の絶対的必要記載事項ではないため、部署ごとの条件を労働条件通知書や個別の雇用契約で定める運用自体は可能です。問題になるのは、就業規則本体の定めと個別契約の内容が食い違っている場合や、労働条件通知書での明示が不足している場合です。ここで「どちらが優先されるのか」で終わらせないことが大切です。労働契約法12条により、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める個別の労働契約は、その部分が無効となり、無効となった部分は就業規則の基準による、と定められています。個別契約で就業規則を下回る内容を約束していても、その部分は効かず、就業規則の水準まで引き上げられるということです。逆に、個別契約が就業規則を上回る内容なら、その有利な条件は有効です。就業規則より不利な個別合意は火種になりやすい、という順序で理解しておくと整理しやすくなります
  • 根拠を説明できない:なぜこの部署だけ6か月なのか、聞かれても「昔からそうだから」としか答えられない
  • 試用期間中の給与差を通知していない:試用期間中の給与を本採用後より下げているのに、労働条件通知書にその旨を明記していない(労働基準法15条違反のリスク)
  • 本採用の判定を記録していない:試用期間が終わるタイミングを管理しておらず、適性評価をしないまま自動的に本採用扱いになってしまう
  • 昇給の起点がバラバラで説明できない:試用期間終了後に最初の昇給を行う運用の会社で、部署によって昇給の時期が数か月単位でズレ、社員間で不公平感が生まれる

特に最後の昇給のタイミングは見落とされがちです。試用期間の長さがそのまま最初の昇給までの期間になっている会社ほど、統一のインパクトが大きくなります。

部署ごとに昇給のタイミングがずれている会社のイメージ

統一するときの判断軸

統一を進めるときは、次の軸で考えると整理しやすくなります。

判断軸確認すること
目的コスト管理・公平感・業務特性のどれを優先するか
残してよい差職種による評価期間の違いなど、合理的に説明できる差か
手続き就業規則変更の意見聴取(労働基準法90条)・周知(同法106条)を踏んでいるか。常時10人以上の労働者を使用する事業場は、変更後の就業規則を労働基準監督署へ届け出る(同法89条)必要がある
既存社員への影響試用期間中や試用期間直後の社員に、不利益変更にあたる扱いをしていないか
昇給スケジュールとの整合統一後の試用期間終了日と、昇給・給与改定の時期が矛盾していないか

とくに既存社員への影響は慎重に見てください。すでに試用期間中の社員の期間を後から延ばすような変更は、不利益変更として無効になるリスクがあります。統一は、新たに入社する社員から適用するのが基本の考え方です。

自社に合った就業規則を作るには? 中小企業が知るべき注意点とは?でも書きましたが、就業規則は他社のひな形をそのまま使うより、自社の実態に合わせて条文を組み直したほうが、あとあとの説明がしやすくなります。

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私たちの「オマカセロウムくん」は、就業規則の見直しから給与規程との整合、日々の給与計算までを外付けの人事部としてまとめて引き受けるサービスです。

部署ごとにバラバラな試用期間の統一は、単に日数を揃える話ではなく、就業規則の条文修正、労働条件通知書のひな形修正、昇給時期のルール整理までワンセットで進める必要があります。ここを個別に直していくと、どこかで矛盾が残るんですよね。厚生労働省のモデル就業規則をそのまま使って大丈夫?本当に会社を守る”運用できる規則”の作り方でも触れましたが、条文はつぎはぎにするほど整合性が崩れていきます。

日々の給与計算や昇給の管理には、freee人事労務のようなクラウドサービスも実務で役立ちます。試用期間終了日をシステムで管理できれば、昇給タイミングの見落としを防ぎやすくなります。

こういう選択肢もある、という温度でお伝えしています。

まとめ

  • 試用期間の長さは労働基準法に規定がなく、会社が就業規則で任意に定められる。統一自体は可能
  • 本採用拒否は解約権留保付労働契約の解約であり、労働契約法16条の解雇権濫用法理の規制を受ける(三菱樹脂事件・最高裁大法廷判決昭和48年12月12日)
  • 労働基準法21条により、入社14日を超えると解雇予告の規定が適用される。ただし14日を超えて通常の解雇と同じ扱いになるのは解雇予告(20条)の手続だけで、本採用拒否そのものは14日経過後も留保解約権の行使として判断され、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められる。14日以内も予告の手続きが省ける余地があるだけで、解雇理由の合理性・社会通念上の相当性まで不要になるわけではない
  • よくある失敗は、就業規則と個別契約の食い違いや労働条件の明示不足・根拠の説明不能・給与差の未通知・本採用判定の記録漏れ・昇給時期のズレ。試用期間は89条の絶対的必要記載事項ではないため、個別契約で定める運用自体は可能だが、就業規則との整合と明示が要る。就業規則の基準を下回る個別契約は、その部分が無効となり就業規則の基準による(労働契約法12条)ため、「どちらが優先か」ではなく就業規則を下回る合意は効かない、と押さえる
  • 統一する際は目的・残してよい差・就業規則変更の手続き・既存社員への影響・昇給スケジュールとの整合の5点で判断する
  • 就業規則を変更する手続きのうち、労働基準監督署への届出(労働基準法89条)は常時10人以上を使用する事業場が対象。10人未満の事業場に届出義務はないが、定めた内容を書面で明確にし、社員へ周知しておく

部署ごとの試用期間、一度棚卸ししてみると、思ったより古い理由で残っていることが多いです。

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