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36協定が「無効」に?労働者代表の選出を正しくやる方法

仕事術

この記事でわかること

  • ・労働者代表の選出ミスで36協定が無効になった実例
  • ・「会社が指名」がNGな法的根拠
  • ・正しい労働者代表の選出手順【5ステップ】
  • ・選出の証拠を残すための実務ポイント

たった月1時間の残業で「書類送検」された会社の話

「月に1時間くらいの残業で送検されるわけないでしょ」

…されるんです、これが。

2026年2月、大阪南労働基準監督署が訪問介護事業を営む会社を書類送検しました。時間外労働は1日あたりわずか2〜6分、月に最大1時間。事務作業や報告業務のちょっとした残業です。

「え、それだけで?」と思いますよね。

ポイントは、36協定は届け出ていたというところ。届出はしていたのに、なぜ送検されたのか。

答えは、労働者の過半数代表者を会社が一方的に指名していたから。

労基署は「民主的手続きを経て選出されていない」と判断し、36協定を無効としました。36協定が無効=届け出ていないのと同じ。だから月1時間の残業でも、労基法第32条違反での送検になったわけです。

しかもこの会社、時間外労働の割増賃金も一切支払っていなかったとして、労基法第37条違反でも送検されています。


「36協定を出してればOK」じゃない

就業規則の作成や変更のとき、36協定の届出のとき、必ず出てくるのが「労働者の過半数代表者」です。

私たちが就業規則の作成を依頼されたとき、「労働者代表はどなたですか?」と聞くと、こういう返事がけっこう多いんですよね。

  • 「総務の○○さんにしておいて」
  • 「毎年、部長に頼んでる」
  • 「誰でもいいんでしょ?社長が決めちゃダメなの?」

全部ダメです。

労働基準法施行規則第6条の2で、過半数代表者の選出には明確なルールが定められています。

過半数代表者の選出ルール(法令根拠)

ルール内容根拠条文
管理監督者の除外労基法第41条第2号の管理監督者は代表者になれない労基則第6条の2第1項第1号
目的の明示「36協定の締結のため」等、目的を明らかにして選出する労基則第6条の2第1項第2号
民主的手続き投票、挙手、回覧など労働者の意思が反映される方法で選出する労基則第6条の2第1項第2号
会社の不介入会社が一方的に指名したり、特定の人物を推薦したりしてはいけない労基則第6条の2第3項

冒頭の事例では、「会社が一方的に指名していた」ことが問題になりました。これ、実は氷山の一角で、中小企業の現場ではかなりの割合で起きていることだと私は思っています。


こんな選出方法はNG

よくある「やってしまいがち」なパターンを挙げてみます。

パターン1:社長が「○○さん、よろしく」と指名

一番多いやつですね。社長や総務部長が「今年も○○さんにお願い」と直接指名するケース。これは完全にアウトです。

パターン2:管理監督者が代表者になっている

部長や工場長など、経営者側に近い立場の人が代表者になっているケース。労基法第41条第2号の管理監督者は、そもそも代表者になれません。

「うちの部長、そんなに権限ないし…」と思うかもしれませんが、管理監督者かどうかは役職名ではなく実態で判断されます。ただ、一般的に「部長」と呼ばれるポジションの人は管理監督者とみなされる可能性が高いので、避けた方が無難です。

パターン3:目的を伝えずに「代表者を決めて」

「今度届出するから誰か代表者決めといて」だけでは不十分。何の目的で選出するのかを労働者に明示する必要があります。「36協定の締結のために過半数代表者を選出する」と、きちんと伝えてから選出する。これが大事。

パターン4:形だけの「回覧」で選出

回覧板を回して「異議がなければ○○さんが代表者になります」というやり方。一見すると民主的に見えますが、実態として会社が候補者を決めているなら、それは会社の指名と変わりません。


正しい労働者代表の選出手順【5ステップ】

じゃあ具体的にどうすればいいのか。実務で使える手順をまとめます。

ステップ1:選出の目的を周知する

全社員に対して、「36協定の締結のために、労働者の過半数代表者を選出します」と周知します。

周知の方法は、メール、掲示板、朝礼、チャットツールなど何でもOK。「いつ・何の目的で・どうやって選出するか」を書面やデータで残しておくのがポイントです。

ステップ2:候補者を募る(または推薦を受け付ける)

