毎月「所定168時間」で残業を出していませんか
1か月単位の変形労働時間制を導入している会社で、給与ソフトの所定労働時間が毎月168時間のままになっていることがあります。
168時間と置くこと自体が悪いわけではありません。30日・31日の月なら総枠(171.4時間・177.1時間)の内側で、シフトの所定の合計がちょうど168時間なら、それがその月の所定です。ずれるのは、168時間がその月の総枠やシフトの所定の合計と合わない月です。たとえば28日の月は総枠が160時間です。給与ソフトが「実労働-168時間」だけを残業にしていると、本来は残業になる時間が漏れます。何時間漏れるかは実際に働いた時間と3段階の判定で決まり、後の計算例では6時間です。なお、28日の月にシフトそのものを168時間で組むと、期間を平均して週40時間以内という要件(労働基準法32条の2)を満たしません。
もう1つの問題は、実労働時間から月の所定を引いた残りだけを残業として払うやり方です。残業に当たるかどうかは月の合計だけでは決まらず、1日・1週・対象期間の3段階で判定します。
この記事は、従業員10〜50人で、変形労働時間制を使っている会社の社長や給与担当の方に向けて書きました。導入後の残業の判定と計算に絞って説明します。

結論:所定は「あらかじめ決めた日ごとの時間」で、3段階で見る
変形労働時間制で残業(法定時間外労働)になるのは、次の3つです(昭和63年1月1日基発第1号・婦発第1号)。
| 段階 | 時間外労働になる時間 |
|---|---|
| 1日 | 8時間を超える時間を定めた日はその時間を、それ以外の日は8時間を超えて働いた時間 |
| 1週 | 40時間を超える時間を定めた週はその時間を、それ以外の週は40時間を超えて働いた時間(1日で数えた分を除く) |
| 対象期間 | 期間の法定労働時間の総枠を超えて働いた時間(1日・1週で数えた分を除く) |
法定休日(労働基準法35条)に働いた時間は休日労働で、割増率は35%以上です(37条1項・割増率の政令)。時間外とは分けて集計します。
判定で確認するのは、「あらかじめ定めた所定労働時間」です。法定の8時間・40時間を一律の基準にしたり、月の固定値だけを使ったりすると、計算がずれます。
1か月を超え1年以内の期間で組む1年単位の変形労働時間制も、同じ3段階で判定します(厚生労働省Q&A)。こちらは、対象期間と、その中の労働日・日ごとの時間を労使協定で定めます(32条の4第1項)。対象期間を1か月以上の区分に分ける方法もあります。その場合、協定では最初の区分の労働日と日ごとの時間に加えて、後の区分ごとの労働日数と総労働時間を先に決めておきます(同項4号)。後の区分の具体的な労働日と日ごとの時間は、その範囲内で、各区分の初日の30日前までに過半数労働組合等の同意を得て、書面で定めます(同条2項、施行規則12条の4第2項)。
なお、常時10人未満の商業・映画演劇業(映画の製作の事業を除く)・保健衛生業・接客娯楽業は特例措置対象事業場として、1か月単位の場合は週44時間で判定します(労働基準法施行規則25条の2第2項)。ただし、1年単位の変形労働時間制には、この44時間の特例は適用されません(同条4項)。
変形労働時間制の仕組みを3行で
1か月単位は労働基準法32条の2、1年単位は32条の4に定めがあります。
どちらも、期間を平均して週40時間以内に収まるよう、日ごと・週ごとの労働時間を前もって決める制度です。決めた日・週に限り、その時間までは8時間・40時間を超えても法定時間外になりません。
期間の総枠は「40時間×期間の暦日数÷7」で計算します。1か月単位なら、28日の月は160.0時間、30日の月は171.4時間、31日の月は177.1時間です(厚生労働省リーフレット。小数第2位以下は切り捨て)。171.4・177.1は表示上の値で、判定は「40×暦日数÷7」の値そのもので行います。
期間の起算日も、就業規則や協定で明らかにしておく必要があります(労働基準法施行規則12条の2第1項。1か月単位・1年単位とも)。1年単位は、対象期間そのものも労使協定で定めます(32条の4第1項2号)。
よくある取り違え3つ
1. 法定の8時間・40時間で一律に判定する
変形労働時間制を導入していても、毎日「8時間を超えた分」、毎週「40時間を超えた分」を残業として数えていることがあります。
所定10時間の日は、10時間まで働いても1日の段階では残業になりません。また、所定6時間の日に8時間働いた場合、所定を超えた2時間は、その日の段階では残業にならず、週や期間の段階で時間外に当たることがあります。どの段階でも時間外にならなかった場合も、その2時間分の賃金が月給などに含まれていなければ、通常の賃金を払います。払うべき賃金は全額払いが原則です(労働基準法24条1項)。
