入社時に渡し忘れがちな書類|労働条件通知書の落とし穴

仕事術

入社時、口頭説明だけで済ませていませんか

従業員10〜30人くらいで、採用から入社手続きまで社長か人事担当ひとりで回している会社。面接で条件をひと通り話して、初出勤の日に「よろしくね」で現場に入ってもらう。そんな流れになっていないでしょうか。

私は顧問先を回っていて、「労働条件通知書、実は口頭で説明しただけで書面は渡していません」という声をよく聞きます。悪気があるわけではなく、採用から初出勤までのバタバタで、書類整備がどうしても後回しになるんですよね。

労働条件通知書を渡さないまま入社日を迎える中小企業のイメージ

ただ、この「口頭で済ませる」運用は、労働基準法上はっきりNGとされています。しかも2024年4月の改正で明示すべき項目が増えているので、数年前に作ったテンプレートのままだと、それ自体が漏れの原因になっている可能性もあります。

結論:労働条件通知書は「作って終わり」ではなく「渡した記録」まで仕組み化する

先に結論を言うと、労働条件通知書は①最新の明示事項が入ったテンプレートを用意する、②遅くとも労働契約を結ぶときまでに書面(または本人が希望する電子的方法)で交付する、③交付した記録を残す、の3点を仕組みにしてしまうのが一番確実です。

「毎回きちんと作る」という個人の注意力に頼ると、忙しい採用シーズンに必ず抜けが出ます。テンプレートと交付のタイミングをあらかじめ決めておけば、担当者が変わっても同じ品質で回せます。

労働条件通知書とは何か、雇用契約書とどう違うか

労働基準法第15条第1項は、労働契約を結ぶ際に、賃金・労働時間その他厚生労働省令で定める事項を労働者に明示しなければならないと定めています。これに基づいて交付する書面が労働条件通知書です。

絶対的明示事項として、契約期間、就業の場所・従事する業務、始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩・休日・休暇、賃金の決定・計算・支払方法や締切・支払時期、退職に関する事項(解雇事由を含む)などがあります。これらは書面での交付が原則で、労働者が希望した場合に限りFAXやSNS・メールなど電子的方法での明示も認められています。

2023年3月の労働基準法施行規則改正により、2024年4月1日からは、就業の場所・業務の「変更の範囲」の明示が全労働者に追加されました。有期契約の労働者には、契約の締結時と更新時に更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無とその内容を明示することが加わります。さらに、無期転換申込権が発生する更新のタイミング以降は、更新のたびに、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)と、無期転換した後の労働条件も明示しなければなりません。これらは有期契約者に一律で発生するのではなく、発生するタイミングがそれぞれ決まっている点に注意が必要です。数年前に作ったテンプレートのままだと、この追加分がまるごと抜けている可能性があります。

よく混同されるのが雇用契約書との違いです。労働条件通知書は会社から労働者への一方的な明示義務であるのに対し、雇用契約書は双方が合意した契約内容を示す書面です。実務では両方の要素を1枚にまとめた「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の様式を使う会社が多く、これなら明示義務と契約の合意確認を一度に済ませられます。この違いは雇用契約とは何なのかでも詳しく整理しています。

労働条件通知書まわりでよくある5つの失敗

実際の相談でよく見る失敗を挙げます。

  • 口頭説明だけで書面を渡していない:面接や初出勤日に条件を話しただけで満足してしまい、書面(または本人希望の電子的方法)での交付が抜けている
  • 交付が契約締結より後になる:初出勤から数週間経ってから慌てて作成・交付している。労働契約締結の際に明示する義務なので、本来は遅くとも労働契約を結ぶときまでに渡すべき
  • 2024年4月の改正分を反映していない古いテンプレートを使い続けている:「就業の場所・業務の変更の範囲」や、有期契約者向けの更新上限(締結時・更新時)、無期転換申込権が発生する更新時以降に必要となる無期転換関連の項目が抜けたまま
  • 固定残業代の内容が曖昧なまま明示している:基本給と固定残業代の内訳、対象時間数を書かずに「残業代込み」とだけ書いてしまい、後から未払い扱いを指摘されるケースにつながる。固定残業代の実務は固定残業代を払っているのに「未払い」と言われる理由で詳しく解説しています
  • 交付した記録が残っていない:渡したこと自体は事実でも、受領のサインや控えが手元になく、後になって「聞いていない」と言われたときに証明する材料がない

