この記事でわかること
- ・最低賃金の上昇に「耐える」のではなく「設計で対応する」という考え方
- ・ストラック図を使って自社の利益構造を可視化する方法
- ・一人当たり売上・粗利から人件費の上限を逆算する計算方法
- ・生産性が上がるビジネスモデルと上がらないモデルの違い
- ・社員に「賃金と売上の関係」を理解してもらうための評価制度の工夫

最低賃金、もう「耐えるだけ」では無理な時代です
最低賃金の話をすると、多くの経営者の方が「またか…」という顔をされます。正直、その気持ちめちゃくちゃわかります。
2025年度の最低賃金は全国加重平均1,121円。前年から66円アップで、引き上げ率6.3%は過去最高です。しかも、全都道府県で初めて1,000円を超えました。
さらに厳しいのが、政府が骨太方針2025で打ち出した目標。「2029年までに全国平均1,500円」です。つまり、あと4年で約380円上がる計算。年間にして約7%ずつ上がり続けるということですね。
これ、パートさんを多く雇っている会社だと、年間の人件費が数百万円単位で増える話です。
私のところにも「最低賃金が上がるたびに利益が削られていく、どうしたらいいですか」という相談がよく来ます。大変ですよね。本当にそう思います。
ただ、正直に言うと、「毎年上がるのを指をくわえて見ているだけ」では、もう立ち行かないんですよね。だから今日は、「耐える」のではなく「設計で対応する」という話をしたいと思います。
一緒に考えていきましょう。
「コスト削減」ではなく「売上構造の設計」で対応する
最低賃金が上がったときに、真っ先に思いつくのがコスト削減です。シフトを減らす、残業を減らす、人を減らす。
気持ちはわかります。でも、これだけだとサービスの質が落ちて売上も下がるという悪循環に入りがちなんですよね。
私が経営者の方にいつもお伝えしているのは、こういうことです。
「賃金が上がるなら、それを払える売上構造を先に設計しましょう」
つまり、発想の転換です。
- NG:賃金が上がった → 人件費を削るしかない
- OK:賃金が上がる前提 → その人件費を払えるだけの売上をどう作るかを逆算する
これ、順番が逆なんです。多くの会社は「売上が先、賃金は後」で考えますが、最低賃金がどんどん上がるこの時代は、「必要な人件費が先、それを実現する売上が後」で設計するほうが合理的です。

ストラック図で自社の利益構造を丸裸にする
「売上から逆算しろ」と言われても、じゃあ具体的にどうやるの?という話ですよね。
ここで便利なのがストラック図です。聞いたことない方も多いかもしれません。簡単に言うと、会社のお金の流れをボックス(箱)で可視化する図です。
ストラック図の基本構造はこうなっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 売上高 | 会社に入ってくるお金の総額 |
| 変動費 | 仕入や外注費など、売上に比例して増減するコスト |
| 限界利益(粗利) | 売上高 – 変動費。自社の「稼ぐ力」 |
| 人件費 | 給与・社保・賞与など |
| その他固定費 | 家賃・光熱費・通信費・リース料など |
| 経常利益 | 限界利益 – 固定費全体。最終的に残る利益 |
ポイントは、限界利益(粗利)のうち、人件費にいくら使えるかがはっきり見えることです。
たとえば、こんなケースで考えてみましょう。
- 売上高:1億円
- 変動費:4,000万円
- 限界利益:6,000万円
- 人件費:3,600万円(限界利益の60%)
- その他固定費:1,800万円
- 経常利益:600万円
この会社では、限界利益6,000万円のうち60%を人件費に使っています。この比率を「労働分配率」と言います。
最低賃金が上がって人件費が200万円増えたら? そのまま放置すると経常利益は600万円→400万円に下がります。利益が3分の1も吹っ飛ぶわけです。
だから、先にこの図を描いて、「人件費がいくらまでなら大丈夫か」「そのためにはいくら売上が必要か」を逆算するのが大事なんですよね。
一人当たり売上・粗利から人件費の上限を逆算する
ストラック図で全体像が見えたら、次は一人当たりの数字に落とし込みます。ここがポイントです。
逆算の手順
ステップ1:一人当たり人件費の「上限」を決める
労働分配率の目安は業種によりますが、中小企業では55%〜65%が一般的です。
- 限界利益 6,000万円 ÷ 社員10人 = 一人当たり限界利益 600万円
- 労働分配率60%なら → 一人当たり人件費の上限 360万円
ステップ2:最低賃金の上昇分を試算する
フルタイムパートの場合、年間の法定上限は2,085.71時間(52.14週 × 40時間)、月換算で173.8時間です。
時給が66円上がると → 月額約11,470円 → 年間約13.8万円の人件費増(社保込みで約16万円)。
10人いれば、年間で約160万円の追加コストです。
ステップ3:その分の売上をどう作るか考える
追加人件費160万円をまかなうには、変動費率40%の会社なら、
160万円 ÷ 限界利益率60% = 約267万円の売上増が必要。
月に換算すると約22万円。これくらいなら、新規顧客1〜2件や単価アップの工夫で十分到達できる数字じゃないですか?
ザックリでもいいので、こうやって「いくら足りないのか」を数字で把握することが第一歩です。
生産性が上がるビジネスモデルと上がらないモデルの違い
ここまでで「売上を上げればいい」という話をしましたが、そもそも売上を上げやすいビジネスと上げにくいビジネスがあるんですよね。
生産性を上げやすいモデル
- 知識集約型:コンサル、士業、IT、デザインなど。一人の知識やスキルが売上に直結する
- 仕組み化できるビジネス:ECサイト、サブスク、会員制サービスなど。仕組みで売上が回る
- 単価を上げやすいビジネス:専門性やブランド力がある業種
これらは、人を増やさなくても売上を伸ばせる余地があります。
生産性を上げにくいモデル
- 労働集約型:飲食、介護、清掃、小売など。人の手が必要で、一人の生産量に物理的な上限がある
- 単価が固定されやすいビジネス:公定価格や市場価格に縛られる業種
こちらは、生産性を上げるのに工夫が要ります。でも、不可能ではない。
たとえば、飲食業でも「ランチの回転率を上げるオペレーション改善」「テイクアウト・デリバリーの追加」「高単価メニューの開発」で一人当たり売上は上げられます。
大事なのは、自分のビジネスがどっち寄りかを正直に把握して、打ち手を選ぶことです。

