副業で二以上事業所に?社員の社会保険、手続き漏れの落とし穴

仕事術

「うちのパート、他の会社でも働いてるらしい」で終わらせていませんか

従業員10〜30人規模で、人事担当がひとり。採用面接のときは前職までしか聞かず、入社後の副業までは把握しきれていない。

そんな会社、正直多いんじゃないでしょうか。

副業・兼業を認める企業が増えて、社員が2社以上で働くケース自体は珍しくなくなりました。ここで見落とされがちなのが、それぞれの会社で社会保険の加入要件を満たしたときの手続きです。

まず押さえておきたいのが、社会保険の加入要件は会社ごとに別々に判定するという点です。他社での労働時間や賃金を自社分に足し合わせて要件を満たす、という扱いはありません。問題になるのは、自社でも他社でも、それぞれ単独で加入要件を満たしているケースです。たとえば自社の正社員が別の会社の役員も兼ねて役員報酬を受け取っている、あるいは2社それぞれで要件を満たすだけの時間を働いている、といった場合です。

加入要件を各社が別々に判定する以上、自社の勤怠だけを見ていても、その社員が他社でも被保険者になっているかどうかは分かりません。本人からの自己申告がなければ、会社側が気づくきっかけはほとんどないのです。

気づかないまま両社がそれぞれ普通に社会保険へ加入させると、本来必要な「二以上事業所勤務」の手続きが抜け落ちます。放置すると、後から標準報酬月額を決め直したうえで保険料を精算する事態になることもあります。

結論:両方の会社で社保要件を満たしたら「二以上事業所勤務届」が必要

先に結論からいきます。

同じ社員が2つ以上の適用事業所で、それぞれ社会保険の加入要件を満たした場合、本人が「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、事実発生から10日以内に、選択した主たる事業所を管轄する年金事務所(事務センター)へ提出する必要があります(健康保険法施行規則2条・37条、厚生年金保険法施行規則2条)。選択した事業所が健康保険組合に加入している場合は、その健康保険組合への届出もあわせて必要です。

健康保険側の届出根拠は、複数の保険者(協会けんぽと健康保険組合、あるいは複数の健康保険組合など)からどれか一つを選ぶ必要があるかどうかで分かれます。保険者を選択する場合の届出が健康保険法施行規則2条、それ以外の二以上事業所勤務の届出が同37条です。健康保険組合に入っているかどうかだけで条文が決まるわけではありません。厚生年金保険は、いずれの場合も厚生年金保険法施行規則2条が根拠になります。

提出するのは本人ですが、実務上は会社側が「うちの社員が他社でも社保加入要件を満たしていないか」を把握し、該当しそうなら本人に手続きを案内するのが現実的な進め方です。この届出をしないまま放置すると、標準報酬月額の算定がずれたまま保険料を納め続けることになり、後日まとめて差額を精算する事態になりかねません。

要件を満たすのが一社だけなら、この届出は不要です。あくまで「両方の会社で加入要件を満たした場合」に限られる手続きだと押さえておいてください。

なぜ「二以上事業所勤務届」が必要なのか

そもそも健康保険・厚生年金保険は、一人につき一つの保険者(協会けんぽや厚生年金の実施機関)でしか管理できない仕組みになっています。2つの会社でそれぞれ別々に社会保険料を計算してしまうと、標準報酬月額(保険料や将来の年金額の基礎になる金額)が正しく決まりません。

そこで健康保険法44条3項・厚生年金保険法24条2項は、同時に2つ以上の事業所で報酬を受ける被保険者について、各事業所の報酬月額を合算した額を、その人の報酬月額とすると定めています。ここで合算するのはあくまで保険料計算のための報酬月額であって、加入要件の判定ではありません。加入するかどうかは各社が別々に判断し、合算は保険料の計算段階で行う、という順序を分けて押さえておいてください。

