賃金制度の設計|給与は投資、賞与は分配という考え方【シリーズ第4回】

仕事術

シリーズ:中小企業のための人事評価制度講座(全5回)

  • 第1回:人事評価制度とは?中小企業こそ導入すべき理由
  • 第2回:人事評価制度の作り方|3つの柱で失敗しない設計術
  • 第3回:等級制度の設計|社員の「成長の階段」をつくる方法
  • 第4回:賃金制度の設計|給与は投資、賞与は分配という考え方(この記事)
  • 第5回:評価制度の運用|形骸化させない年間サイクルのまわし方

電卓と財務資料を使って賃金設計をしているビジネスパーソン

この記事でわかること

  • ・「給与はコスト」ではなく「投資」と捉える理由
  • ・賃金制度を「固定給」と「成果分配」の2階建てで設計する方法
  • ・労働分配率の決め方と具体的な計算式
  • ・プロフィットシェア方式の賞与計算ロジック
  • ・中小企業がやりがちな賃金設計のNGパターン

賃金をどう決めていますか?

経営者の方に「社員の給料って、どうやって決めていますか?」と聞くと、こんな答えが多いです。

  • 「前職の給与をベースに、ちょっと上乗せした」
  • 「同業他社の相場を見て、なんとなく決めた」
  • 「毎年、業績を見てから5,000円くらい上げてる」

正直に言います。これだと、遅かれ早かれ詰みます。

なぜか。基準がないから。基準がないと、いくらまで上げていいのか、いつ上げるのか、誰を上げるのか、全部が「なんとなく」になる。

結果、「あの人の給料がなぜ高いのかわからない」「昇給の基準が不透明」という不満が溜まっていきます。


「給与はコスト」をやめよう

私が経営者の方にいつもお伝えしているのは、給与は「コスト」ではなく「投資」だということ。

コストだと思うと、「いかに抑えるか」が発想の起点になります。人件費を下げれば利益が増える、みたいな。

でも投資だと思えば、「この社員にいくら投資して、どれだけのリターン(売上・成長)を期待するか」が発想の起点になる。

投資なら、リターンが見込めるなら増やせばいい。見込めないなら、投資先(配置や育成方法)を変えればいい。

この視点の転換が、賃金制度設計の出発点です。


2階建て構造で設計する

私が提案している賃金制度は、「固定給」と「成果分配」の2階建て構造です。

階層種類性質考え方
1階月給+冬賞与固定会社が社員に約束する「投資額」
2階夏賞与変動稼いだ利益から分配する「成果配分」
チームでデータを見ながら議論するビジネスパーソン

1階部分(固定)=生活を支える投資

月給は、社員の生活を支える安定した固定給です。

前年の実績と期待に基づいて決定し、短期的な業績変動では下げない。これが「投資」の意味です。会社が「あなたにはこれだけの価値がある」と約束する金額。

冬の賞与は、原則「基本給×1.0ヶ月」の固定支給をおすすめしています。もちろん冬も成績連動にすることは可能ですが、年2回の評価・査定はかなり大変です。評価面談、シートの回収、ランク付け……これを半年ごとにやるとなると、中小企業では管理コストが現実的じゃない。

なので、変動は夏1回に集中させて、冬は固定で生活の安心感を保つ。このバランスが、運用しやすさと納得感の両立という意味で一番おすすめです。

2階部分(変動)=稼いだ利益の分配

夏の賞与は、業績に連動する変動給です。

売上が上振れれば原資が増え、社員に還元される。頑張りが直接報酬に反映される仕組み。逆に、業績が振るわなければ、夏賞与はゼロもありえます。

これがプロフィットシェア(利益分配)方式。「みんなで稼いだ分を、みんなで分ける」という、シンプルで納得感の高い仕組みです。


STEP 1:労働分配率を決める

まず決めるのは、「売上の何%を社員に還元するか」という総枠(ゴール)です。

これを労働分配率と呼びます。

推奨分配率の目安

等級責任売上の範囲推奨分配率
一般(L1-L4)自身の売上30%
主任(L5)自身+α30〜35%
課長(L6)チーム売上10〜15%
部長・役員事業部売上3〜5%

計算式はシンプルです:

年間総人件費枠 = 年間売上実績 × 分配率

例えば、L4の社員が年間2,000万円の売上を上げた場合:

 2,000万円 × 30% = 600万円(この社員の年間人件費枠)

この600万円が、月給・賞与を含めた「この社員に払える総額」の目安になります。


STEP 2:月給の下限(固定枠)を設計する

次に、売上が目標ギリギリだったとしても最低限保証する「固定年収」を設計します。

ここでは「月給14ヶ月分」を標準とします。月給12ヶ月分 + 夏冬の賞与で各1ヶ月分 = 14ヶ月分。

等級別の下限年収イメージ

等級下限年収(固定枠)月給(÷14)固定賞与
L6 課長520万円37万円37万円
L5 主任455万円32.5万円32.5万円
L4 一級390万円27.8万円27.8万円
L3 二級325万円23.2万円23.2万円
L1 試用260万円20万円なし(寸志)

