社員が急に辞めると言い出した。やること・やってはいけないこと

仕事術

明日から来なくなるかもしれない。そんな不安を抱えたことはありませんか

従業員10〜30人くらいの会社で、人事担当を社長が兼ねているか、実質ひとりで回している。

そんな会社ほど、社員から「今月いっぱいで辞めます」と突然切り出されたときの動揺が大きいのではないでしょうか。

事前の相談も、面談での兆候もないまま、ある朝いきなり退職の意思を告げられる。あるいは本人からではなく、聞いたこともない退職代行業者から電話がかかってくることもあります。

最初にやるべきことと、やってはいけないことを整理しないまま対応すると、感情的なやり取りが長引いたり、あとから「あの対応は違法では」と指摘されたりします。

急な退職の申し出は、いつ来るか予測できません。だからこそ、事前に対応の型を知っておくことが、会社を守ることにつながります。

社員から突然の退職を告げられて動揺する中小企業経営者のイメージ

結論:引き止めより先に「退職日は本人が決められる」という事実を押さえる

先に結論を言うと、突然の退職を告げられたときにまずやるべきは、感情的な引き止めではありません。

「いつ退職するか」を法的な基準に沿って確定させることです。

期間の定めのない雇用契約であれば、民法627条1項により、退職の申し出から2週間が経過すれば労働契約は終了するのが原則です。会社の承諾は、この効力発生の要件になっていません。

ここで誤解が多いのが、報酬を月単位で定めている月給制のケースです。かつては「月給制の場合、申し出のタイミングによっては退職日が翌月以降にずれる」という説明がなされることがありました。同条2項に、報酬を期間で定めた場合の特則があるためです。

しかし、2020年4月1日に施行された改正民法により、この2項は「使用者からの解約の申入れ」にのみ適用されるようになりました。社員のほうから無期雇用を辞める場合は、月給制でも年俸制でも、原則として1項どおり申し出から2週間で契約が終了します。給与形態を理由に退職日が後ろにずれることはありません。

そのため、社員が「辞めます」と一方的に意思表示してきた以上、会社が月給制であることや就業規則を持ち出して、2週間を超える退職日を勝手に固定することはできません。これとは分けて考えたいのが、本人が「〇月末で辞めたい」と会社に申し込み、会社がそれに合意して退職日を決める「合意退職」です。双方が納得して決めた日が退職日になるこのケースと、一方的な辞職とを混同しないことが大切です。まずは目の前の申し出が、話し合って日を決める合意退職なのか、それとも2週間で効力が生じる一方的な辞職なのかを見極めます。

就業規則に「退職は1か月前までに申し出ること」と書いてある場合は、その手続きが合理的な範囲であれば尊重される場面もあります。一方で、法律上の期日より短い期間で辞められる可能性も残ります。就業規則の予告期間と法律上の期日、その両方をにらみながら相談する前提で動くのが現実的です。

ここを曖昧にしたまま「引き継ぎが終わるまで辞めさせない」という交渉に時間を使うと、双方にとって消耗するだけになりがちです。

よくある失敗

実際の相談でよく見かける失敗を挙げます。

  • ①感情的に引き止めて長時間拘束する
    説得すればするほど気まずくなり、退職日までの関係が悪化する
  • ②有給消化を拒否する、または露骨に嫌な顔をする
    残っている有給休暇は退職日まで法律上使う権利がある。会社には請求された取得日をずらす「時季変更権」があるが、退職後にずらせる日は存在しないため、退職前に請求された年休は事実上拒否できない
  • ③「引き継ぎが終わるまで給料を払わない」など条件を出してしまう
    労働基準法24条の賃金全額払いの原則に反する対応になりかねない
  • ④退職代行から連絡が来たことに苛立ち、対応が雑になる
    代行業者経由であっても、本人の意思表示であれば退職の効力自体は変わらない
  • ⑤退職の理由を根掘り葉掘り追及する
    本人の意思確認は必要だが、詰問のような聞き方はハラスメントと受け取られやすい

共通するのは、「辞めさせない」という発想に引っ張られて、法的に無理な条件を口にしてしまうことです。

選び方・判断軸:何を優先して決めればいいか

突然の申し出を受けたときに、何から手をつけるかの判断軸を表にまとめました。

論点押さえるルール実務での動き方
退職日をいつにするか(無期雇用)民法627条1項により、社員からの辞職は申し出から2週間で効力が生じるのが原則。月給制・年俸制でも同じ(2項の特則は使用者からの解約申入れにのみ適用)就業規則の予告期間も参考にしつつ、法律上は2週間で終了することを前提に相談する
退職日をいつにするか(有期雇用)契約期間中は途中で辞められないのが原則だが、民法628条の「やむを得ない事由」があれば退職できる。加えて、期間が1年を超える契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めた契約などは除く)では、契約初日から1年を過ぎた後は労働基準法137条により申し出ればいつでも退職できる。ただし、高度の専門的知識などを持ちその業務に就く人や満60歳以上の人(いずれも労基法14条1項各号に定める労働者)は、この137条の対象から除かれる契約の残り期間と勤続の長さ、契約の種類を確認し、どの根拠で退職できるかを整理する
引き止めるかどうか強引な引き止めや条件提示は、関係悪化とハラスメントのリスクを高める引き継ぎの都合を伝えて相談するのは問題ないが、最終判断は本人に委ねる
引き継ぎの設計残り出勤日数(有給消化を差し引いた実働日数)から逆算する有給消化と最終給与の具体的な進め方は後述の記事で詳しく解説
退職代行経由の対応退職代行には弁護士・労働組合・民間業者があり、できることが異なる。民間業者は意思を伝える使者にとどまり、条件交渉や法的な代理はできないまず相手がどの種類かを確認し、本人の意思確認の方法をたずねて手続きを進める