AI活用で「人を増やさず成果を上げる」具体例
生産性を上げる手段として、いま最もインパクトが大きいのがAI活用です。これは業種を問いません。
中小企業でもすぐ始められる例をいくつか挙げます。
事務・バックオフィス系
- ・請求書・見積書の自動作成(ChatGPTやClaudeで下書き → 確認するだけ)
- ・議事録の自動文字起こし・要約
- ・給与計算や勤怠チェックの自動化
営業・マーケティング系
- ・顧客への提案書をAIで作成(一人で3倍のスピード)
- ・SNS投稿やブログ記事のAI作成で、広告費をかけずに集客
- ・問い合わせ対応のチャットボット化
現場・オペレーション系
- ・シフト作成の自動化
- ・在庫管理の需要予測
- ・マニュアル作成・教育コンテンツのAI化
たとえば、うちの事務所でもAIを使って議事録作成や文書作成の時間を大幅に短縮しています。今まで1時間かかっていた作業が15分で終わる、みたいなことが普通に起きています。
政府もAI導入を支援していて、IT導入補助金(最大450万円)や省力化投資補助金(最大1億円)などの制度もあります。使わない手はないですよね。
社員にも「賃金と売上の関係」を理解してもらう
ここまで経営者目線の話をしてきましたが、もう一つ大事なことがあります。
それは、社員にも「自分の給料がどこから出ているか」を理解してもらうことです。
相談をいただく中で感じるのですが、「賃金を上げてほしい」と言う社員と、「上げたいけど原資がない」と悩む経営者の間に、認識のギャップがかなりあるんですよね。
このギャップを埋めるのに有効なのが、評価制度に売上や粗利の要素を入れることです。
具体的なやり方
- ・一人当たり売上目標を設定して、達成度を評価に反映する
- ・粗利率の改善をチームの目標にして、改善した分をインセンティブに回す
- ・ストラック図を社内で共有して、「うちの会社のお金の流れ」を全員が理解できるようにする
「売上が伸びたから給与が上がった」「自分たちの工夫で利益が増えた」という実感があると、社員のモチベーションがまるで変わります。
最低賃金が上がる時代、経営者だけが頑張るんじゃなくて、社員と一緒に「稼ぐ力」を上げていく。これが一番健全な対応だと、私は思っています。
どんなビジネスでも、評価に売上や粗利の要素を入れるのは大事なんじゃないかなと思うんです。賃金が上がっていく前提なら、なおさらですよね。
まとめ:最低賃金は「経営の設計力」で乗り越える
最後に、今日の内容を整理します。
- ・最低賃金は毎年上がる前提で経営を設計する。2029年に1,500円が政府目標
- ・「コスト削減」ではなく「売上構造の設計」で対応する
- ・ストラック図で自社の利益構造を可視化し、人件費の上限を把握する
- ・一人当たり売上・粗利から逆算して、必要な売上目標を明確にする
- ・自社のビジネスモデルが「生産性を上げやすいタイプか」を正直に判断する
- ・AI活用は業種を問わず生産性向上の最有力手段
- ・社員にも賃金と売上の関係を理解してもらい、評価制度に反映する
大変な時代ですが、逆に言えばちゃんと設計できている会社は強くなれる時代でもあります。
一緒に頑張りましょう。一人で悩まなくて大丈夫です。
人件費の設計や賃金制度の見直しでお悩みの方へ
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2026年の最低賃金については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