こうした失敗の共通点は、採用の勢いに押されて「渡すこと」自体が後回しになる点です。

何を・いつ・どう渡すか、判断軸

労働条件通知書の運用を整理する軸を表にまとめました。

確認ポイント見るもの気づくこと
テンプレートの鮮度使っている様式の作成・更新年2024年4月の改正項目が反映されているか
交付のタイミング契約締結日と交付日の前後関係遅くとも労働契約を結ぶときまでに渡せているか
交付の方法書面か、本人希望の電子的方法か本人の希望を確認せず一方的にメール送付していないか
記録の有無受領サイン・控え・送信履歴「渡した」ことを後から証明できるか
有期契約者への追加項目更新上限(締結時・更新時)/無期転換関連(無期転換申込権が発生する更新時以降)の記載それぞれ発生するタイミングで明示できているか

労働基準法第15条1項に違反すると、同法第120条第1号により30万円以下の罰金の対象になります。懲役や禁錮ではなく罰金ですが、それでも法違反であることに変わりはなく、社員との信頼関係にも直結する話です。

なお、パートタイム・有期雇用労働者については2026年10月に追加の改正が予定されています。相談窓口の明示は現行でも雇入れ時の明示事項ですが、改正後は、この既存の相談窓口の明示に加えて、正社員との待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨も明示することが必要になる見込みです。文書交付による明示義務に違反すると10万円以下の過料の対象になり得ます。パート・有期契約者を雇っている会社は、この施行に向けてテンプレートの見直しを早めに済ませておくと安心です。

オマカセロウムくんなら、渡し忘れをそもそも起こしません

私たちが提供している「オマカセロウムくん」では、入社手続きの中に労働条件通知書の作成・交付・記録までを組み込んでいます。担当者が「今回の様式で合っているか」を都度悩む必要がなく、法改正があった時点でテンプレート自体を最新化するので、渡し忘れも記載漏れも起こりにくくなります。

日々の入社手続きをクラウドで一元管理したい場合は、freee人事労務のように労働条件通知書の作成から本人への電子交付まで一気通貫でできるシステムを使う方法もあります。実際に使う立場から本音で書いたfreee人事労務があれば社労士はいらないのかも参考にしてみてください。就業規則そのものが古くなっていないかも合わせて気になる場合は、何年も更新していない就業規則が、いざという時に効かない理由もご覧ください。

まとめ:労働条件通知書は「契約締結時までに渡す」を仕組み化する

労働条件通知書は口頭説明では済まされない、労働基準法第15条第1項に基づく明示義務です。

  • 絶対的明示事項は書面(または本人希望の電子的方法)での交付が原則。2024年4月1日の改正で「就業場所・業務の変更の範囲」などが全労働者に追加された
  • 有期契約者には、締結時・更新時に更新上限が、無期転換申込権が発生する更新時以降に無期転換申込機会・無期転換後の労働条件が、それぞれ発生するタイミングで明示事項として加わる
  • 違反すると労働基準法第120条第1号により30万円以下の罰金の対象になる
  • 2026年10月には、パート・有期契約者向けに、既存の相談窓口の明示に加えて、待遇差の内容・理由等について説明を求めることができる旨の明示が追加される見込み
  • テンプレートの鮮度・交付のタイミング・交付記録の3点を仕組み化しておけば、担当者が変わっても抜け漏れが起きにくい

入社手続きのどこかで「これ、ちゃんとできているんだっけ」と気になっている方は、一度整理してみませんか。

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