深掘り:就業規則の「1か月前ルール」はどこまで効くのか

多くの会社の就業規則には、「退職は1か月前までに申し出ること」という条文があります。この定めがどこまで効くのかは、よくある悩みどころです。

まず前提として、民法627条1項は退職の自由を保障する規定です。一方で、就業規則に退職手続きの定めがある場合、その内容が合理的な範囲であれば、労働者もそれに従うことが求められると案内されています(厚生労働省)。1か月前の申し出という程度であれば、引き継ぎのための手続きとして一定の合理性が認められやすいと考えられます。

ただし、退職の自由を過度に制限するような取り決め、たとえば「半年前に申し出なければ辞められない」といった極端に長い予告期間を強制することには、合理性が問われます。

実務では、「就業規則の1か月ルールは一切無効」と決めつけるのも、「1か月前でなければ辞めさせない」と押し切るのも、どちらも行き過ぎです。法律上の期日と就業規則の手続きの両方を踏まえ、給与の締め方や本人の個別事情に応じて、退職日を相談していくのが妥当です。

もう一つ押さえておきたいのが、労働基準法16条です。

これは、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ予定したりする契約を禁止する条文です。

「急に辞めるなら罰金として給与から差し引く」といった対応は、この16条に触れる可能性があります。

違反すると、労働基準法120条1号により30万円以下の罰金の対象になり得ます。

感情的になるほど、こうした条件を口にしたくなる場面かもしれません。ですが、それ自体が会社側のリスクになることを知っておく必要があります。

退職代行サービス経由の連絡が来たときの初期対応

最近は、本人からではなく退職代行サービスを名乗る第三者から連絡が入るケースが増えています。

特に若手社員を中心に、直接言い出しにくいという理由で利用されることが多いようです。

驚いて感情的な返信をしたくなりますが、代行業者経由であっても、本人の意思表示として届いていれば退職の効力自体は変わりません。

ここで押さえておきたいのが、退職代行には大きく三つの種類があり、できることが違うという点です。弁護士が行う代行は、代理人として退職日や有給消化などの条件交渉までできます。労働組合(合同労組など)が行う場合は、団体交渉という形で会社と協議できます。これに対して民間業者による代行は、原則として本人の意思を会社に伝える「使者」にとどまり、法的な代理や条件の交渉はできません。

つまり、民間業者を名乗る相手が退職日や有給の日数を一方的に交渉してきても、その要求にそのまま応じる義務があるわけではありません。まず相手がどの立場(弁護士・労働組合・民間業者)なのかを確認し、そのうえで本人の意思確認の方法(書面や電話でのやり取り)をたずねます。

そこまで整理できたら、退職日・有給消化・貸与品の返却といった実務を、感情を挟まず淡々と進めます。

代行業者を通じて連絡が来たことに立腹して対応を拒否したり、直接会って話をさせろと強く求めたりすると、かえって対応が長引きます。

退職者への引き継ぎチェックリストを渡す落ち着いた対応のイメージ

オマカセロウムくんなら、突然の申し出にも慌てない体制をつくれます

私たちが提供している「オマカセロウムくん」では、退職の申し出があった瞬間から動ける標準フローをあらかじめ用意しています。

退職日の確定、有給消化の案内、引き継ぎリストの整理まで型があるので、担当者がその場で悩んで対応する必要がありません。

有給消化や最終給与の具体的な進め方は、退職者ともめない最後の給与と有給消化の進め方で詳しく解説しています。

そもそも突然の退職が続く場合、指揮系統や役割分担が曖昧で、社員が相談する前に見切りをつけている可能性もあります。

指揮系統があいまいな会社は社員が辞める|原因と整え方もあわせて確認してみてください。

退職の申し出をきっかけに、本人の勤務態度や問題行動が浮き彫りになるケースもあります。

その場合の指導・対応の流れは問題行動をとる社員への指導・対応についてにまとめています。

まとめ:突然の退職は「感情」ではなく「手順」で対応する

  • 期間の定めのない契約は、民法627条1項により、社員からの辞職は申し出から2週間で効力が生じるのが原則。会社の承諾は不要で、月給制・年俸制でも同じ(2項の特則は2020年4月の改正で使用者からの解約申入れにのみ適用となった)。一方的な辞職である以上、会社が給与形態や就業規則を理由に2週間を超えて退職日を固定することはできない。本人と話し合って日を決める「合意退職」とは区別する
  • 有期雇用は契約期間中の途中退職が原則できないが、民法628条の「やむを得ない事由」があれば可能。期間が1年を超える契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めた契約などは除く)では、契約初日から1年を過ぎた後は労働基準法137条により申し出ればいつでも退職できる。ただし、高度の専門的知識などを持ちその業務に就く人や満60歳以上の人(労基法14条1項各号に定める労働者)は、この137条の対象から外れる
  • 就業規則の予告期間(1か月前など)は、合理的な範囲なら手続きとして尊重される場面がある。一方で極端に長い期間の強制には合理性が問われる。一律に無効とも、常に守らせられるとも決めつけない
  • 強引な引き止めや条件提示は、労働基準法16条(賠償予定の禁止)に触れるリスクがある
  • 退職日までに請求された年次有給休暇は、退職後にずらせる日がないため会社は時季変更権を行使できず、事実上拒否できない。賃金の一部不払いも労働基準法違反になり得る
  • 退職代行には弁護士・労働組合・民間業者があり、できることが異なる。民間業者は意思を伝える使者にとどまるので、まず相手の種類を確認する
  • 感情的に対応するほど長引く。先に手順を決めておくことが、会社と本人の双方を守る

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