退職した社員から残業代請求が来た会社へ
従業員10〜50人くらいで、人事担当が専任ではなく、総務や社長が労務対応も兼ねている会社。
辞めてしばらく経った元社員から、突然「残業代を払ってほしい」という連絡が来た。あるいは労働基準監督署から「〇〇さんの件で」と電話が入った。
何から手をつければいいのか分からず、とりあえず様子を見てしまっている。
そんな状態の方に向けて、この記事を書いています。

結論:無視も即時全額支払いも、どちらも危うい
先に結論を言います。退職者からの残業代請求は、無視してやり過ごせるものではありません。かといって、言われた金額をそのまま払う必要もありません。
まずやるべきは、請求されている期間と金額を、自社の記録と照らして事実確認することです。
労働時間の記録があるかどうかで、会社側の説明力はまったく変わります。記録がなければ本人の主張がそのまま通りやすくなりますし、記録があれば請求額が正しいかどうかを冷静に検証できます。
感情的に「辞めた腹いせだろう」と決めつける前に、まず数字で確認する。これがいちばん大事な初動です。
退職者からの残業代請求で、実際によく起きる失敗
顧問先を見ていて、実際によく出会う失敗を挙げます。
- 感情的に無視してしまう:退職の経緯に不満があると、請求そのものを軽く扱ってしまい、対応が後手に回る
- 労働時間の記録がなく、水掛け論になる:タイムカードや打刻記録がないと、本人の自己申告(手帳やスマホのメモ)がそのまま証拠として扱われやすい
- 時効の計算を誤る:どこまで遡って支払う義務があるのか把握しないまま、請求された金額を丸ごと払ってしまう、あるいは逆に時効を主張すべきタイミングを逃す
- 労基署対応と本人への直接対応を混同する:労基署は是正勧告はできても、会社に代わって本人へ支払いを行うわけではないのに、労基署が解決してくれると思い込んでしまう
- 社労士や弁護士に相談せず自己判断で回答する:メールや電話でその場しのぎの返事をしてしまい、後から前言撤回できなくなる
こうした失敗の多くは、日頃の勤怠記録の甘さと、請求が来たときの初動の遅さから生まれています。
固定残業代を払っているのに「未払い」と言われる理由でも書きましたが、そもそも固定残業代の設計や運用に穴があると、請求されたときに反論しづらくなります。
請求にどう向き合うか。判断軸はここ
請求が来たら、次の軸で状況を整理してみてください。
| 確認ポイント | 見るもの | 気づくこと |
|---|---|---|
| 請求の窓口 | 本人からの直接請求か、労基署経由か、弁護士名の内容証明か | 対応の緊急度と、答え方の丁寧さが変わる |
| 労働時間の記録 | タイムカード・PCログ・入退室記録の有無 | 会社側で反論できる材料があるか |
| 請求の期間 | 請求されている期間の起算日 | 時効にかかっている部分がないか |
| 固定残業代の設計 | 何時間分をみなしているか、就業規則に明記があるか | 差額を計算する土台があるか |
| 社内の相談先 | 顧問社労士・弁護士に相談済みか | 自己判断で回答していないか |
労基署から連絡が来た場合、まずは調査(臨検監督)の対象になっているのか、それとも申告内容の事実確認の段階なのかを確認してください。是正勧告が出ても、報告期限までに1か月程度の猶予があることが一般的です。慌てて即答する必要はありません。
退職者ともめない最後の給与と有給消化の進め方でも触れましたが、退職時にきちんと清算できていない会社ほど、後からの請求トラブルに発展しやすいんですよね。
賃金請求権の時効と労基署対応、法律ではこう決まっている
請求への対応を考える前に、押さえておきたい法律上のルールがあります。
まず、賃金請求権の消滅時効です。労働基準法115条により、賃金(残業代を含む)の請求権は本来5年で時効になりますが、附則143条3項の経過措置により、当分の間は3年とされています。2020年4月1日以降に支払期日が来た賃金が対象で、起算点は各賃金の支払日です。つまり、請求書に書かれた金額をそのまま払う前に、3年より前の分が含まれていないかを確認する必要があります。
次に、付加金です。労働基準法114条では、割増賃金(残業代)などの未払いがあった場合、裁判所が未払額と同額の付加金の支払いを命じることができるとされています。この請求ができる期間も、附則143条2項の経過措置により当分の間3年です。付加金は裁判になった場合の話であり、労基署の是正勧告の段階では発生しません。
賃金台帳の作成義務(労働基準法108条)と記録の保存義務(同法109条、原則5年・附則143条1項の経過措置で当分の間3年)に違反すると、同法120条により30万円以下の罰金の対象になります。また、割増賃金の未払い(同法37条違反)には、同法119条により6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています。「給与明細の控除がおかしい」と言われたときの確認手順でも書きましたが、賃金台帳がきちんと整っているかどうかは、こうした請求への対応力に直結します。
オマカセロウムくんなら、証拠づくりと対応をまとめて支えられる
私たちの「オマカセロウムくん」では、勤怠データと給与計算をひとつながりで管理し、残業時間の根拠をいつでも遡って提示できる状態を作ります。
請求が来てから記録を探すのではなく、日頃から労働時間・固定残業代の設計・賃金台帳が整っている状態を保っておくことが、いちばんの備えです。実際に請求が来てしまった場合の初動整理や、労基署とのやり取りの進め方についても、顧問先には都度ご相談いただいています。
打刻や記録がまだExcelや紙ベースという会社には、freee人事労務のようなクラウドサービスもよく勧めています。勤怠と給与計算がつながっているぶん、あとから「この日の残業代はどう計算したか」を追いやすくなるからです。
対応そのものを丸ごと引き受けるというより、請求が来たときに慌てずに済む土台を、普段から一緒に整えておくイメージです。

まとめ:退職後の請求は「記録」と「切り分け」で決まる
- 退職者からの残業代請求は、無視も即時全額支払いも危うい。まず請求内容を自社の記録と照らして事実確認する
- よくある失敗は、感情的な無視、記録不足による水掛け論、時効計算の誤り、労基署対応と本人対応の混同、自己判断での回答
- 判断軸は、請求の窓口・労働時間の記録・請求期間・固定残業代の設計・相談先の5点
- 賃金請求権の消滅時効は労働基準法115条(原則5年、附則143条3項の経過措置で当分の間3年)。付加金は114条(附則143条2項で当分の間3年)。賃金台帳(108条)・記録保存(109条、附則143条1項で当分の間3年)違反は120条により30万円以下の罰金、割増賃金未払い(37条違反)は119条により6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
- 備えは、請求が来てからでなく、日頃の勤怠記録と固定残業代の設計を整えておくこと
請求書や労基署からの連絡を前に、まず何を確認すればいいか。一度、今の記録の状態を点検してみてもらえたらと思います。
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