就業規則を変えたのに、届出は済んでいませんか
就業規則の内容を見直した経営者から、こんな相談をよく受けます。「規程は書き換えたけれど、そのあとの手続きが分からない」。給与の決め方を変えた、休暇のルールを直した、副業のルールを追加した。中身の見直しは終わっているのに、労働基準監督署への届出や社内への周知は手つかずのまま、という会社が実は少なくありません。
人事担当者を専任で置いていない会社ほど、この「変更したあとの手続き」が漏れがちです。規則の中身を考える作業に力を使い切ってしまい、届出は「あとで」に回され、そのまま忘れられてしまう。悪気があるわけではなく、単に手続きの全体像を知らないだけ、というケースがほとんどです。
なぜ就業規則の見直しが必要かについては、以前何年も更新していない就業規則が、いざという時に効かない理由という記事で書きました。今回はその先、「変更したあとの届出手続き」に絞って、実務の流れをまとめます。
結論:意見聴取・意見書・届出・周知の4点セットが必要
先に結論を書きます。常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成したときだけでなく、変更したときも、労働基準法89条に基づいて所轄の労働基準監督署へ届出をする義務があります。
届出をするときは、労働基準法90条により、労働者の過半数で組織する労働組合(無ければ労働者の過半数を代表する者)から意見を聴かなければなりません。そのうえで、聴いた意見を記した書面、いわゆる意見書を添付する必要があります(同条2項)。さらに、届出をすれば終わりではなく、労働基準法106条に基づいて、変更後の内容を従業員に周知させる義務があります。
意見聴取、意見書の作成、労基署への届出、周知。この4つがそろって、はじめて就業規則の変更手続きは完了します。どれか1つが抜けても、手続きとしては未完了のままです。
この一連の手続きは、普段の業務では意識しづらいものです。ただ、労働基準監督署の定期的な調査(臨検)が入ったときや、助成金を申請するときに、就業規則の届出状況を確認されることがあります。「規則の中身は変えたが、届出をした記録が残っていない」状態は、そうした場面で初めて表面化しがちです。日常のうちに整えておく方が、結果として手間が少なく済みます。
変更届でよくある3つの失敗
相談を受ける中で、同じパターンの不備に繰り返し出会います。代表的な3つを挙げます。
- 意見書の添付漏れ。労働者代表から意見を聴いたこと自体は事実でも、それを書面に残していない、あるいは書面はあるのに労基署への届出時に添付し忘れている、というケースです。意見書には、代表者の氏名と意見の内容を記載する必要があります(労働基準法施行規則49条2項)。
- 周知が後回しになる。届出さえ済ませれば手続きは終わり、と考えている会社が意外と多いです。しかし、就業規則は労働者に周知させる手続きが取られていなければ法的な拘束力を持たない、という最高裁の判断があります(フジ興産事件、最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決)。周知していない規則は、変更した意味そのものが失われかねません。
- 「うちは10人未満だから関係ない」という油断。常時10人以上でなければ届出義務は生じませんが、この10人は事業場単位で数え、パートやアルバイトも含みます。今は9人でも、増員で10人を超えた時点で義務が生じます。任意で就業規則を作っている会社でも、周知させるという考え方自体は変わりません。
手続きの流れ:意見聴取から周知までの5ステップ
実際の手続きは、次の順番で進めます。
- 変更内容を確定し、新旧対照表を作る。どの条文をどう変えたかが一目でわかる新旧対照表を用意しておくと、意見聴取のときも労基署への説明のときも話が早くなります。
- 労働者代表から意見を聴く。労働組合が無い会社では、労働者の過半数を代表する者を選ぶ必要があります。管理監督者を代表にする、社長が一方的に指名する、といった選び方は認められません。挙手や投票など、民主的な方法で選ぶことが前提です。
- 意見書を作成してもらう。代表者の氏名と意見の内容を記載した書面を作ります。「異議なし」という意見でも構いません。様式は決まっていないため、社内の任意の様式で問題ありません。
- 変更届を作成し、労働基準監督署へ提出する。変更届(様式は任意)、変更後の就業規則、意見書の3点セットを、事業場を管轄する労働基準監督署へ提出します。窓口への持参、郵送、電子申請のいずれかで届け出るのが一般的です。
- 従業員へ周知する。各作業場の見やすい場所への掲示や備え付け、書面での交付、社内のシステム上でいつでも確認できる状態にしておくこと、のいずれかの方法で周知します(労働基準法施行規則52条の2)。
届出の期限について、労働基準法に「何日以内」という明文の定めはありません。ただし、変更した内容を運用に反映させる以上、変更が固まったら早めに届け出て周知まで終える、という進め方が実務上は安全です。
複数の事業場を持つ会社の場合、原則として各事業場を管轄する労働基準監督署ごとに届出が必要です。就業規則の内容が全事業場で共通しており、各事業場の意見書がそろっている場合には、本社を管轄する労働基準監督署へまとめて届け出る取り扱いが認められることがあります。該当するかどうかは事業場の状況によって変わるため、事前に所轄の労基署へ確認しておくと安心です。
自社でどう回すか
人事専任者がいない会社では、この一連の流れを「誰が・いつ・何をするか」まで決めておくと、抜けが減ります。
- 就業規則を変更すると決めた時点で、届出までの担当者を1人決めておく
- 新旧対照表を作る習慣をつけておく(次回の変更のときにも使い回せます)
- 意見書のひな形をあらかじめ用意しておく
- 届出が終わったら、周知の方法(掲示・配布・システム掲載)まで確認してから完了とする
手続き自体は、それほど複雑ではありません。ただ、意見聴取の相手の選び方や意見書の記載事項など、間違えやすい細部がいくつかあります。一度型を作ってしまえば、次回以降の変更はぐっと楽になります。
就業規則は、一度作ったら終わりではなく、法改正や社内の実態に合わせて見直しが続くものです。見直しのたびに同じ手続きを一からやり直すのは負担が大きいので、変更届のフォーマットや意見書のひな形は、社内の共有フォルダにひとまとめにしておくことをおすすめします。担当者が変わっても迷わず進められる状態にしておくと、手続き漏れのリスクはさらに下がります。
届出まで一緒に整えます
就業規則の変更を考えている、あるいは変更したけれど届出や周知が済んでいるか不安、という場合は、私たち社会保険労務士法人 労務ニュースにご相談ください。労働者代表の選び方や意見書の作成から、労基署への届出、周知の方法まで、会社の実情に合わせてお手伝いします。