この固定枠が、会社としての人件費の「リスク」部分です。売上がゼロでも払う必要がある金額。

だからこそ、最低限保証できる金額を先に決めて、それ以上は業績次第で上乗せするという設計が重要なんです。


STEP 3:プロフィットシェア方式で賞与を計算する

ここが一番面白いところです。

夏賞与原資 = 総人件費枠(STEP1)ー 固定人件費(STEP2)

具体例:L4社員、売上2,000万円の場合

  1. 1. 総枠:2,000万円 × 30% = 600万円
  2. 2. 固定:月給27.8万円×12 + 冬賞与27.8万円 = 約361万円
  3. 3. 夏賞与原資:600万円 ー 361万円 = 約239万円

年収は361万円 + 239万円 = 約600万円。めちゃくちゃ夢がありますよね。

売上が振るわなかった場合(1,300万円)

  1. 1. 総枠:1,300万円 × 30% = 390万円
  2. 2. 固定約361万円
  3. 3. 夏賞与原資:390万円 ー 361万円 = 約29万円

辛うじてプラスですが、夏賞与はかなり少なくなる。

さらに売上が落ちた場合(1,200万円)

  1. 1. 総枠:1,200万円 × 30% = 360万円
  2. 2. 固定約361万円
  3. 3. 夏賞与原資:360万円 ー 361万円 = マイナス → 夏賞与なし(0円)

成果がなければゼロもある。 これがプロフィットシェアの厳しさでもあり、公正さでもあります。

ここで一つ、大事な話をさせてください。

「原資がないのに評価って意味ある?」問題

「売上が上がらなくて賞与原資がゼロなのに、評価ランクつけるの?」——これ、すごくリアルな疑問ですよね。

正直、原資ゼロのときに細かい評価ランクを出しても、社員にとっては「それで?」ってなります。S評価でもA評価でも、配る原資がないんだから結果は同じ。むしろ「頑張ったのに何ももらえない」という不満だけが残る。

だから、プロフィットシェアの賞与評価は原資があるときに初めて意味を持つ仕組みだと考えてください。原資がないときは、無理に差をつけるより、「今期は全社的に厳しかった。来期に向けてこういうアクションをしよう」というメッセージを出す場にしたほうがいい。

評価そのもの(行動面の振り返りや昇格判断)は原資がなくてもやる価値があります。でも、賞与の分配ゲームは、分配するものがあってこそ。この割り切りが運用をシンプルにします。


評価ランクによる賞与係数

賞与原資がある前提で、最後に個人の評価ランクで係数を掛けます。

評価ランク係数意味
S評価×1.2期待を大きく超えた。プールから上乗せ
A評価×1.0計算通り
B評価×0.8概ね達成だが、一部課題あり
C評価×0.5半分カット
D評価×0支給なし

S評価の社員には原資以上を渡す。その分はD評価の社員のカット分や、全体のプール金から補填します。

頑張った人には厚く、そうでない人には薄く。 シンプルだけど、これが一番納得感のある分配方法です。


オプション:全社業績連動係数

もう一歩踏み込むなら、全社の業績連動係数を掛け合わせる方法もあります。

最終賞与 = 個人原資 × 個人評価係数 × 全社業績係数

全社売上目標の達成率係数
120%以上達成×1.2(全員の賞与が2割増)
100%達成×1.0
80%未満×0.8(全員で痛みを分かち合う)
チームで成果を喜ぶビジネスパーソン

これを導入すると、「自分の成績だけじゃなく、会社全体の売上にも関心を持つ」ようになります。セクショナリズムの解消にも効果的。

ただし、導入初年度から入れると複雑になりすぎるので、制度が安定してからの追加をおすすめします。


中小企業がやりがちなNGパターン

NG①:全員一律で昇給する

「今年は業績が良かったから、全員5,000円アップ」。これだと評価制度がなくても同じです。差をつけないと、頑張っている社員のモチベーションが下がります。

NG②:賞与を「固定の○ヶ月分」にする

「うちは毎年2ヶ月分」と固定してしまうと、業績が悪い年に経営を圧迫します。また、成果を上げた社員もそうでない社員も同じ額なので、不公平感が生まれます。

NG③:市場相場を無視する

自社の支払い能力だけで賃金を決めると、採用で負けます。同業他社・同地域の相場は必ずチェックしてください。厚労省の「賃金構造基本統計調査」やハローワークの求人情報が参考になります。


まとめ

  • ・給与は「コスト」ではなく「投資」。この視点転換が賃金制度設計の出発点
  • ・賃金は「固定給(投資)」+「成果分配(変動給)」の2階建てで設計する
  • 労働分配率で「売上の何%を人件費に充てるか」の総枠を決める
  • ・月給は最低限保証する固定額。短期的な業績変動では下げない
  • ・賞与はプロフィットシェア方式。総枠ー固定=賞与原資で計算する
  • 評価ランクの係数を掛けて、頑張った人に厚く分配する
  • ・全社業績連動は効果的だが、安定運用してからの追加オプション

次回は最終回。3つの柱の3つ目「評価制度の運用」について、形骸化させない年間サイクルのまわし方をお伝えします。


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