合算した報酬月額をもとに標準報酬月額を決定し、そこから算出した保険料を、各事業所の報酬額の比率で按分します。按分された保険料には、それぞれ事業主負担分と被保険者負担分があります。事業主負担分は各社が納め、被保険者負担分は各社がそれぞれの給与から控除する仕組みです。「保険料を各社が負担する」というより、「按分した保険料を、各社が事業主負担分と本人控除分に分けて処理する」と理解しておくと正確です。

この合算計算をするために、本人が「主たる事業所」をどちらか一つ選んで届け出る必要があります。これが「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」です。選ばれなかった事業所は「非選択事業所」として扱われ、健康保険の給付や窓口業務は主たる事業所側の保険者が担います。

なお現在は紙の健康保険証が廃止され、マイナ保険証(健康保険証の利用登録をしたマイナンバーカード)による受診が基本になっています。加入時には資格の内容を記した「資格情報のお知らせ」が交付されますが、これは保険証の代わりに医療機関の窓口へ提示する書類ではありません。マイナ保険証を持たない人や利用できない人などには、別途「資格確認書」が交付され、これを窓口で提示して受診します。二以上事業所勤務者の場合、この資格確認書も主たる事業所側の保険者から交付されます。

雇用保険については扱いが異なります。原則として雇用保険は主たる雇用関係の1か所でのみ加入しますが、65歳以上の労働者に限っては「雇用保険マルチジョブホルダー制度」があります。この制度で被保険者になるには、2つの事業所それぞれで1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満であること、その2つを合計すると週20時間以上になること、そして2つの事業所それぞれで31日以上の雇用見込みがあること、といった要件をすべて満たす必要があります。これらを満たしたうえで本人が申し出れば、特例的に雇用保険の被保険者になれます。2022年1月1日施行の制度で、対象は65歳以上に限られる点に注意してください。

現場でよくある失敗5つ

  • 本人からの申告を待つだけで、会社側から確認していない:副業を許可制にしていても、社会保険の加入要件を満たすかどうかまで人事が意識していないケースが多い
  • 要件を満たしたタイミングを把握できず、10日の提出期限を過ぎてしまう:気づいたときにはすでに数か月経っていた、という相談は少なくない
  • 主たる事業所の選び方を本人任せにして、保険料の按分計算が後回しになる:選択事業所が変わると、給与計算ソフト側の設定も見直しが必要になる
  • 給与計算ソフトに「二以上事業所勤務者」の設定機能があるのに、通常の一社勤務と同じ設定のまま計算している:標準報酬月額が合算前の金額のままになり、控除額がずれる
  • 雇用保険と社会保険を同じルールで考えてしまう:雇用保険は原則1か所でしか加入しないのに対し、社会保険は要件を満たせば両方で加入義務が生じる。この違いを混同すると、片方の手続きだけで済ませてしまう

いずれも「本人からの申告頼み」「制度の違いを整理できていない」という共通点があります。副業を許可する時点で、社会保険の取り扱いまでセットで社員に説明しておくと、後からの混乱を防げます。

選び方・判断軸:確認から手続きまでの流れ

副業社員を把握したら、次の順番で確認するのがおすすめです。

手順やること見落としがちな点
1. 副業の有無を確認入社時・定期面談で他社での勤務有無を聞く就業規則で副業を許可制にしていても、申告漏れは起きる
2. 各社の加入要件を確認本人を通じて、他社でもその会社単独で社保の加入要件(所定労働時間・賃金等)を満たしているか確認する加入要件は会社ごとに判定する。他社分と合算して満たすかどうかを見るわけではない
3. 要件を満たしていれば届出を案内「二以上事業所勤務届」を10日以内に提出するよう案内する提出先は主たる事業所を管轄する年金事務所(事務センター)。選択事業所が健康保険組合加入なら、その組合への届出もあわせて必要
4. 主たる事業所の選択を確認どちらが主たる事業所になったかを把握する選択結果によって、自社での保険料計算・窓口業務の扱いが変わる
5. 給与計算への反映按分後の保険料額を給与計算ソフトに正しく設定する「二以上勤務者」向けの設定を使わず通常設定のままにしない