8時間・40時間で一律に数えると、変形労働時間制を計算に反映できず、法定どおりの額より多く払いがちです。賃金規程でそう払うと決めていれば、それは必要な支払いです。
2. 総枠とずれた固定値で、合計の差だけを出す
冒頭の「毎月168時間」がこの例です。28日の月に168時間を基準にすると、実労働のうち総枠160時間を超えて168時間までの分は、残業として数えられません。給与ソフトの所定は、月ごとにその月のシフトの合計と総枠を見て入れ直します。
さらに、1日・1週の判定を飛ばすため、特定の日に長く働いた分も月の合計に埋もれ、払い漏れが生じます。
3. 後から変えたシフトの時間で判定する
厚生労働省の通達は、変形期間の各日・各週の労働時間を具体的に定めることを求めています。使用者が業務の都合で任意に労働時間を変更するような制度は、変形労働時間制に当たらないとしています(昭和63年1月1日基発第1号・婦発第1号)。
たとえば当日に「今日は8時間の予定を10時間に延ばしてほしい」と伝え、その10時間を所定として扱うと、延びた2時間が1日の判定から漏れます。同じ月にほかの週で早退があり、実労働の合計が総枠に収まっていれば、週・期間の判定でも拾えず、2時間がそのまま払い漏れになります。判定には、前もって決めたシフトを使います。
計算例:28日の月で通しで見る
1日が月曜日で始まる2月(28日間)を変形期間とする、1か月単位の例で見てみます。数字は架空のものです。
【前提】
- 月給30万円(割増賃金の基礎額に入る手当はなし)
- 1年間の月平均所定労働時間170時間
- 期間の総枠:40×28÷7=160時間
- 所定:第1週42時間(月火水10時間・木金6時間)、第2週38時間(月〜木8時間・金6時間)、第3週・第4週は各40時間(月〜金8時間)。合計160時間
【実際に働いた時間(所定と違った日だけ)】
| 日 | 所定 | 実労働 |
|---|---|---|
| 第1週 月 | 10時間 | 11時間 |
| 第1週 木 | 6時間 | 8時間 |
| 第2週 金 | 6時間 | 8時間 |
| 第3週 火 | 8時間 | 9時間 |
実労働の合計は166時間です。

3段階で判定する
| 段階 | 判定 | 時間外 |
|---|---|---|
| 1日 | 第1週月:所定10時間を超えた1時間。第3週火:8時間を超えた1時間。第1週木・第2週金は8時間以内 | 2時間 |
| 1週 | 第1週:実労働45時間-所定42時間=3時間、うち1日で数えた1時間を除く。第2週は40時間、第3週は1日で数えた分を除くと40時間 | 2時間 |
| 対象期間 | 166時間-総枠160時間=6時間、うち1日・1週で数えた4時間を除く | 2時間 |
時間外労働は合計6時間です。第2週金曜の2時間は、1日・1週の判定では時間外に当たらず、期間の段階で時間外になります。
割増賃金を出す
月によって所定労働時間が違う場合、月給の1時間あたりの額は、1年間の月平均所定労働時間で割って求めます(労働基準法施行規則19条1項4号)。ここで、その月の所定(今回なら160時間)を使わないよう注意が必要です。
- 1時間あたりの額:300,000÷170=1,764.70…円 → 1,765円
- 割増後の1時間あたりの額:1,765×1.25=2,206.25円 → 2,206円
- 時間外6時間分:2,206×6=13,236円
端数は、1時間あたりの賃金額・割増賃金額の円未満を、50銭未満切り捨て・50銭以上切り上げ(四捨五入)で処理しています(昭和63年3月14日基発第150号)。割増率25%は、労働基準法37条1項と割増賃金率の最低限度を定める政令によります。
取り違えたときとの比較
| 判定のしかた | 時間外 | 割増賃金 | 法定どおりの額との差 |
|---|---|---|---|
| 正しい3段階 | 6時間 | 13,236円 | - |
| 法定の8時間・40時間で一律 | 8時間 | 17,648円 | 4,412円多い |
| 所定168時間の固定値(28日の月) | 0時間 | 0円 | 13,236円の払い漏れ |
この月は実労働の合計が総枠を6時間上回っているため、第2週金を後から8時間に書き換えても、期間の段階で拾われて時間外は6時間のままです。
一律判定の8時間は、第1週の月火水で2時間ずつと第1週月の超過1時間、第3週火の1時間を足したものです。どの週も、1日で数えた分を除くと40時間以内に収まります。
