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賞与不払いは不法行為にならない?最高裁判決を社労士が解説

仕事術

この記事でわかること

  • ・最高裁が「賞与不払い=不法行為ではない」と判断した理由
  • ・「債務不履行」と「不法行為」の違いが実務でどう影響するか
  • ・非正規社員の待遇差で「不合理」と認められたもの・認められなかったもの
  • ・中小企業が今すぐ確認すべき就業規則と待遇差のチェックポイント
裁判所の法槌と法律書籍のイメージ

そもそも何が起きた?日東電工事件のざっくり概要

令和8年2月16日、最高裁判所第二小法廷がひとつの判決を出しました。

大手電子部品メーカーの日東電工で働いていた日系ブラジル人の非正規労働者60人が、「正社員との待遇差は不合理だ」として損害賠償を求めた裁判です。請求総額はなんと約2億9,000万円

もともとこの60人は、日東電工の子会社に雇用されていたんですが、平成22年1月に日東電工本体に転籍しました。このとき、雇用形態は「有期雇用契約社員」。ところが、この時点では有期雇用契約社員の就業規則がまだ存在していなかったんですよね。就業規則が作成されたのは、転籍から約2年後の平成23年11月。

ここがこの裁判の大きなポイントになります。

「就業規則がないなら、準社員の就業規則が適用されるべきだったんじゃないの?」というのが労働者側の主張。準社員なら賞与が出るはずだったのに、有期雇用契約社員として扱われて賞与がゼロだった、というわけです。

最高裁が出した結論 ── 賞与不払い=不法行為ではない

ビジネスパーソンが会議で議論するイメージ

結論から言うと、最高裁は「賞与を払わなかったこと自体は不法行為にはならない」と判断しました。

二審(名古屋高裁)は「準社員として扱うべきだったのに賞与を支給しなかったのは不法行為だ」として、賞与相当額の損害賠償を命じていたんです。でも、最高裁はこれをひっくり返しました。

「債務不履行」と「不法行為」って何が違うの?

ここ、ちょっと法律の話になりますが、めちゃくちゃ大事なポイントです。

債務不履行というのは、「約束したのに守らなかった」ということ。たとえば、就業規則で賞与を支給すると定めているのに払わない。これは債務不履行です。

不法行為というのは、「他人の権利や利益を違法に侵害した」ということ。交通事故や名誉毀損なんかが典型的ですよね。

で、最高裁が言ったのは、こういうことです。

> 「賞与を払わないのは債務不履行ではあるかもしれないけど、それ自体が不法行為法上の権利や利益を侵害するわけじゃないよね」

つまり、「お金を払う約束を破った」ということと「違法に権利を侵害した」ということは、別の話なんだ、と。

なぜ賞与の不払いでは不法行為が成立しなかったのか

これは実務上、とても重要な意味を持ちます。

債務不履行で請求するなら、基本的に契約関係がある当事者間の話になります。一方、不法行為で請求する場合は、時効のカウントや遅延損害金の起算点が変わってくるんです。

具体的には:

  • 債務不履行の時効:権利を行使できることを知ったときから5年(民法166条1項1号)
  • 不法行為の時効:損害と加害者を知ったときから3年(民法724条1号)
  • 遅延損害金:不法行為なら損害発生時から、債務不履行なら請求時から

労働者側としては、不法行為で認めてもらえれば遅延損害金の面で有利になるケースもあります。だからこそ、不法行為としても請求していたわけですが、最高裁は「それは筋が違う」と判断したということですね。


一方で「不合理な格差」と認められた待遇差もある

この裁判、賞与の部分だけ見ると会社側が勝ったように見えますが、実はそうでもないんです。

扶養手当・リフレッシュ休暇・特別休暇・半日年休

以下の待遇差は、旧労働契約法第20条に照らして「不合理」と認定され、二審の判断がそのまま確定しました。

待遇項目正社員有期雇用 契約社員判断
扶養手当ありなし不合理
リフレッシュ休暇ありなし不合理
特別休暇あり(またはより多い)なし(または少ない)不合理
年休の半日取得できるできない不合理
通勤手当支給通勤バス手配不合理とはいえない