特に3番目の提出期限は見落とされがちです。要件を満たした日から10日以内という期限は短く、本人が気づいてから動き出すのでは間に合わないこともあります。副業を許可する会社では、要件を満たしそうな社員を早めに拾える体制を作っておくのが安全です。

オマカセロウムくんなら、副業社員の社保確認も丸ごと引き受けます

私たちが提供している「オマカセロウムくん」は、社会保険の手続きを含めて外部の人事部として引き受けるサービスです。

副業社員の二以上事業所勤務は、そもそも「自社の労働時間や賃金だけを見ていては気づけない」という性質があります。オマカセロウムくんでは、副業の申告状況を定期的に確認し、加入要件に近づいている社員がいないかをチェックする運用を組んでいます。

人事労務が担当者ひとりに集中している会社のリスクでも書きましたが、こうした「制度の谷間」に落ちやすい手続きは、担当者が一人で全部を把握しようとすると見落としが出やすい領域です。

実務ツールとしては、freee人事労務のようなクラウド給与計算システムを使うと、二以上事業所勤務者向けの設定機能で按分後の保険料を管理しやすくなります。ただし設定自体は手動で切り替える必要があり、「副業を始めた社員がいたら忘れずに設定を変える」という運用ルールを社内で決めておかないと、ツールを入れただけでは漏れを防ぎきれません。社会保険の加入基準と収入の壁を整理した記事もあわせて読んでおくと、そもそもの加入要件の理解が深まります。

まとめ:社会保険の加入要件は「会社ごと」に判定する

社会保険の加入要件は会社ごとに別々に判定します。他社での労働時間や賃金を足し合わせて要件を満たす、という扱いはありません。見落としやすいのは、自社でも他社でも、それぞれ単独で要件を満たしているケースです。

  • 各社でそれぞれ社会保険の加入要件を満たした場合、本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を事実発生から10日以内に、選択した主たる事業所を管轄する年金事務所(事務センター)へ提出する。選択した事業所が健康保険組合に加入している場合は、その健康保険組合への届出もあわせて必要になる。健康保険の届出根拠は、複数の保険者から一つを選ぶ場合が健康保険法施行規則2条、それ以外の二以上事業所勤務が同37条で、健康保険組合か否かで分かれるわけではない(厚生年金保険はいずれも厚生年金保険法施行規則2条)
  • 保険料の計算段階では各事業所の報酬月額を合算して標準報酬月額を決め、保険料を報酬額の比率で按分する。按分後の保険料は、事業主負担分を各社が納め、被保険者負担分は各社がそれぞれ給与から控除する(健康保険法44条3項、厚生年金保険法24条2項)
  • 雇用保険は原則1か所でのみ加入。65歳以上に限り「雇用保険マルチジョブホルダー制度」があり、各事業所で週の所定労働時間が5時間以上20時間未満・2社合計で週20時間以上・各社で31日以上の雇用見込み、といった要件をすべて満たせば本人の申出で加入できる(2022年1月1日施行)
  • 会社側は本人からの申告を待つだけでなく、副業を許可する時点で社会保険の取り扱いまで説明し、定期的に状況を確認する
  • 給与計算ソフトを使っていても、二以上事業所勤務者向けの設定に手動で切り替えないと、按分前の金額のまま計算され続ける
  • 要件を満たすのが一社だけなら届出は不要。あくまで両社で要件を満たしたときに限られる手続き
副業・ダブルワーク社員の社会保険手続きを確認する人事担当者のイメージ

まずは、副業を認めている社員がいないか、いる場合は他社でも社会保険の加入要件を満たしていないかを一度確認してみてください。

社会保険の手続きについて社労士に相談する中小企業経営者のイメージ

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