168時間の払い漏れは、1人・1か月で13,236円です。人数と月数が重なると、退職後の請求でまとめて表に出ます。退職者から請求を受けた際の初動については、退職者の残業代請求、労基署対応の初動チェックで書きました。
自社の計算を確かめる4つの軸
給与ソフトの所定がその月のシフトと合っているか
1か月単位では、給与ソフトの月の所定が、その月のシフトの所定の合計と一致し、暦日数で変わる総枠を超えていないかを確認します。毎月同じ数字でも誤りとは限りませんが、28日の月のように総枠が小さい月はずれやすくなります。
1年単位は、総枠を対象期間全体で見ます。月ごとの値ではなく、対象期間の合計と協定の内容で確かめます。
日ごとの所定が残っているか
1日・1週の判定には、前もって決めた日ごとの所定労働時間が必要です。勤怠システムで当日のシフトを上書きしたときに、元の所定が消える設定になっていないかも確かめてください。
割増の単価の分母が年平均か
月によって所定が違う月給者の単価は、1年間の月平均所定労働時間で割って求めます。月ごとの所定で割ると、所定の少ない月は単価が上がり、多い月は下がります。
2月だけで計算すると、300,000÷160×1.25で2,344円になり、正しい2,206円とずれます。
所定労働時間そのものを見直したときは、固定残業代の時間数も影響を受けます。この点は所定労働時間を変えたら固定残業代も要見直しで取り上げています。
途中入社・退職の清算をしているか
1年単位の変形労働時間制では、対象期間の途中で入社・退職した人について、働いた期間を平均して週40時間を超えた分に割増賃金を払います(労働基準法32条の4の2)。すでに時間外・休日労働として扱った時間は除きます。
期間の途中で退職すると、繁忙期だけ働いた状態になりやすいため、最終給与の計算時に確認が必要です。

残業の判定とあわせて見ておきたいこと
時間外労働をさせるには、災害等で臨時の必要がある場合(労働基準法33条)を除き、36協定の締結と届出が必要です。変形労働時間制を導入している会社も変わりません。厚生労働省のQ&Aでも、3段階で時間外となった時間について、36協定の締結・届出と割増賃金の支払いが必要とされています。
深夜(午後10時〜午前5時)の割増は、変形労働時間制を使っているかどうかにかかわらず、別に付きます(労働基準法37条4項)。深夜割増の払い漏れについては、残業代は払っても、深夜割増だけ漏れていないかにまとめています。
まとめ
- 変形労働時間制の残業は、1日・1週・対象期間の3段階で判定する
- 判定の物差しは、前もって決めた日ごと・週ごとの所定労働時間
- 期間の総枠は「40時間×暦日数÷7」。28日の月は160時間、31日の月は177.1時間
- 当日に延ばしたシフトを所定として扱わない
- 月によって所定が違う月給者は、割増賃金の基礎となる月給を1年間の月平均所定労働時間で割って、1時間あたりの額を出す
まずは給与ソフトを開き、先月分の給与計算で「月の所定が何時間になっていたか」を確認してみてください。
【出典】
- 労働基準法(24条・32条の2・32条の4・32条の4の2・33条・35条・37条) https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 労働基準法施行規則(12条の2・12条の4・19条・25条の2) https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023
- 労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令 https://laws.e-gov.go.jp/law/406CO0000000005
- 改正労働基準法の施行について(昭和63年1月1日基発第1号・婦発第1号) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb1899&dataType=1&pageNo=1
- 厚生労働省 1か月単位の変形労働時間制(リーフレット) https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-2.pdf
- 厚生労働省 変形労働時間制(1か月を超え1年以内)Q&A https://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/faq_03.html
- 愛知労働局 賃金計算の端数の取扱い(昭和63年3月14日基発第150号) https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/var/rev0/0119/6636/hasuutoriatukai.pdf