通勤手当については、会社が代替手段として通勤バスを手配していたことが「その他の事情」として考慮され、不合理とはされませんでした。

ここ、ポイントです。 全部ダメだったわけでも、全部OKだったわけでもない。「個別の待遇ごとに、不合理かどうか判断する」というのが裁判所のスタンスなんですよね。


企業が押さえるべき3つのポイント

書類とペンのイメージ、就業規則の整備を連想させる

この判決から、中小企業が学ぶべきことを3つにまとめます。

就業規則の整備は「後出し」では危ない

この裁判の根っこにあるのは、転籍時に適用される就業規則が存在しなかったという事実です。

就業規則がなければ、「じゃあ他の規則が適用されるんじゃないの?」という話になりますし、後から作った就業規則が不利益変更に当たるかどうかも争点になります。

社員の雇用形態を変更するとき、受け皿となる就業規則は事前に整備しておくこと。 これは鉄則です。特に、正社員から契約社員への転換、子会社からの転籍、パートから有期雇用への変更など、雇用形態が変わるタイミングは要注意です。

非正規社員の待遇差は「説明できるか」がカギ

「なぜこの手当は正社員だけなの?」と聞かれたとき、合理的な理由を説明できるかどうか。これが同一労働同一賃金の実務では最も大切なことです。

この裁判では、通勤バスの手配が通勤手当の代替手段として認められました。つまり、「形は違うけど、ちゃんと手当てしてますよ」と言える状態を作れていたからセーフだったわけです。

逆に、扶養手当やリフレッシュ休暇は「正社員だけ」の合理的な理由が説明できなかった。だから不合理と判断されています。

私の経験上、待遇差の理由を整理してみると「あれ、これ特に理由ないな…」ということ、結構あるんですよね。

不利益変更は手順を踏まないとひっくり返る

今回の裁判では、二審が「有期雇用契約社員就業規則は準社員就業規則より不利益な内容であり、不利益変更に当たる」と認定しました。ただし、転籍時に正社員就業規則と準社員就業規則が適用されないことを合意していたため、不利益変更への事前合意があったと評価されています。

つまり、書面での合意があったからこそ、不利益変更が有効と判断されたんです。口頭だけ、なんとなくの慣行だけでは危険です。

労働条件の不利益変更を行う際は、以下の手順を踏みましょう:

  1. 変更内容を書面で明確にする
  2. ・個別の同意を書面で取得する
  3. ・変更の合理性を説明できるようにしておく(労働契約法9条・10条)

旧労契法20条からパート有期法8条へ ── 今のルールを確認

この裁判は旧労働契約法第20条(平成25年4月施行、令和2年4月に統合)が根拠でしたが、現在はこの条文はパートタイム・有期雇用労働法第8条に引き継がれています。

ルールの本質は変わっていません。

> 正社員と非正規社員の間に不合理な待遇差を設けてはならない

判断の際に考慮されるのは、以下の3つの要素です:

  1. 職務の内容(業務内容+責任の程度)
  2. 職務内容・配置の変更範囲(転勤や異動の有無)
  3. その他の事情(成り立ちの経緯、労使交渉の状況など)

今回の判決は、この枠組みの中で個別の待遇ごとに判断が分かれた好例です。「うちは大丈夫」と思っている中小企業こそ、一度、正社員とパート・契約社員の待遇差を一覧表にして比較してみることをおすすめします。


まとめ ── この判決から中小企業が学べること

今回の最高裁判決(令和8年2月16日)のポイントを整理します。

  • 賞与の不払いは債務不履行であっても、不法行為にはならない(最高裁が二審を変更)
  • 扶養手当・リフレッシュ休暇・特別休暇・半日年休の格差は不合理と確定
  • 就業規則の「後出し」は紛争の原因になる ── 雇用形態変更時は事前整備を
  • 待遇差は個別に判断される ── 代替措置があればセーフなケースも
  • 不利益変更は書面での合意が必須

「うちは小さい会社だから関係ない」は通用しません。 この判決は大企業の話ですが、同一労働同一賃金のルールは企業規模に関係なく適用されます。パートさんや契約社員がいる会社は、すべて対象です。

「正社員と非正規社員の待遇差、ちゃんと説明できますか?」

もしこの質問にすぐ答えられないなら、一度見直しの時期かもしれません。


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