ビジネスの世界で成功するためには、単なる取引関係を超えた信頼関係の構築が大事です。クライアントとの間に強固な絆を結ぶために必要な3つの条件と、それを実践するためのコミュニケーションについて記載します。
知人から友人へ—関係の質を高める
ビジネスの場では多くの「知人」ができますが、真の信頼関係を築くためには「友人的な存在」を目指すべきです。では、知人と友人の違いとは何でしょうか?
知人とは、名前や肩書きを知っている程度の関係です。
友人とは、お互いに何となく考え方や好みがわかる関係です。
「この人ならこう考えるだろう」「この人はこれが好きだろう」と予測できる関係性を指します。
友達には気軽に話しかけることができますよね。それはなぜでしょうか?
それは、話しかけても否定されないという安心感があり、また相手が自分の話に興味を持ってくれているとわかっているからです。
この「安心感」と「相互の関心」が友人関係の核心であり、ビジネス関係でも目指すべき質なのです。
クライアントとの関係も同様です。単なる取引先としての知人から、お互いの考え方や価値観を理解し合える友人的な関係へと発展させることで、長期的で強固な信頼関係が生まれます。
そのために必要な3つの条件を見ていきましょう。
①聞く姿勢を持つ
人間関係の基本は「聞くこと」から始まります。これは単に言葉を耳に入れるだけではなく、相手に対する関心と敬意を示す行為です。
効果的な「聞く」ためのポイント:
- ・適切な返事、頷き、リアクションで、相手に聞いていることを示す
- ・「なぜなのか?」「いつからか?」「どうやって?」と掘り下げる質問をする
- ・相手の感情、考え、経験の歴史に注目する
- ・話を最後まで聞き、途中で遮らない
- ・相手の意見や考えを否定しない姿勢を貫く
なぜこれが重要なのでしょうか?
人は本能的に、自分自身に最も興味を持っています。最後まで話を聞いてもらえること、そして否定されないという安全な環境があることで、相手は本音を話しやすくなり、信頼感が生まれます。
質問を通じて相手の内面に関心を示し、否定せずに受け入れる姿勢が、関係構築において何よりも効果的なアプローチなのです。
②感情を伝える
「何を考えているかわからない人」は「感情がわからない人」とも言えます。そのような相手とは深い関係を築くことが難しくなります。
感情表現のポイント:
- ・褒められたら「嬉しいです」と素直に喜びを表現する
- ・「お話しているととても楽しいです」と感じたままを伝える
- ・指摘を受けたら「とても勉強になりました」と感謝の気持ちを示す
具体例:
〈悪い例〉
クライアント:「先日のプレゼンテーション、役員全員から高評価でしたよ」
あなた:「ありがとうございます。次回の打ち合わせの日程ですが…」 (感情を表現せず、すぐに次の議題に移ってしまっている)
〈良い例〉
クライアント:「先日のプレゼンテーション、役員全員から高評価でしたよ」
あなた:「本当ですか!とても嬉しいです。準備に時間をかけた甲斐がありました。お役に立てて光栄です」(素直に喜びを表現し、そこから関係が深まる機会となる)
感情を適切に表現することで、あなたという人間の内面が見え、相手はあなたをより理解しやすくなります。これが信頼関係の土台となるのです。
③考えを伝える
行動や感情の背景にある「なぜ?」を共有することは、相手があなたを理解する重要な鍵となります。
考えを伝えるポイント:
- なぜそういう行動をとったのか
- なぜそう感じたのか
- なぜそう動いたのか
具体例:
〈悪い例〉
クライアント:「この企画書の方向性を変えたのはなぜですか?」
あなた:「より良いと思ったからです」(理由が抽象的で、考えのプロセスが見えない)
〈良い例〉
クライアント:「この企画書の方向性を変えたのはなぜですか?」
あなた:「最初の方向性も良かったのですが、御社のターゲット層の最新の消費傾向を分析したところ、より共感を得られるメッセージがあると気づいたからです。特に30代女性の購買決定要因が変化していることが調査で明らかになり、そこに合わせたほうが効果的だと考えました」(意思決定の背景にある思考プロセスと根拠を具体的に説明している)
これらの「なぜ」を説明せず、理由が見えない人は、時に不気味さを感じさせ、信頼を得ることが難しくなります。
あなたの意思決定や感情の根拠を共有することで、相手はあなたの価値観や思考プロセスを理解し、予測可能性が高まるのです。
実践:クライアントとの関係構築のために
これらの3つの条件を実践するための最も簡単な方法は、相手の歴史について質問することです。特に、会社と仕事の歴史を聞くことは、ビジネスの場では自然な会話の入り口となります。
効果的な歴史についての質問例:
- ・「会社を開業されてどれくらいになりますか?」
- ・「初めて従業員を雇ったのはいつ頃でしたか?そのときの感想は?」
- ・「事業内容に大きな転機はありましたか?どのような判断をされたのですか?」
- ・「開業する前はどのようなお仕事をされていたのですか?」
- ・「なぜ起業しようと思われたのですか?きっかけや当時の思いを聞かせてください」
これらの質問は単なる事実確認ではなく、相手の価値観や意思決定のプロセス、感情体験を引き出す効果があります。相手は自分の物語を語ることで、あなたに対して親近感を抱きやすくなるでしょう。
重要なのは、質問して相手の話を聞くだけではなく、そこに自分の感情や考えを適切に織り交ぜることです。
たとえば、
「創業当初は大変だったでしょうね。私だったら不安で眠れない日もあったと思います」「その決断は素晴らしいですね。私も似たような状況で悩んだことがあります」
というように、相手の話に共感しながら自分の視点や経験も少し開示することで、一方通行ではない、双方向の関係が生まれます。
この「聞く」と「伝える」のバランスが、ビジネス関係を友人的な信頼関係へと発展させる鍵です。
まとめ
- クライアントとの信頼関係を築く3つの条件は
- ・聞く姿勢
- ・感情を伝える
- ・考えを伝える
- です。
これらを実践することで、単なる知人以上の、友人的な信頼関係を構築することができます。
特に相手の会社や仕事の歴史を聞くことは、自然な形で相手の内面に触れる絶好の機会です。
相手の物語に真剣に耳を傾け、適切に感情や考えを表現しながら対話を重ねることで、ビジネスパートナーとしての関係はより深く、より価値あるものへと発展していくでしょう。