立候補制でも、推薦制でも構いません。大事なのは、会社側が候補者を決めないこと。

  • ・立候補を募る(「やってもいいよ」という人を募集)
  • ・労働者同士で推薦し合う
  • ・前年の代表者が引き続きやるなら、改めて信任を取る

「毎年同じ人がやる」のは、それ自体は問題ありません。ただし、毎年きちんと選出の手続きを踏む必要があります。

ステップ3:投票・挙手・回覧で決定する

候補者が決まったら、労働者の過半数の支持を得ていることを確認します。

  • 投票:一番確実。無記名投票でも記名投票でもOK
  • 挙手:小規模な事業場なら、朝礼等で挙手による信任でもOK
  • 回覧:候補者名を記載した書面を回覧し、署名・捺印で賛否を確認

どの方法でもいいんですが、「過半数が賛成した」という事実を記録に残せる方法を選んでください。

ステップ4:選出結果を記録・保管する

ここが実務上めちゃくちゃ大事なところです。

以下の内容を書面やデータで残しておきましょう。

  • ・選出の目的(36協定の締結のため)
  • ・選出日
  • ・候補者名
  • ・選出方法(投票、挙手、回覧等)
  • ・賛成した労働者の数(過半数を超えていること)
  • ・選出された代表者の氏名

「うちはちゃんとやってます」と言っても、記録がなければ証明できません。労基署の調査が入ったとき、選出の適正さを証明できるかどうかが分かれ目になります。

ステップ5:代表者の意見を聴取し、協定を締結する

選出が完了したら、代表者と36協定の内容について話し合い、協定を締結します。代表者が協定書に署名(または記名押印)して、労基署に届出。

ここまでやって、初めて「有効な36協定」になります。


選出記録のテンプレート(参考)

実務で使いやすいように、選出記録に含めるべき項目を整理しておきます。

【労働者過半数代表者 選出記録】

1. 選出目的:36協定の締結のため
2. 選出日:令和○年○月○日
3. 対象事業場:○○事業所
4. 労働者総数:○名(管理監督者○名を除く)
5. 候補者:○○ ○○
6. 選出方法:□投票 □挙手 □回覧 □その他(      )
7. 結果:賛成○名 / 反対○名 / 棄権○名
8. 過半数要件:充足(○名中○名の賛成)
9. 選出された代表者:○○ ○○

こういった記録を毎年残しておくだけで、万が一のときのリスクが大幅に下がります。


就業規則の意見書も同じルール

ちなみに、過半数代表者の選出ルールは36協定だけの話じゃありません。

  • 就業規則の作成・変更時の意見聴取(労基法第90条)
  • 変形労働時間制の労使協定
  • 裁量労働制の労使協定
  • 育児介護休業法に基づく労使協定

これら全部、労働者の過半数代表者の選出が必要です。そして選出のルールは全部同じ。

「就業規則を作るとき、社長が総務部長を代表者に指名して意見書を書いてもらった」

これもアウトです。就業規則そのものが「適正に意見聴取されていない」と指摘される可能性があります。


私たちがサポートしていること

正直な話、労働者代表の選出って地味で面倒に感じると思うんですよね。「こんな手続き、本当にちゃんとやらないとダメなの?」って。

でも、冒頭の事例のとおり、ここを適当にやると36協定が丸ごと無効になる。36協定が無効になれば、たった月1時間の残業でも書類送検されるリスクがある。

私たち社会保険労務士法人 労務ニュースでは、36協定の届出はもちろん、労働者代表の選出手続きからサポートしています。

  • ・選出の案内文の作成
  • ・投票・回覧の方法のアドバイス
  • ・選出記録のテンプレート提供
  • ・36協定の作成・届出
  • ・有効期限の管理・更新リマインド

「36協定の届出は毎年やってるけど、代表者の選出って正直テキトーだったかも…」と思った方。今年からちゃんとやりましょう。やり方が分からなければ、気軽に相談してください。


まとめ

  • ・36協定は届け出ていても、労働者代表の選出に不備があれば無効になる
  • ・会社が一方的に指名した代表者では、協定は有効にならない(労基則第6条の2)
  • ・実際に月1時間の残業で送検された事例がある(大阪南労基署・令和8年2月)
  • ・選出は「目的の明示→候補者の募集→投票等で決定→記録保管」の手順を踏む
  • 選出の記録を残しておくことが最大のリスク対策
  • ・就業規則の意見書など、36協定以外でも同じルールが適用される

36協定を届け出ること自体は、多くの会社がやっています。でも「代表者の選出がちゃんとできているか」まで見ると、怪しい会社はけっこう多い。ここを適正にやるだけで、無用なリスクを回避できます。

「うちの選出手続き、大丈夫かな…」と少しでも不安があれば、一度確認してみてください。


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