シリーズ:中小企業のための人事評価制度講座(全5回)
- 第1回:人事評価制度とは?中小企業こそ導入すべき理由
- 第2回:人事評価制度の作り方|3つの柱で失敗しない設計術
- 第3回:等級制度の設計|社員の「成長の階段」をつくる方法(この記事)
- 第4回:賃金制度の設計|給与は投資、賞与は分配という考え方
- 第5回:評価制度の運用|形骸化させない年間サイクルのまわし方

この記事でわかること
- ・等級制度がなぜ人事評価の「背骨」なのか
- ・「勤続年数」ではなく「できること」で等級を決める考え方
- ・まず4段階(見習い・一般・エース・マネージャー)で始める方法
- ・組織が大きくなったら8段階に拡張する考え方
- ・等級ごとの「期待役割」の決め方
- ・「どうすれば上がれるか」がわかる昇格要件の設計
等級制度が「背骨」である理由
前回、人事評価制度は「等級・賃金・評価」の3つの柱で動くという話をしました。
この中で一番最初に作るべきなのが、等級制度です。
なぜか。等級が決まらないと、何も決まらないからです。
- ・賃金テーブルは、等級ごとに設計する
- ・評価項目は、等級ごとに変える
- ・昇格・昇給の基準も、等級に紐づく
等級制度は、制度全体の「背骨」。背骨がしっかりしていれば、他の部分は後からいくらでも肉付けできます。
「年功」ではなく「できること」で決める
日本の会社に多い等級の決め方は、「勤続年数」ですよね。
3年いたら主任、5年いたら係長、10年いたら課長……みたいな。
でも、これだと「長くいるだけで偉くなる人」が出てくる。逆に、入社2年目でもバリバリ成果を出している人が、年功の壁に阻まれて上がれない。
私が提案している等級制度は、「業務プロセスの習熟度」で等級を決める方式です。
つまり、「どんな深さで仕事ができているか」がモノサシ。
- 指示されたことを正確にやれる → 一般層
- 自分で判断して改善提案もできる → 中堅層
- チーム全体の成果に責任を持てる → 管理層
勤続年数は関係ありません。「できること」が上位等級の基準を満たしているかどうかで決まる。
これだけで、社員の納得感がまったく変わります。
まずは4段階で始めよう
いきなり8段階の本格的なモデルを作る必要はありません。中小企業なら、まず4段階で十分です。

| 等級 | 名称 | 期待される役割 |
|---|---|---|
| G1 | 見習い | 指示を受けて基本業務を覚えている段階。ルール・規律を守れる |
| G2 | 一般 | 自分の業務を一人前にこなせる。年間粗利○万円以上 |
| G3 | エース | 年間粗利○万円以上。後輩の面倒も見れる。改善提案を実行できる |
| G4 | マネージャー | チーム粗利○万円以上。部下を育成し、仕組みを改善する |
ポイントは、等級の定義に「粗利」と「行動」を一体で入れていること。
わざわざ「業績○%・プロセス○%」とウエイト配分を作る必要はありません。
「この等級基準を満たしているか?」のYes/Noで判断できれば十分。
粗利の基準があることで、社員が「次に上がるにはいくら必要か」を自分で逆算できる。
目標が具体的になるから、行動が変わりやすくなります。
もちろん、粗利の具体的な金額は業種・規模によってまったく違います。
ここは自社の実態に合わせて設定してください。
組織が大きくなったら?8段階への拡張
社員が増えて「4段階だと同じ等級の中に実力差が大きい社員がいる」と感じたら、段階を増やすタイミングです。
私がコンサルティングで使っているフルスペックモデルはL1〜L8の8段階。4段階の各等級を細分化していくイメージです。
| 等級 | 役職名(例) | 期待される役割 | 4段階との対応 |
|---|---|---|---|
| L8 | 執行役員 | 事業全体の収益構造を構築し、経営視点で牽引する | G4の上位拡張 |
| L7 | 部長 | 業務プロセスをゼロから設計し、組織に変革を起こす | G4の上位拡張 |
| L6 | 課長 | 目標達成のために業務フローを改善し、部下を育成する | G4相当 |
| L5 | 主任 | 自分の領域で改善・改革を実行し、後輩指導もできる | G3相当 |
| L4 | 一級 | 自分の業務を一人前に完遂でき、周囲にアドバイスもできる | G2の上位 |
| L3 | 二級 | 上司に相談しながら業務を遂行できる | G2相当 |
| L2 | 三級 | 基礎業務を問題なくこなし、ルールを守れる | G1相当 |
| L1 | 試用期間 | L2への到達を目指す学習段階 | G1の入口 |
4段階で始めて、必要になったら8段階に拡張する。
この順番が、中小企業にとっては一番現実的です。
最初からフルスペックで作ると、設計に時間がかかりすぎるし、社員数が少ないうちは「うちには関係ない等級」が半分以上になってしまう。まず4段階で回して、会社が成長したら一緒に等級も育てていくくらいの感覚でOKです。
等級ごとの「期待役割」をチューニングする
標準モデルをベースに、自社の文化や方針に合わせて微調整する必要があります。
ここで決めるべき「選択」がいくつかあります。
管理職に求めるのは「変革」か「数字管理」か
- A案(変革・改善重視):仕組みを変える、効率化する能力を評価する
- B案(数値管理重視):目標数字の達成とチーム管理を評価する
私のおすすめはA案です。数字は結果であって、結果を出すための「プロセスを変える力」こそが管理職の本質だと思っています。
リーダー(L5)に求めるのは「改革」か「熟練」か
- A案(プレイングリーダー):自分の工夫で業務を変えられる人
- B案(熟練プレイヤー):誰よりも業務に精通し、早くて正確な人
これは業種によりますが、多くの中小企業ではA案がフィットします。「仕事が速い」だけでは組織は成長しない。「やり方を変えられる人」がリーダーにならないと、改善が進みません。
「どうすれば上がれるか」を明確にする
等級制度で一番大事なのは、昇格要件です。
社員にとって「何をすれば次の等級に上がれるのか」がわからないと、等級制度はただの序列表になります。
昇格の鉄則
「今の等級で優秀な成績を出す」だけでは、昇格させない。
えっ?と思いますよね。でも、これにはちゃんと理由があります。
今のL4で成績Sをとっている社員を、そのままL5に上げたとします。でも、L5は「後輩指導」や「改善提案」が求められる等級。売上を上げるのが得意でも、後輩指導ができるとは限らない。
だから、昇格のルールはこうです:
「現等級で一定以上の評価」+「一つ上の等級の仕事が既にできていること」

