「結局、2026年の最低賃金はどうなるのか」
ここ数か月、経営者の方々と話していて最も多い質問の一つです。
当事務所のブログでも、2026年の最低賃金予測と中小企業の対策の記事に多くアクセスをいただいています。
ただ、その記事を公開した時点と現在では、議論の前提が動いています。政権交代、外部圧力の強まり、目安制度そのものの見直し議論。2026年5月時点の状況をいったん整理し、6月の諮問・7月の答申までに中小企業が押さえておくべきポイントをお伝えします。
まず押さえるべきタイムライン
最低賃金は毎年、以下のスケジュールで決まります。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年2月27日 | 第72回中央最低賃金審議会が開催/2026年度改定に向けた議論が始まる |
| 2026年6月頃 | 厚生労働大臣が中央最低賃金審議会に 諮問 |
| 2026年7月頃 | 中央最低賃金審議会が 答申(目安額の決定) |
| 2026年8月頃 | 都道府県ごとの地方最低賃金審議会で 地域別の改定額を決定 |
| 2026年10月頃 | 改定後の最低賃金が 発効(順次) |
つまり今が「決まる直前」の最重要時期です。ここで議論されている内容が、10月以降に各企業の人件費へ直接跳ね返ります。
動向① 政権交代で「1500円目標」は揺らいだが、引き上げは止まらない
これまで石破政権下では「2020年代中に全国平均1,500円」という目標が掲げられ、年100円前後の引き上げが定着していました。
しかし、新内閣ではこの「2020年代中1,500円」目標を継承することに、慎重な姿勢を示しています。背景には、急激な引き上げによる中小企業の負担増を懸念する声があります。
ただし、引き上げの流れそのものが止まる兆しはありません。後述する外部圧力が強まっており、政府目標を仮に下方修正したとしても、年30〜80円程度の引き上げは続くと考えるのが現実的です。
「政権が代わったから上がらない」と楽観するのは危険、というのが現時点での見立てです。
動向② 外部圧力はむしろ強まっている(日弁連は1,700〜1,900円を必要生計費として提示)
政府目標が揺らぐ一方で、引き上げを求める外部の声は強まっています。
2026年4月8日、日本弁護士連合会は会長声明を出し、最低賃金額の大幅な引き上げと地域間格差の是正を求めました。声明では、必要生計費の試算として時給1,700〜1,900円という金額が示されています。
さらに、議論の場ではEU指令(最低賃金に関する欧州連合指令)の考え方も持ち込まれています。EU指令は加盟国に対し、「最低賃金は労働者の生活を保障するに足る水準とすべき」という原則を打ち出しており、これを参考にする議論が日本国内でも出ています。
労働組合からも従来通り、強い引き上げ要求が出ています。「政府が目標を緩めても、外部からの引き上げ圧力は維持される」という構図です。
動向③ 中小企業の実態:45.1%が「最賃を下回る従業員」の賃金を引き上げ
労働政策研究・研修機構(JILPT)が2026年5月号のビジネス・レーバー・トレンドで紹介した日本商工会議所・東京商工会議所の調査によれば、2025年の最低賃金引き上げに伴い、約45.1%の中小企業が「最低賃金を下回る従業員」の賃金を引き上げたと回答しています。これは2025年の引き上げを受けた実態調査ですが、2026年も同様の構造が継続すると考えられます。
ここで重要なのは、これが「最低賃金を下回る従業員」への対応であって、最低賃金より上の層への波及(賃金カーブの圧縮回避)は別途必要になる、という点です。
つまり、最低賃金が上がると、
- ・最賃を下回るパート・アルバイトの時給を引き上げる(直接対応)
- ・正社員との賃金差が縮まりすぎないよう、正社員側もベースアップを検討する(間接対応)
という二段階の人件費インパクトが避けられません。「最賃が上がっても、うちはパートしかいないから関係ない」では済まないということです。
動向④ 「目安制度の見直し」と「発効日の全国統一化」議論
今年の議論で注目されているのが、金額そのものではなく、制度の枠組みに関する見直しです。
目安制度の在り方
これまでは中央最低賃金審議会がA〜Cランクで都道府県をグループ分けし、ランクごとに目安額を提示する仕組みでした。これに対し、地域間格差の是正のため、ランク分けそのものを見直すべきという議論が進んでいます。
地方に拠点を持つ企業にとっては、東京・大阪との格差縮小が現実味を帯びてきます。
発効日の全国統一化
現在は都道府県ごとに発効日がバラバラで、最も早い県と最も遅い県で最大約6か月の差が出ることが問題視されています。同じ法律上の最賃改定で、ある県は10月から、別の県は翌年4月から、というのは制度として歪んでいるという指摘です。
発効日が全国統一化されれば、企業側の対応スケジュールも変わります。複数県に拠点を持つ企業は、対応の同時並行が必要になるかもしれません。
✅中小企業が今すぐ準備すべき3つのこと
ここまでの4つの動向を踏まえ、中小企業の経営者・人事担当者が6月諮問・7月答申までにやっておくべきことを整理します。
準備① 賃金テーブルの「3シナリオ」試算
「2026年10月から 30円/60円/100円それぞれ上がった場合、自社の年間人件費がいくら増えるか」を3パターンで試算します。
- 対象:全パート・アルバイト+最低賃金近傍の正社員
- 年間影響額(時間外含む社会保険料・賞与・退職金引当も含めて算出)
- 3シナリオ並べて、「どこまでなら吸収可能か」「どこから価格転嫁が必要か」を経営判断する
電卓レベルでもよいので、数字を出しておくことが肝心です。
準備② 助成金の活用余地を確認する
最低賃金引き上げに伴って、活用できる助成金が複数あります。
- 業務改善助成金:賃金引き上げと設備投資をセットで行う場合に支給
- キャリアアップ助成金 賃金規定等改定コース:有期雇用労働者等の賃金規定を改定する際の支援
- 人材開発支援助成金:訓練を通じた賃金引き上げで加算あり
特に業務改善助成金は、令和8年度は 「引き上げ前の事前申請のみ」 の運用が見込まれ、事後申請は認められません。答申が出てから動くと、事業計画作成が間に合わないケースがあるためご注意ください(最新の申請期間・要件は都道府県労働局または厚生労働省の公式案内でご確認を)。
準備③ 価格転嫁の社内根拠を整える
最低賃金引き上げに伴うコスト増を、取引先や顧客に転嫁する場合、「なぜ値上げが必要か」を数字で説明できる準備が要ります。
- ・人件費比率の変化(過去3年トレンド+次年度予測)
- ・同業他社の動向
- ・価格据え置きでの利益率影響
国も「パートナーシップ構築宣言」「価格転嫁推進政策」を打ち出していますが、結局は自社で資料を用意できる企業しか交渉のテーブルに座れないのが現実です。
まとめ|「決まってから動く」では遅い
- 2026年度の最低賃金は、6月諮問・7月答申に向けて議論が大詰めを迎えています
- 政権交代で目標は揺らぎましたが、外部圧力はむしろ強まり、引き上げそのものは継続する見通し
- 議論の中心は金額だけでなく、目安制度や発効日の枠組みにも及んでいる
- 中小企業は、①賃金テーブル試算 ②助成金確認 ③価格転嫁準備の3点を、答申前に着手しておくと安心です
最低賃金の具体的な引き上げ幅予測については、2026年の最低賃金予測と中小企業の対策の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
7月の答申が出た時点で、当ブログでも続報を出します。
社会保険労務士法人 労務ニュース/株式会社労務ニュース
代表取締役 倉田 諒
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