昇格チェックリストの例(L5→L6)
- ・自身の個人目標を達成しているか?(現等級の責務)
- ・既存の業務フローに対して、具体的な改善案を出して実行したか?(上位等級の予行演習)
- ・後輩の面倒を見るだけでなく、チーム全体の育成に関心を持っているか?
「上位等級の仕事を既にやっている人」を昇格させる。 これなら「昇格したけど荷が重い」という事態を防げます。
スペシャリストコースの選択肢
「マネジメントはしたくないけど、専門性がめちゃくちゃ高い社員」、いますよね。
全員が管理職を目指すわけじゃない。技術や専門知識で会社に貢献する道もあるべきです。
そこで設けるのがスペシャリストコース。
L5(リーダー)あたりから分岐を作って、管理職にならなくても等級が上がる道を用意します。
- マネジメントコース:L5 → L6(課長)→ L7(部長)
- スペシャリストコース:L5 → S6(エキスパート)→ S7(フェロー)
スペシャリストコースの条件は、「圧倒的な個人成果」または「社内への技術指導貢献」。部下はいなくても、管理職と同等の給与を設定します。
全ての会社に必要なわけではありませんが、技術系の人材を抱える会社なら検討する価値があります。「管理職になるしか給料が上がらない」と思わせると、優秀な技術者が辞めてしまいますから。
等級定義書を作ろう
設計が終わったら、最後に等級定義書としてまとめます。
各等級について、以下の項目を言語化してください:
- 等級名称:L6 課長
- 基本定義:プロセス改善・育成
- 詳細定義(3〜5行):
- ・部長の方針を噛み砕き、現場レベルの実行計画に落とし込める
- ・既存業務の問題点を発見し、月1件以上の改善提案を実行できる
- ・部下の目標達成を支援し、チーム全体の売上責任を持つ
- 必要スキル:チームマネジメント力、係数管理能力
- 昇格目安:L5滞留2年以上、かつ直近評価A以上
この等級定義書が、社員にとっての「成長の地図」になります。
「今の自分はここにいて、次はここを目指す。そのためにはこういう行動が必要」。これが見えるだけで、社員の動き方が変わります。
まとめ
- ・等級制度は人事評価制度の「背骨」。最初に設計すべきもの
- ・「勤続年数」ではなく「できること(業務プロセスの習熟度)」で等級を決める
- ・中小企業はまず4段階(見習い・一般・エース・マネージャー)で始める。組織が大きくなったら8段階に拡張
- ・管理職には「変革力」、リーダーには「改善力」を求めるのがおすすめ
- ・昇格要件は「現等級の実績」+「上位等級の仕事が既にできている」の二段階
- ・等級定義書を作って、社員が「成長の地図」を持てる状態にする
次回は、3つの柱の2つ目「賃金制度」の設計方法を解説します。「給与は投資、賞与は分配」の具体的な考え方と計算ロジックをお伝えします。
等級制度の設計、自社の実態に合わせるのが難しい……という方へ
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